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「もう、高天原に戻るお金もないの。ヒッチハイクで何とか行こうと思ったんだけど、高天原に行く車はなかなかなくて」
「当たり前だわ」
「七夕に間に合わなかったら農政族の神々に怒られるわ」
「その前に、まず芋が垢抜けたことについての突っ込みは誰も入れないの?」
「……もう私には今日のご飯を買うお金もないの。もうAVにでも出るしかないのよー」
お姉さまの突っ込みは軽く流して、織姫さまはおいおいと声を上げて泣き始めました。泣きながら、テーブルの上に置かれたお菓子をものすごい勢いで食べていきます。
「まあ、それじゃとりあえず次の七夕はその辺のクラブ「天の川」で彦星と会ってお茶を濁しておけばいいとして」
「何、そのいい加減な扱い!」
といっても、お姉さまも私も高天原に行ったことはなく、天さまは高天原を知っているものの電波が圏外になるのが嫌だと言っているので、とりあえずしばらくは織姫さまを私たちの家に居候させてバイトで高天原までの旅費を稼いでもらうことになりました。
「ちょっと聞くけど、彦星は高天原にいるのかしら?」
「彦星も葦原中国に降りてきてるはずよ。そうだ。彦星を見つけてお金を無心すれば!」
「働け」
それから織姫さまにご飯を食べさせてあげた後、私たちは3人で一緒にお風呂に入りました。お風呂はみんなで一緒にというのがお姉さまのひいひいおじいさまの遺言なのだそうです。
そこで私は思いました。織姫さまはぼんきゅっぼんの素晴らしいスタイルなのです。お姉さまの完璧な裸体を見慣れた私ですが、織姫さまのは完璧な調和をあえて崩すことによる大人のエロスと言うものがびんびんと感じられるのです。私もあの何分の一かでもスタイルがよければ……
「えっと、雪さん、でしたっけ?」
「はい」
「さっきからどうしておっぱいを触ってるの?」
「いえ、その、一体どうやったらこんな立派なものが育つのかと」
3人で裸で並ぶと私の体の貧相さが嫌でも目に付きます。
「雪のプロポーションは今のがベストかつパーフェクトなの。今より一ミリでも成長したらその分だけ魅力が下がっていっちゃうのよ!」
お姉さまにはそう言っていつも慰めて頂けます。私としてはお姉さまのような理想的なプロポーションに少しでも近づきたいと思うのですけれど。
「よく分からないけど、あなたたちも結構業が深そうね」
織姫さまはそう言って少し呆れている様子でしたが、どういう意味で業が深いと言ったのか、私にはよく分かりませんでした。
その後、織姫さまのために客間に布団を敷いてあげて、お姉さまと私が寝室で横になったところでお姉さまが言いました。
「織姫、彦星がいるのなら、桃太郎とか一寸法師とかもそのうち出てくるのかしら」
七夕は平安時代にも乞巧奠という行事があってよく知っていますが、桃太郎と一寸法師というものにはなじみがありません。現代の記憶には子供向けのおとぎ話という知識はあるのですが。
「あ、それか浦島太郎が何百年ぶりかで竜宮城から戻って来たら日本が現代になってましたとかあったりしてね」
浦島太郎は知っています。万葉集にそのような話が載っていました。お姉さまが各地を飛び回って留守の間たくさん本を読んだのは懐かしい思い出です。