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 「姫子さん、雪乃さん。今日はありがとうございました。これ以上は探しても無駄でしょう。私はこれからお祖母さまに事情をお話しして謝ってきます」

 「私も行くわ。乗りかかった船だから、最後まで付き合ってあげるわよ」

 「でも、これは千空家の問題で姫子さんとは……」

 「いいのよ。まあ、理事長にダメって言われたらおとなしく帰るけど」

 「私もお付き合いいたします」

 「姫子さん、雪乃さん。ありがとうございます」


 それから私たちは3人で理事長室へと向かいました。理事長さまは私たちが同席することを快く許してくれました。


 「……と言うわけで、大切な家宝の印籠をなくしてしまいました。申し訳ありません。この罰はどんなものでも甘んじて受けるつもりでいます」

 「……と言うことなのですが、いかがいたしますか、かぐや姫さま?」

 「へ?」


 美雷さんの話が終わったところで、理事長さまは突然お姉さまに意見を求めました。私は驚いてお姉さまを見ましたが、お姉さまも驚いたのか鳩が豆鉄砲を食らったようなお顔をしていらっしゃいました。


 「えっと、どうして私にお聞きになるのですか?」

 「それはあの印籠を作ったのがかぐや姫さまだからに決まってますわ」

 「はい? …………あ、もしかして、千空ちそら……千……空……空!?」


 突然、お姉さまは何かに気づかれた様子で大きな声を上げました。


 「あ、だから別雷大神なのね」

 「お姉さま、どうなさったのですか?」

 「理事長、千空雷院(らいん)さん。あなた、そらの子孫なのですわね」

 「その通りですわ」


 お姉さまの言葉には驚きましたが確かに言われてみればどことなく面影があるような……、空さまはもっと()()()ような覚えがありますけど。何がとは言いませんが。


 「千空家は代々女系で世襲してきた家系で、初代さまは大伴おおともの寛子ひろこさまでいらっしゃいます。後に千空ちそら寛子と名乗って千空家をおこされました」


 空さまと言うのは平安時代、お姉さまに求婚なさった貴族の1人、大納言だいなごん大伴おおともの御行みゆきさまという方の娘、寛子さまで、大納言様が中宮に呪いを掛けた罪で流罪となった後、お姉さまが女房として引き取り空と名付けられたのです。


 立場的には私の後輩でかつ罪人の娘ということで本来なら私より立場が低いはずなのですが、下級官吏の娘であった私には憧れの雲上人のお姫さまでしたのでずっと空さまと呼ばせていただいていました。


 「以来、千空家は形骸化した陰陽寮とは一線を画し、本物の陰陽術を使う家系として日本史の裏舞台を担ってきたのですわ」

 「とすると、別雷大神は」

 「かぐや姫さまの言い伝え通り、上賀茂神社の神域を代々の当主さまが毎年訪れていましたら、3代目の当主さまが神域でつるに巻き取られた別雷大神さまを発見なさったそうです。それで、助ける代わりに代々の加護を頂いたと言い伝えられています」


 その話を聞いてお姉さまはにやにやと笑みを浮かべていらっしゃいました。


 ああ、お姉さまと一緒に葵祭あおいまつりで上賀茂神社の神域を訪れたとき、お姉さまが帰り際、せっせと罠を仕掛けていた情景がつい昨日のことのように思い出されます。あの罠が役に立ったのですね。


 「一体どういうことなんですの?」


 展開の速さについて行けない美雷さんがお姉さまと理事長さまの2人を交互に見て尋ねました。


 「美雷、この神具夜姫子さまは、初代さまがお仕えしていたかぐや姫さまの生まれ変わりでいらっしゃいます」

 「生まれ……変わり?」

 「そしてこちらの天宮雪乃さまは、かぐや姫さまの女房の雪さまと、天照大神さまの生まれ変わりでいらっしゃいます」


 美雷さんはその話を聞いてすっかり恐縮してしまって、床に正座してお姉さまと私に平伏してしまいました。


 「ちょ、美雷さん。顔を上げてください」

 「とんでもございません。これまで働いたご無礼の数々、平にご容赦を」


 美雷さんが大変なことになってしまったので、しばらくの間、お姉さまと私の2人で美雷さんをなだめ続けることになりました。その甲斐あってようやく普通に会話してくれるようになりましたが、お姉さまと私を見る目がちょっと前よりキラキラしすぎているような気がするのは気のせいでしょうか?


 その後、理事長さまと話をして、印籠の意匠から確かにお姉さまが平安時代に作ったものであることが確認できました。お姉さまが偽の蓬莱の玉の枝を作った職人たちに依頼して作ってもらったアクセサリーの1つでした。


 ちなみに、その時のアクセサリーは私も1つ持っています。月と竹をアレンジした可愛らしいモチーフのアクセサリーで私の宝物です。


 「印籠については私の方から倉橋家に返してもらうように()()しておきます。ただ……」

 「ただ?」

 「倉橋家は何を考えているのか分からないところがありますから、すぐには返してもらえないかもしれないですね」


 理事長さまはそうやって指をほほに当て思案顔でうなずきました。その仕草は優美ではあるものの、長年日本の陰陽道を仕切ってきたものとしての凄みを感じさせるオーラがありました。

ミニファミコンが届きました。昨日はドクターマリオにハマってました。

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