3-1
「姫さま、姫さま!」
ある日、玄関の呼び鈴が騒がしく鳴らされたので、何事かとドアを開けてみると黒髪の猫娘が飛び込んできました。
「姫さま、お懐かしゅうございます」
「墨!?」
「はい!」
それは平安時代にいたときお姉さまと契約して使い魔として使えていた墨ちゃんという黒猫でした。元々はただの猫だったのですが、いつの間にか猫娘へと進化して、現代に戻る直前には天さまから九尾の尻尾をいただいていました。
お姉さまは墨ちゃんをもふるのが大好きで、のんびりするときはいつも墨ちゃんを膝に乗せて耳や尻尾をもふっていたという記憶があります。そういう時は墨ちゃんも頬を染めながらもまんざらでもない表情をしていたものです。
「この1000年、姫さまの転移を心待ちにしてました」
「久しぶりだわ、墨。元気にしてた?」
「はい。この通り」
墨ちゃんはお姉さまから少し離れるとふわりと宙に浮いてくるりと前宙で一回りしました。ちょっと驚きましたが、そう言えば墨は九尾の尻尾と同時に神格ももらっていて、武甕槌たちとの戦いにも参加していたのでそのくらいのことはできて当然なのでした。
「墨。あっちでちょっとよく見せて」
と、お姉さまは何を思ったのか墨の手を取って部屋の方へと戻っていきました。私も慌てて後を追います。
「墨、袴を脱いで」
「……」
ちょ、お姉さま。まだ日も高いのにいきなり女の子の袴を脱がせるなんて破廉恥ですよ。あ、墨ちゃんもあんなに頬を染めて……
私がびっくりしている間に、顔を真っ赤にした墨ちゃんが袴を下ろしてお尻をお姉さまの方に向けました。お姉さまはそんな墨ちゃんのお尻を手で撫でながらじっくりと観察しています。
「やっぱり」
「姫さま、ごめんなさい」
お姉さまが額に手を当てて一言つぶやくと、墨ちゃんがしょぼんとした様子で謝りました。何か思っていた雰囲気と違います。一体何があったのでしょう?
「で、尻尾はどこへやっちゃたのかしら?」
尻尾と聞いてハッと気づきました。墨ちゃんの尻尾はもふもふたっぷりの尻尾がお尻から9本生えているはずなのです。ですが、言われてみると数が少ないような気がします。
「墨ちゃん、ごめん」
「はぁん」
私も墨のお尻に駆け寄って尻尾の付け根の数を数えてみたら、確かに7本しかありませんでした。
もふもふもふもふ
尻尾の数を数えているうちにもふもふを触るのが楽しくなってきて、当初の目的を忘れてもふもふを堪能してしまいました。すると、それを見たお姉さまもいつの間にか参戦してきて、しばらくは2人でもふもふパラダイスになってしまいました。
もふもふもふもふ
「姫さま、雪さま、いい加減にしてください」
「「ごめんなさい」」