第4話 冒険者ギルド
第4話です。
今回も説明多めになってしまいました…。
急いで書いたので誤字等あるかも知れません。
元の世界に帰る為に魔物達と戦う覚悟は決めた。ミリアさんにかけてもらった魔法のおかげでギルドの場所もはっきりと分かっている。
教会を出て道沿いに歩いていくと、煉瓦で出来た町並みが見えてきた。
道行く人々は皆、赤や金、水色といったカラフルな髪の色をしていて、いかにもファンタジー風な格好をしている。
よく見ると頭に獣の耳が生えた者や精巧な人形のような美しい姿をした耳の長い者達の姿まである。
何だか少しわくわくしてきた。決して望んでこちらの世界に来たわけではないのだが、それでもオタクの端くれとして血が騒ぐのを抑えきれない。
「いたっ」
周りの光景に気を取られて、角から出てきた何者かに気が付くことができなかった。
思い切りぶつかってしまい、盛大に転ぶ。
謝罪をしようと顔を上げると、そこには赤いモヒカンに棘付き肩パットという現代世界で着ていたらネットで晒し上げられること間違い無しの世紀末なファッションをした男が不機嫌そうな顔で俺を見下ろしていた。
……あれ、俺いつの間に博徒の拳の世界にトリップしたんだろ。
「おい、どこ見て歩いてんだゴラァ!」
「ひっ、す、すみません!」
唾を飛ばしながら大声で怒鳴りつけられ、思わず声が裏返る。
「すみませんじゃねぇんだよ! 嬢ちゃんよぉ、悪いと思ってんなら口だけじゃなくて態度で誠意みせろやぁ!」
どうやら単に謝っただけでは許して貰えないようだ。
誰か、助けてください……。道行く人々に視線で訴えるが、俺と目が合うと皆、気まずそうに目を逸らす。みんな冷たいね。
「おい、ゴラァ! よそ見してんじゃねぇよ!」
俺がチラチラ通行人を見ていたことが気に触ったのか、世紀末は突然俺の胸倉を掴み上げてきた。
ひぃぃぃぃ。勘弁してくださいぃ。どうして俺がこんな目に……。
「その辺にしておきなさい」
もうダメだ、と思ったその時、黒い外套に身を包んだ白髪の老人が世紀末の腕を掴んだ。どうやら助けてくれたらしい。
「なんだぁ? ジジイ、てめぇ舐めたマネしてんじゃねぇぞゴラァ!」
世紀末は老人の手を振り払い、俺のことを投げ捨てると、怒声をあげながら老人へと殴りかかった。
世紀末はプロレスラーもかくやという二メートル近い巨体だ。対して老人は背はそこそこ高いが細身で世紀末との体格差は圧倒的だ。
俺の頭に老人が世紀末に殴られ、吹っ飛ばされる光景が浮かぶ。
しかし、俺の心配をよそに老人は飛びかかってきた世紀末の腕を慣れた手つきで捻り上げ、地面に叩き伏せてしまった。
世紀末は一撃で意識を持っていかれたようで、起き上がってくる気配はない。
「大丈夫かね?」
一瞬のことに驚いて呆然と立ち尽くす俺に、老人がくるりとこちらを振り向いてそう尋ねる。
「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます……」
何とか礼を絞り出すと、老人は満足そうににっと笑い、静かに去っていった。
か、かっけぇ……。俺は老人の背中が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送っていた。
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「ここが、冒険者ギルド……」
揃いの制服を着た受付嬢が奥のカウンターに並び、依頼書の貼ってあるボードの前で数人の冒険者たちが話をしている。
部屋の半分は酒場になっており、まだ午前だというのに酒を飲んでいる者が大勢いて、給仕服をきた女性達が忙しそうに歩き回って注文をとったり、料理や酒をテーブルに運んでいる。
俺のイメージそのままの冒険者ギルドの光景がそこには広がっていた。
えーっと、冒険者登録は……。三つあるカウンターのどれに行ったら良いのか分からず、キョロキョロしていると、給仕の女性の一人に話しかけられた。
「冒険者登録なら奥の一番カウンターへ、お食事でしたらテーブルに座ってご注文をどうぞ」
どうやら俺が初めてここに来たことに気がついたらしい。親切に説明をしてくれた。
「ありがとうございます」
女性に礼を言って、言われたとおりに“1”と番号の振られたカウンターへと向かう。
「すみません。冒険者登録をしたいのですが……」
「はい。ご登録ですね。少々お待ちください」
受付の職員は眼鏡をかけた理知的な雰囲気の女性だった。女性はカウンターの奥の棚から何かを取り出した後、こちらへと向き直る。
「それではこちらの書類に必要事項をご記入下さい」
ずいっとこちらに寄せられた紙には名前、年齢、性別、種族などを記入する欄がいくつかあった。俺は書類と共に渡されたペンを持って、各欄に情報を記入していった。
えーと、名はコウジ、姓はスズマ、年齢 16、性別は……。性別?
