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「あなたたちはどうしてもここから去らないと言うのですの?」
「お姉さま、ここはやはり一度引き返して……」
「「嫌よ!」」
お姉さまをなだめて出直そうとした矢先に、お姉さまだけではなく天さまにまでも拒否されてしまいました。それを見ていた美雷さんは怪訝そうな顔で私を見つめました。
「あなた、やっぱりちょっとどこかおかしいんじゃないかしら?」
「失礼ね。あたしはちょっとどころか根本的に普通じゃないわ!」
「天さま!!」
天さまと私がひとり漫才で揉めていると、いつの間にかお姉さまが隣から消えていました。
「ごめんくださーい」
「入っちゃダメーー!!!」
美雷さんが天さまに気を取られた隙を突いてお姉さまはすたすたと先に入って行ってしまっていました。その後を美雷さんが慌てて追いかけます。私はついて行っていいものかと考えていると、勝手にお姉さまを追いかけて足が歩きだしていました。
「止まって! 止まってー! と、止まらないと撃つーっ!!」
「ん?」
お姉さまは美雷さんの警告に一瞬振り返りましたが、首を傾げた後、構わず奥へと進んでいきました。さらに天さままでもお姉さまを追いかけて美雷さんを追い越して走っていきます。
「あの、美雷さん、ごめんなさ……」
「……別雷の名により、……我が敵を滅す」
申し訳なく思った私が首だけ振り返って美雷さんに謝ろうとした時、美雷さんは手元で何か印を結んで呪文を唱えているところでした。何でしょう? この呪文にはどこかで聞き覚えがある気がします。 はて?
お姉さまも思うところがあったのか、足を止めて美雷さんの方を振り返りました。しかし、待っていても何も起きる様子はありません。
「あれ? …………別雷の名により、……我が敵を滅す。……どうして!?」
美雷さんもおかしいと思ったのか、もう一度同じ呪文を唱えますが、やはり何も起こりません。
「だって、じじいがあたしや姫ちゃんに攻撃できるわけないじゃん。そんなことをしたらどんなお仕置きが待ってるか、分かってるもんね。にひひ」
「ひっ」
天さまが私の顔を使ってにやりと微笑むと美雷さんが怯えたように顔を引きつらせました。私は美雷さんとお友達になりたいので、あまり怖がらせるようなことはしてほしくないのですが……。
「あ、賀茂別雷大神の!」
お姉さまがはっと思い出した様子でそう言いました。そう言えば、その名前は覚えています。お爺さんの神様でちょっとエッチな方で、お姉さまに縛り上げられて三重塔の天辺から吊り下げられていました。あの時に土気色に変色していた顔色は今でも思い出せます。
「そんな、式が発動しないなんて……」
美雷さんはそんなことを呟きながら後ろへと後ずさりしていきました。
「お、覚えてなさいよ。次こそは……分かってるでしょうねっ(泣」
そして、それだけ言うとばたばたと階段を駆け下りていってしまいました。途中、足をもつれさせそうになっていてはらはらしましたが、無事に下りていけたみたいです。
その後、お姉さまと私は陰陽部の部室へと向かいました。私が美雷さんの許可をもらっていないことを言うと、お姉さまは美雷さんが道を譲ってくれたので中を見ても問題ないのではないかと言っていました。