楠葉の決意と告白
今年も今日で終わりです。小説を書き初めて10ヶ月ぐらいになります。色々有りましたがこれからも頑張りますのでよろしくお願いします。
ブクマ、評価などしていただけるとありがたいです。
久遠の言葉に大成達は驚きもしたがやっぱりと思った。
「久遠さん、帝国に行くんですか?」
大成が久遠に行き先を聞いてみた。しかし、返ってきた言葉は違った。
「いや、特に行き先は決めてない。元々、俺達はこの世界を見て回るつもりだったからな。」
「私達の新婚旅行だもんね。」
「そうですね、アゼディアには長く居すぎました。」
「私は、お父様とお母様が行くところに付いていくだけです。」
まぁ、簡単に言ってしまえば行き当たりばったりということである。そんな無計画を聞いた大成達は苦笑しつつ話を続けた。
「そう・・・ですか。まだ、色々教えて貰いたいことがあったんだけど。」
「仕方ありませんわ。私達は私達でやるしかないですわ。」
大成と瑞穂の会話から察した久遠達は、二人に言葉をかけた。
「大成君達なら大丈夫だよ。私達以外に勝てる人なんていないから。」
「ただし、満身はしないでください。」
「そうですね。強くなったとはいえまだまだ精進しなくてはいけません。」
「お前達なら大丈夫だろう。それで楠葉はどうする?」
先程から黙っている楠葉に久遠は尋ねた。
「・・・。私は・・・師匠達に付いていきたいと思っています。ですが、足手まといは嫌です。」
「なら、どれだけ強ければいいんだ?」
「師匠達と肩を並べるぐらいにならないと。」
「楠葉さん、それは無理ですよ?私達と楠葉さんでは学んだ時間が違いすぎます。ですが、今の楠葉さんの実力を示せばいいのではないですか?」
亜里沙の言葉に顔をあげるが直ぐにまた俯く。
久遠達と楠葉では圧倒的に修行の時間が違う。だが、楠葉は良しとしない。楠葉に流れる武人の血がそれを許さない。
そんな態度の楠葉を見て久遠は声をかける。
「楠葉、刀を抜け。」
久遠の言葉に大成と瑞穂は驚いた。今この場で戦うからである。しかも、真剣での勝負を。
「しかし・・・。」
「お前の実力を俺に示して見せろ!」
「・・・無理です。師匠に勝てるわけがない。師匠が納得するわけが「黙れ!!」な・・・。」
久遠は、楠葉の言葉に被せ怒鳴る。たまらず黙る楠葉。そして更に言う久遠。
「お前の覚悟はそんなものか?そんな覚悟で今日まで生きてきたのか?なら、死んだ者は浮かばれないな?何せ俺と戦う前から逃げている者に殺されたんだからな。浮かばれるはずもない。」
久遠の言葉を聞き、大成と瑞穂が何かを言いたげに久遠を見ているが何も言えない。言えるわけがない。何せ久遠の表情は今までに見たことがないくらい怒りをあらわにしているからである。
だが、そんな表情の裏側を知る華音達は違う。これは久遠なりの優しさでもあることを。
(また、一人奥さんが増えるかな?)
(ほんと兄さんは優しすぎます。そんな兄さんだから好きなんですが。)
(お父様は優しすぎますね。これで堕ちない女性はいませんよ?)
