エルフの里へ
本日二話目です。
大成達がエルフの里に向かって進んでいる頃、遥か上空に一匹の龍が飛んでいた。
言わずと知れた久遠達である。カルディナが龍に戻り、陰ながら大成達を見守るためである。
「久遠君、下の様子は何にも起こらないね?」
「数時間前に出たばかりなのですから、そう簡単には起こりませんよ、姉さん。」
「この辺りも治安が良くなったからな。そう簡単には起こらないだろうな。」
「でも、盗賊ぐらいは出てもらわないと困るんだけどね。」
大成達は、まだ人を殺したことがない。久遠達は、大成達がどのような選択をするか見るために見守っている。殺すにしろ倒すにしろ、それは各自の判断に委ねた。ただ、倒すならそれでいい。しかし、殺す場合精神に異常が出たり殺人快楽のようになってしまっては困る。そうなった場合、久遠が自ら手にかけるつもりでいた。
「何となくだけど、大成と瑞穂は殺せないだろうね?」
「楠葉さんは、たぶん殺ると思います。楠葉さんは、日本で殺人剣みたいなものをやっていたように感じますから。」
「まぁ、意識の違いだろうな。未だに日本での考え方をしていたら無理だろうな。だから、あの時に見せたんだが。」
司教捕縛作戦の時に久遠は人を殺した。その姿を大成達に見せていた。しかし、目を背けず最後まで見ていたのは楠葉だけだった。そして、何より一番成長したのも楠葉である。
「久遠君、この旅が終わったら旅に出るんだよね?」
「そうだな。まだ、見ていない場所もあるし。」
「あの四人から誰か連れていくの?」
「さぁな?こればっかりは本人の意思になるからな。それに、俺達に付いてきたら厄介事に巻き込まれるだろうから実力もないとな。」
久遠は出来れば連れていきたくない、ただ本人が付いていくと言えば連れていくつもりである。ただし、試験をするつもりである。
「あっ、兄さん。下で動きがありましたよ。」
と、昼御飯のサンドイッチを食べながら言う亜里沙。全員が地上の大成達を見る。
と言うかどんな視力してるんだ?規格外にもほどがあるだろうが。
一方、大成達はエルフの里に向けて馬車を走らせていた。
午前中は何事もなく進み、昼食を食べまた進み出した。そんな時、お決まりの事が起こる。
「そこの馬車止まれ!!命が惜しければ有り金全て置いていけ!!」
そう、盗賊が現れたのである。一応、馬車を止める大成。だが、すぐに中から楠葉とユミル、瑞穂が飛び出してきた。
「おっ、上玉の女がいるじゃねぇか?どうやら馬車の中にも居るみたいだな。」
「お頭、もちろん女は生け捕りで男は殺すんですよねぇ?」
「当たり前じゃねぇか!!女は俺達が楽しんだ後売ればいいしな。」
盗賊達の気持ち悪い笑い声が聞こえてくる。馬車の中ではエルフ達が身を寄せあい震えていた。それを見た大成は盗賊達に言い放った。
「悪いがあんたらに渡すものは何もない。邪魔だから退いてくれないか?」
「あぁぁん?舐めた口聞いてんじゃねぇよ、くそガキが!!俺達を誰だと思ってやがる!泣く子も黙る盗賊団レッド・ウィングだぞ!!」
と、名乗りをあげる盗賊団の頭。名前を聞いた瞬間、楠葉が笑い出した。
「あはは、レッド・ウィング・・・。赤い翼・・・。赤くもなければ翼もない、何の意味もない。戯れ言を抜かすな!!」
楠葉の威圧をくらい盗賊団が怯む。
「大成に瑞穂、それにユミル。私が殺っていいか?」
「いや、俺もや「殺せるのか?」る・・・。」
楠葉が大成の言葉に被せた。そして、瑞穂とユミルを見た。
「倒すなら出来るだろう。だが、この世界はそんな生易しいものじゃない。あの時、師匠が見せたのが現実だ。殺るか殺られるか、これはゲームやアニメじゃない。ましてや夢でもない現実だ。」
「なら、楠葉は殺せるのか?相手は同じ人間だぞ?」
「出来るか出来ないかと言われれば・・・出来ると答える。だが、私とて好き好んで殺す訳じゃない。自分に害がある者、敵意を向けてくるもの、仲間に危害を加える者、殺しに来る者は容赦はしない。」
楠葉は、自らの覚悟を三人に聞かせた。
「例え、師匠が私に敵意を向けたのなら師匠でも殺す覚悟はある。」
三人は楠葉の言葉に驚いた。何せ、崇拝してやまない久遠すら殺すと言ったのだ。驚かないわけがない。
「楠葉さん、そこまでの覚悟が・・・。私にはそこまでの覚悟がありません。」
「私もです、ミズホ様。」
「殺さずに済むならそれに越したことはない。私も出来れば殺したくはないからな。ただ、覚悟は持っていた方がいいと私は思う。何時なんどきどのようなことが起こるか判らないからな。」
そう言うと楠葉は盗賊達を見る。そして、刀を鞘から抜き構える。
「俺達と戦うのか、嬢ちゃん?」
「あぁ、そのつもりだ。」
「あんまり俺達を舐めんなよ?お前達、痛い目を見せてやれ!!」
「「「へぃ、お頭!!」」」
盗賊達は楠葉に襲いかかる。
「妃◯羽衣!!」
ここに炎を纏った紅○の皇女が降臨した。背中には赤い翼を生やして。
「な、なんなんだよあれは?」
「明らかにヤバイぞ!」
口々に楠葉を見た盗賊達が言う。
「綾波 楠葉、参る!!」
直後、楠葉は一直線に盗賊達の元へ走る。すれ違い様に盗賊達の腕や足を斬り、致命傷を与えていく。何人かは楠葉の攻撃の場所から離れていたため大成達の方へと行くが難なく無力化された。
そして、楠葉は遂に盗賊の頭の元へと辿り着いた。
「た、頼む、見逃してくれ。」
「お前は命乞いする者を殺してきたのだろ?今更じゃないか?」
「もぅ、二度としない。だから、許してくれ。」
土下差をして謝る頭。楠葉は、刀を鞘に納め妃◯羽衣を解除した。そして、大成達の元へ帰ろうと振り返った瞬間、頭が叫んだ。
「甘いんだよ、クソガキがぁぁぁぁぁ!!」
楠葉に斬りかかる頭。だが、次の瞬間頭の首が胴体と離れた。
「折角、助かった命を無駄にするからだ。」
カチンと刀を納める音が辺りに鳴り響いた。ちなみに、命の助かった盗賊は次の町まで護送することになった。
何はともあれ、盗賊の襲撃を退けた大成達は再び歩き出した。
一方、空では・・・。
「やはり、楠葉さんが最初でしたね。」
「そうだな。」
「楠葉ちゃんは私達と同行したいって言うだろうね?」
「まぁ、その時はその時だな。」
お菓子を食べながら会話をしている三人。この場所だけ空気が明らかに違いすぎる。
『私にも何か食べさせてください。』
「「「忘れてた(ました)。」」」
『ヒドイデス。』
ここだけ平和である。というか平和すぎる・・・。
勇者の出番が無いと言いながらガッツリ出てきています。たぶん、今後もガッツリ出てきます。
読んで頂きありがとうございます。




