亜里沙VS残念勇者?
亜里沙は双剣を構え、勇者を見据える。
「あ、亜里沙さん。僕は、貴女と戦いたい訳じゃない。僕が戦いたいのは、そっちの男です。」
と、勇者は言うが亜里沙は構えを解かない。
「何故、構えを解いてくれないんですか?僕は、貴女を傷つけたく・・・。」
勇者の目の前から亜里沙が一瞬にして消えたため、最後まで言うことが出来なかった。
勇者が亜里沙を探そうと首を振った瞬間、勇者の後ろから亜里沙の声が聞こえてきた。
「それ以上動くと首の血管が切れますよ?」
亜里沙は、一本の剣を勇者の首筋に当てていたのである。亜里沙は、なにも魔法を使って移動したわけではない。ただ、速く移動したに過ぎない。その速さが人の限界を超えた速さなだけである。
亜里沙のスピードを肉眼で捉えれたのは、久遠、華音、カルディナだけであり、他の勇者三人も捉えることは出来なかった。
「私を見失う様では、到底兄さんには勝てませんよ?兄さんの強さは私の何倍もありますから。」
亜里沙の言葉が勇者に重くのし掛かる。不意討ち気味とは言え、亜里沙を見失い今も剣を首に当てられている事実。勇者にとって亜里沙への返答次第では自分の首が飛ぶ。そんな恐怖と戦いながら答えようとする。
「あ、亜里沙さん。何故、そこまでして戦うんですか?貴女にとってあいつは何なんですか?」
『あいつ』と言う言葉に一瞬反応するも思い止まった亜里沙。そして、剣をそのままに答えた。
「大好きだからです。私が兄さんの事を愛しているからです。日本に居たときからずっと・・・。貴方だって好きな人を貶されたりしたら怒るでしょ?それと同じです。」
亜里沙の発言を聞き、勇者は驚いた。だが、言葉が出てこない。亜里沙の言うとおり自分も好きな人を貶されたりしたら怒るからである。そんな亜里沙の当たり前の感情を勇者は理解していなかったのである。そして、今理解したとしても既に遅い。
「それに、この世界に来て私は兄さんに告白しましたし。今では兄さんの妻ですから。たとえどんなことがあろうと、私は兄さんから・・・いえ、家族から離れることはありません。」
亜里沙にとって久遠は夫、華音は一緒に久遠を支える妻であり姉。そしてカルディナは姉妹という認識になっている。家族であり仲間なのである。
「・・・妻。そんな・・・。」
「現実を理解しましたか?それに貴方は私を一人の人間としてみていない。貴方は私を内閣総理大臣である北条源一郎の孫の北条亜里沙としてしか見ていない。ですが、兄さんは違いました。私を私として・・・一人の北条亜里沙として見てくれた。それが、私にとってどれだけ嬉しかったことか貴方にわかりますか?」
「・・・。」
現実を突き付けられ、何の言葉も出てこなくなった勇者。そんな勇者を見て亜里沙は、剣を首から離し久遠達の元へと歩き出した。
「・・・いうんだ。だから何だって言うんだよ!俺は亜里沙が好きなんだよ!俺の物にしたい。何故、俺じゃダメなんだよぉぉぉ!!」
黙っていたはずの勇者が叫んだ。そして次の瞬間、亜里沙に襲いかかろうと動いた。
「亜里沙を殺して俺も死ぬ。あの世で一緒に暮らそう!」
と、叫びながら勇者は持っていた剣を振り上げた。
「やはりその程度の考えのですね。」
と呟いた亜里沙は目を閉じた。そして、勇者の剣が振り下ろされた。
キィィィィィィン
振り下ろされた剣は亜里沙に届くことはなかった。
「亜里沙、俺が来なかったらどうしてた?」
「兄さんなら絶対に助けに来てくれると信じてましたから。」
「そうだな。家族に手をあげるやつは俺が許さない。たとえ同郷だとしてもな。」
亜里沙に振り下ろされた剣を止めたのは久遠だった。左手で剣を止め、空いている右手で勇者のお腹に一撃を見舞う。
「お前は、自分の行いを反省してこい。『覇◯断空拳』!!」
「ぐわぁ!!」
久遠の一撃により勇者は後方のクロウ王国軍が居る場所まで飛ばされた。
「いや、久遠君。今ここでそれをやる?場面的にはシリアスな場面だよ?」
「お母様、無駄です。お父様には場面など関係ありませんから。」
久遠の一撃に対してツッコミをいれる華音とカルディナ。それに対して勇者三人は・・・。
「まじか?アニメの技を使うなんて・・・。」
「本当ですね。普通はやろうとは思いませんから。」
「私にも出来るだろうか?一刀◯羅なんかいいな。どうせならもっと試したいな。」
一人だけやろうとしている勇者が居た。
「「ここに居たよ(居ました)!!」」
そして、久遠は三人の勇者の方を向き尋ねる。
「て、どうする?まだやる?」
勇者は両手をあげ降参の合図をした。
「勝てる気がしない。」
「無理ですね。」
「弟子にしてくれないか?」
最後の一人が場違いなセリフを言ったため残りの二人は声をあげた。
「「はぁぁぁぁ?」」
その瞬間、クロウ王国軍の方から声が聞こえてきた。
「全軍突撃!!」
クロウ王国国王の声である。久遠達と勇者の戦いの間に回復を行い、戦力を整えていたのである。
『マスター、我々が出ます。』
と、水の精霊王セシリアが言うと四大精霊王が顕現した。
クロウ王国国王は、四大精霊王が顕現したのを見て魔道具を使用した。これにより四大精霊王の力は封印された。
『お兄ちゃん、またあの魔道具だよ。力が出ないよぉ。』
「いや、対策したんじゃないのか?」
『ご主人様、対策してない。』
「はっ?なんで?」
『最近、俺達の出番が全然ないからだな。』
「いや・・・。」
『出番が減って寂しかったからです、マスター。』
出番欲しさに出てきたはいいが何も出来ない四大精霊王。そんな時、華音と亜里沙から声をかけられる。
「久遠君、国王が持ってる魔道具のせいだよね?」
「あれは四大精霊王の力を封印するものですよね?」
「そうだ。」
「なら、私達がやるよ。」
「私達の精霊王なら問題ないはずです。」
と、言い二人は久遠の前へと出た。そして、精霊王を顕現させた。
「おいで、光の精霊王『レイ』!」
「来なさい、闇の精霊王『マリア』!」
光と闇の精霊王が顕現した。
光と闇の精霊王の実力や如何に?
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