心の中で各々思う三人。だが、久遠は素でやっているため本人は無自覚である。
「で、どうする?俺と戦って実力を示すか?それともここで果てるか?」
更に、久遠の殺気が膨れ上がる。この状況下で楠葉はまだ立っていた。本来なら久遠の殺気を浴びて立っていられない。いくら久遠の殺気が本気でないにしても。
そして、楠葉は顔をあげ刀を鞘から抜いた。
「師匠、すいませんでした。今、決心しました。何としても師匠達に付いていきたい。師匠達と旅がしたい。そして、何より師匠が、いえ久遠殿が好きです!!」
突然の告白に驚く大成と瑞穂。しかし、驚いたのは大成と瑞穂だけであり、華音と亜里沙、カルディナは「やっぱり」と声を揃えた。
楠葉は、告白と同時に久遠に斬りかかった。しかし、久遠は簡単に受け流す。だが、楠葉の攻撃は止まない。むしろ、連撃のスピードが少しずつ速くなっている。
「まだまだこんなもんじゃないだろ?もっと本気を出せ!!」
「当たり前です!まだこれからです!」
更に楠葉の剣速が上がる。そのスピードは既に目で追える領域を突破していた。なら、何故久遠が受け流せるかと言うと見えているからである。ちなみに、この時点で見えていないのは大成と瑞穂、ユミルである。
時間にしてどれだけ刃を重ねただろう。時間すら忘れている二人に華音が言う。
「二人共、そろそろ終わりにしたら?」
その言葉で二人は一旦距離をとる。
「そうだな。次で終わりにしよう。」
「そうですね、私の最後の一撃を受けてください。」
お互いに最後の一撃を放つため構える。そして、次の瞬間同時に動いた。
「綾波 楠葉、参る!!」
「皇 久遠、参る!!」
両者が中央でぶつかりあった。
そして・・・。
「目が覚めたか?」
楠葉は、目を開け自分を覗き込む久遠が目に入った。
「私は・・・負けたのだな。」
一言呟き身体を起こそうとしたが激痛が身体全体を襲う。
「まだ動くな。俺の一撃をくらったんだ、大人しくしていろ。」
「・・・はい。」
大人しくなる楠葉。そこに、華音、亜里沙、カルディナが顔を出す。
「久遠君に掠り傷とはいえ一撃を与えるなんて凄いね。」
「確かに凄いです。私ですらまだなのに・・・。」
「流石はお父様が認めるだけありますね。」
楠葉は、華音達が何を言っているのか理解できていない。
「えっ?私が久遠殿に一撃を?」
「あぁ、ここを見てみろ。」
久遠は、自身の頬を指差す。そこには、切り傷が出来ていた。血は止まっているが確かに刀傷である。
「久遠君、楠葉ちゃんの同行は許可されるよね?」
「兄さんに傷を負わせたのですから当たり前ですよ、姉さん。」
「これで、また一人お父様の奥方様が増えますね。」
「これで許可しなかったら俺が悪者だな。」
と、言うと全員が笑い出した。ただし、大成、瑞穂、ユミルを除いて。
「本当についていってもいいのですか?」
「「「「もちろん(です)!!」」」」
「ありがとう・・・ございます。」
それだけ言うと楠葉の意識はなくなり、静かな寝息をたてはじめた。
「寝たな。」
「あれだけやったんだもん。疲れて当たり前だよ?」
「そうですよ、兄さん。」
「では、私がクズハ様をお運びしますね。」
カルディナは楠葉を抱き上げエルフ達から借りた家へと向かった。
そして、大成と瑞穂は久遠達の前に立ち言った。
「久遠さん、楠葉のことよろしくお願いします。」
大成と瑞穂は頭を下げた。
「わかった。で、二人はどうするんだ?と言うか俺達が使っていた家をやるからそこに住んでくれないか?」
「えっ?いいのですか?こちらからお願いするつもりだったのですが。」
「気にしなくていいよ?」
「私達には今のところ要りませんから。」
と、家を譲る久遠達。それを聞いた大成と瑞穂は安堵の表情をした。
「さて、今日はもう寝るか。明日に備えないといけないしな。」
久遠の言葉に全員が頷き、家に向かい眠りについた。
そして翌日・・・。
「じゃぁ、元気でな。」
「二人の子どもが出来たら教えてね?」
「お二人共にお幸せに。」
「鍛練は怠らないように。」
「二人共、今までありがとう。達者でな。」
華音と亜里沙の言葉で顔を真っ赤にする大成と瑞穂。
「「今日までありがとうございました。」」
大成と瑞穂は頭を下げお礼を言った。
そして、久遠達は龍の姿になったカルディナの背に乗り飛び去った。
久遠達が飛び去った後もしばし見つめていたが大成と瑞穂は向き合いお互いに頷いた。
「家に帰ろう。」
「そうですわね、私達の家に・・・。」
と、歩き出した後ろから声をかけられる。
「ちょっと待ってください。私を置いていかないでください。」
二人に声をかけたのはユミルであった。
「ユミル?何で着いてくるんだ?」
「あの方達に頼まれましたから。」
「だからといって・・・。」
「子供が産まれたら手伝ってあげてとカノン様とアリサ様に言われましたから。」
ユミルの言葉に大成と瑞穂は苦笑した。
「わかったよ。じゃぁ、帰ろうか。」
「「はい!!」」
こうして、三人は帰路についた。
ちなみに、久遠達は次の町の近くまで空の旅を満喫していた。
勇者育成編はこれで終わりです。次回からは新章になります。
読んで頂きありがとうございます。




