参加する?しない?
クロウ王国からの宣戦布告の手紙を教皇が読んだ翌日。
久遠達は家のリビングでフェンと何故かミルフィと向かい合って座っていた。
「で、何しに来た?ただ「昼飯を食いに来た」と言う訳じゃないんだろ?」
と、フェンだけならいざ知らずミルフィ迄居ることに本題があると思っていた。
「いえ、私は昼食を頂きに来ただけなのですが?」
と、答えるフェン。どうやら、フェンは本当に昼食を食べに来ただけのようだ。
「フェンは、クオン様の家に行くと聞いたので私がついてきただけです。」
「では、ミルフィさんが私達に用事があるのですね?」
と、亜里沙がミルフィを見ながら言う。
「・・・はい。」
「戦争への参加はお断りだよ?」
「な、何故それを?い、いえそう言うわけではなく・・・。」
「やっぱりね。何か慌ただしい雰囲気が街全体に感じられたから。もしかしたらと思ったんだけど当たりだったみたいだね?」
妙に鋭い華音は、ミルフィの訪問がタイミングが良すぎると思ったのである。
「え?ミルフィ様、それは本当なんですか?」
どうやらフェンら何も聞かされていないらしく驚いていた。
「そこまで分かってしまっていては隠す必要はありませんね。その通りです、カノン様。アゼディアは、クロウ王国より宣戦布告をされました。事の発端は、元司教の脱獄にクロウ王国の間者が関わっていた事への報告と謝罪の要求の手紙を父である教皇が出したことです。」
「それで、返答が宣戦布告だと?」
「はい・・・。」
ミルフィは、理由を説明し久遠達の言葉を待った。
しかし、久遠達から返ってきた言葉はあまりにも無情なものだった。
「クオン様、人間達の争いに私達が出る必要はありません。むしろ、私達が何処の国から参加するかによって問題が生じるかと。」
「そうだね、カルディナの意見も最もだね。もし、戦争に参加するなら第三勢力になった方が色々と都合がいいかもしれないね?」
「ですが、姉さんにカルディナさん。今私達が住んでいるのはこの国です。でしたら、この国のために参加してもいいとは思うのですが・・・?」
ミルフィは、華音とカルディナの返答に愕然としたものの、亜里沙の返答でやや表情を和らげた。
だが、肝心の久遠は未だに口を閉ざしたままである。華音とカルディナが言うことは、自分のいや、自分達の自由に生きていくことになる。しかし、亜里沙が言うこともわかる。少なくともアゼディアで生活し、知り合いも増えた。だから、守りたいと。そんな時、不意に何処からか声が聞こえてくる。
『クオン、迷っているなら自分の思う通りに行動しろ。俺は、いや俺達はお前達が幸せになってくれればそれでいい。』
何処からともなく聞こえてきた声に久遠の心の中にあったつっかえが綺麗に消え去った。そして、久遠が出した答えは・・・。
「皆の気持ちはわかった。だから、今から俺の意思を伝える。」
久遠以外の全員が唾を飲み、久遠の答えを待った。
「俺は、この争いに参加しない。」
「えっ?そ、そんな。」
「に、兄さん?」
亜里沙とミルフィが声をあげる。しかし、久遠はまだ何か言いたそうな二人を遮る。
「だが、クロウ王国が勇者を出してきたなら参加する。それが、この無駄な争いに参加する条件だ。」
今度は、華音とカルディナが声を出す。
「久遠君、参加するの?あ、でも勇者が出てきたらなんだよね?出てこなければ参加しないんだ。なら、いいかな?」
「クオン様、この様な無駄な争いをする人間にクオン様が出る必要はありません。参加するなら私だけで充分です。」
と、何故か戦争に参加することに同意する二人。
「それが、納得できないならアゼディアを出ていく。それでいいか?」
と、久遠は全員を見渡す。
全員が頷いて答えた。
「わかりました。父にはその様に伝えます。ですが、もし父が冒険者ギルドに依頼を出された場合はどうしますか?」
と、ギルド経由での依頼を受けるかと尋ねるミルフィ。
「例え、ギルドからの依頼であっても受けるつもりはない。その依頼が強制依頼であってもな。もし、そんな事になってもギルマスがどうにかするだろ?」
と、久遠は答える。実際、ギルマスは久遠達をアゼディアのギルドに常駐してほしいと思っている。実力もさることながら人間関係も良好であるため手放したくはないのである。
「確かにそうですね。あの方ならどうにかしてしまいそうです。わかりました、これから城に戻りクオン様達の意思を父に伝えてきます。」
と、言い席を立つミルフィを止めたのは華音だった。
「ミルフィの事だから都合よく話したりはしないだろうけど・・・。ちゃんと話してね?それと、もし騎士団や魔法師団の訓練が必要なら私達が手を貸すからね?これも、教皇に伝えてもいいよ?」
「ほ、本当ですか?訓練をつけていただけるのであればこちらからお願いしたいぐらいです。」
と、飛び上がって喜びそうな勢いのミルフィ。だが、追い打ちがあった。
「ですが、姉さんの訓練は・・・地獄ですけどね。」
「うん?何か言ったかな、亜里沙ちゃん?」
「い、いえ何も言ってませんよ、ね、姉さん。」
「ならいいけどね。そう言うことだから正式に決まったら教えてね?」
「もちろんです。では、これで失礼します。行きますよ、フェン。」
と、ミルフィはフェンを呼び城へと戻っていった。
「アリサ様の言いたいことはわかります。カノン様の訓練は地獄ですから。」
と、カルディナは堂々と言ってしまった。
「カルディナ?どういう意味かな?まさか、そんな事を思っていたなんてお母さんは悲しいよ。」
「カ、カノン様、悲しいと言いながらそ、その手に持っている物は何ですか?」
と、カルディナは華音の手に持たれている剣を指差した。
「うん?これはね、もう一度娘のカルディナを調教するための物だよ?」
「字が違いますから。教育が正しくて調教ではありませんから。」
と、言いながら久遠に助けの視線を送るが・・・。
「ほら、お父さんも再調教っていう顔をしてるよ?と、言うわけだから少しの間よろしくね、久遠君。」
と、華音は言うとカルディナを連れて何処かへ言ってしまった。
「カルディナさんが生きて戻ってきますように・・・。」
カルディナの命運を祈る亜里沙だった。久遠は久遠で久し振りにあの様な華音を見たため若干震えていたとかいなかったとか。
その後、華音とカルディナが無事?に帰って来た。しかし、カルディナの様子が変わっていた。
「お父様、私はお母様に再度調教していただき無事に変わることが出来ました。これからもお二人の娘であることを誇りに何時までもご一緒させてください。」
華音がどのようにしたのか判らないが、カルディナはこれ以降久遠と華音の事をお父様とお母様と呼ぶようになった。
恐るべし華音の調教である。
カルディナの教育完了。華音はどんなことをしたかは私ですら知りません。というか思い付きませんでした。
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