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「で、どうしてあんなところで倒れてたのか話してくれないかしら?」
「……それが、大切なものをなくしてしまいまして……」
「大切なもの?」
「家宝の印籠なんです」
美雷さんの話によると、無くなった印籠というのは千空家の初代から伝えられる神具で、術式を大幅に強化する力を持っているのだそうでした。昨日、お姉さまに陰陽術が発動しなかったのが悔しくて、家から勝手に持ち出して来たのだそうです。
「家宝をなくしたなんて千空家の存続に関わる大事です。もし見つからなかったら、私、生きていけませんわ」
そう言って美雷さんは泣き出してしまいました。それを見たお姉さまは美雷さんの手を取って言いました。
「大丈夫よ。私が見つけるわ」
もちろん、私も同じ気持ちでした。
と言っても、龍珠学園は広大な敷地を持つ学園なので、全部調べることは不可能です。なので、美雷さんの今日の行動を教えてもらってその付近を重点的に調べることにしました。
「朝、学園に来たらまず山の中腹のミニ修験道ランニングコースを2周します。これは日課なのですわ」
と言うことで、お姉さまと私はミニ修験道ランニングコースを歩いています。修験道の呼ばれるだけあって霊験あらたかな雰囲気のコースが続きます。
「なん……で、学校の中に……こんな険しい……道があるの……ふぅ」
「それはこの学園が千年の歴史のある由緒正しい学園だからですわ」
次に向かったのは学園のふもとにあるお寺の仏堂だった。
「今日はここで1時間座禅を組んで神力を高めていました」
「なんで私まで座禅を組まなきゃいけないの?」
「喝ーーッ」
先ほどからお姉さまがお寺の和尚様に何度も喝を入れられて涙目になっています。お可哀想なお姉さま。天さまはけらけらとずっと笑い続けていて、美雷さんはこちらを不思議そうな顔で見つめてきます。
「お昼ご飯はお蕎麦をいただきました」
「美雷ちゃんはいつも大盛のお蕎麦をお代わりするのよ」
「ちょ、おかみさん!」
「お腹空いてるなら無理しないでかつ丼とかを選べばいいのに」
「お、女の子がかつ丼なんてはしたないですわ!」
「え、かつ丼ってはしたないんですか?」
「……」
ショックです。現代に来て初めて食べたかつ丼はこの上なく美味で、何度も食べたいと思っていましたのに。
「その後、隣のコンビニでパック牛乳を買って飲みました」
「…………大丈夫。女の子は大きさじゃないわ。私はむしろ小さい方が可愛くて好き」
「あなたに言われたくないわっ!!」
千空美雷さん。きっと私たちはいい友達になれそうな気がします。
「雪、どうしてあなたまで牛乳を買ってるの?」
「えっと、ちょっと喉が渇いたんです」
私は美雷さんの差し出された手をぎゅっと握りしめて熱い視線を交わしました。