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「はははー、じゃないわ、天!! これは一体どういうこと? 帰ってきた先がこんな風になってるなんて聞いてないわよ」
「あたしも知らないよ。大国主の趣味じゃないかな?」
「あの豚かっ」
豚というのは大国主さまのことです。天照大神さまを解放して私たちを現代に送ってくれた恩人です。そんなすごい方なのにどういうわけかお姉さまは大国主さまのことを悪く言っているときがあります。燃え豚(?)だとか課金中(?)だとかロリコーン(?)だとか。
「んー、でも、今の姫ちゃんは昔とは違って神力に溢れてるからね。そのまま普通の生活に戻ったらそれはそれで大変なことになってたと思うよ」
「……真面目そうな話をしながら人の胸を揉もうとしないくれる?」
「むー。せっかくその溢れる神力の有効活用を考えてあげようと思ったのに」
「それは神力じゃないっ!」
いつの間にか体の制御が天さまに完全に奪われていて手で後ろからお姉さまの胸をわしづかみにしていました。共有する感覚から流れ込む柔らかくて温かいお姉さまの体の感触やうなじから漂う素敵な香りに思わず理性がノックアウトされそうになって、
「ちょ、天さま、ダメです。お姉さまを離してください」
慌てて体の制御を取り戻してお姉さまから離れました。
「お姉さまの嫌がることを私の体でしないでください」
「そんなこと言って、本当はもっと密着して欲しかったんでしょ」
「そ、……そんなことは……」
「ほらほら、またくっついちゃうよー」
「やめなさい」
ゴツン
「「あ、痛た」」
「いい加減にしなさい。雪が困ってるでしょ」
「はい」
お姉さま、助けていただいたのは嬉しいのですが、頭を叩くと私まで痛いのですが……、いえ、なんでもありません。
とにかく、その後は天さまがいたずらをすることはなく、その他トラブルもなく、無事に龍珠学園に到着しました。
この龍珠学園というのは市の外れにある小山を丸ごと使って建てられた学園です。正門は山のふもとにありまるで高名な寺院の山門のようでした。そこに楚々とした小袖袴の女子学生たちが三々五々と吸い込まれるように入って階段を昇っていく様子は大変優美な様子であります。
「……エスカレーターが欲しいわ」
「姫ちゃん、せっかくの雪ちゃんのナレーションが台無し」
「だってそうでしょ。学校の中にこんな長い階段があるなんて聞いてないわ。何が嬉しくてこんな山の上に学校なんて立てたのかしら」
「それはこの山が神力に溢れる霊山だったからなのですわ」
階段を登り切ろうとするところで不意に頭上から声を掛けられ、お姉さまと私は思わず顔を上げました。するとそこには、長い黒髪を縦ロールに巻いたお嬢様が仁王立ちに立っていました。
「黒髪なのに縦ロールって一体どういうことなの!」
お姉さまが何かを咎めるように叫びましたが、その意味はよく分かりませんでした。
「……あなた方が転入生の方ということですわね」
「はい。あ、お迎えの方ですか? よろしくお願いします。」
「あなたが神具夜姫子さんでそちらが天宮雪乃さんですわね。私は千空美雷です。お二人にこの学園に入学するに当たって一言忠告するためにここまで来ましたのよ」
「それはご丁寧にありがとうございます」
頭を下げてお礼を言う私の横で、お姉さまはなんだか複雑な笑みを浮かべていらっしゃいました。
「かぐや姫と天照大神の現代転生録(仮)」をお読みいただきありがとうございます。
本作は「【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】」という作品の後日談として企画された作品で、前作の完結で現代に戻ってきた主人公がその時に得た力やその他もろもろのために現代でも事件に巻き込まれてしまうという話になります。
こちらが前作のリンクです。
http://ncode.syosetu.com/n8876x/
本作を読むにあたって前作が既読である必要はありませんが、もし読んでいればニヤニヤする部分も多くなるかとは思います。ただ本作とは違い文体が独特なので無理におすすめはしません。自己責任(?)でお楽しみください。
今後の投稿ですが、毎日1話投稿のペースで続けて行こうと思います。1話の分量はこのくらいでやや少なめですがこれは前作を踏襲する形にさせていただいています。
では、完結までの短い間、最後までお付き合いいただければと思います。