あれ、今の俺の性別ってなに?
体は完全に女性のものになってしまってはいるが、精神は変わっていない。俺個人としては今も昔も立派な日本男子のつもりなのだが、傍からは少女にしか見えないだろう。
とりあえず、性別の欄を飛ばして他の欄を埋めていく。
「できました」
「はい、では少々お待ちください」
悩むこと十分少々。
性別の欄に大変不本意ながらも女性と記入した後、書類とペンを返却する。
受付のお姉さんはその書類に目を通した後、クレジットカードより少し大きいくらいの透明なカードを取り出し、その表面を指でなぞり始めた。
フリック式のスマホゲー厶でもしているみたいだ。しばらくするとお姉さんは指を止め、それを俺に差し出してきた。
「個人情報と冒険者レベルの設定が終わりましたので、こちらのカードに指を置いてしばらくお待ちください」
「えっと。何ですかコレ?」
「これは冒険者ギルドが開発した【ギルドカード】という【魔法道具】です。触れた人物の職業、スキル、そして筋力や魔力などを数値化した、【ステータス】を読み取り、可視化することができます。
このカードは冒険者の身分証明書にもなりますので絶対に紛失しないようにしてください。再発行にはとてもお金がかかりますので」
ま、まじっすか……。まるでゲームだ。ミリアさんに聞いた話だと勇者は絶大な力を持っているらしい。
きっと凄いステータスとたくさんの強力なスキルを覚えているに違いない。期待に胸を踊らせて、受付のお姉さんが差し出したカードに指を置き、言われたとおりにしばらくそのまま触れていると--。
突如カードが明滅し文字の羅列を映し出した。
えーっとなになに……。ふむふむ……。
……うーん、わからん。平均が分からないので何とも言えない。
職業は当然勇者。取り敢えずスキルの欄には《判断する女神の聖眼》という中二チックなものが一つ。
ステータス欄に表記された数字は筋力と体力が低く、それ以外は大体同じくらい。魔力が若干高いくらいだ。
「あのー、これってどうなんですか?」
自分では判断のしようがないので、直前に提出した書類の点検をしていた受付のお姉さんに聞いてみる。
「えーと職業は……勇者!? ということは異世界から召喚された方なのですか?」
「えぇ、はい。まぁ、一応そういう事になりますね」
お姉さんの反応に思わず鼻が高くなる。自分の顔は見えないがかなりのドヤ顔になっているのは間違いない。
……とそれよりも他の項目についてどうなのか聞かなくては。
「あの、それよりもスキルとかステータスはどうなんですか? 勇者のスキルってコレ一つだけなんですかね?」
「もっ、申し訳ございません……では、まずスキルについてですが、勇者は他の職業とは異なり、一人一人が覚えるスキルが違います。
他の職業が各職業毎に専用スキルを覚えるのに対して勇者の方々は各個人毎に専用スキルを覚えるのです。
ですから勇者のスキルは全て唯一。世界でその方だけしか使えないスキルなのです。その代わり覚えるスキルの数は他の職業に比べて圧倒的に少なくなっています。
初期スキルが一つだけというのは珍しいことではないのでお気になさらなくても大丈夫ですよ。
見たところスズマさんのスキルは魔眼系スキルのようですね。勇者の方でこの系統のスキルを持つ方はかなり珍しいですよ」
お姉さんの話を聞く限り一口に勇者といってもいろいろなタイプがいそうだ。
覚えるスキルが一人ひとり違うのでは実質違う職業のようなものだろう。
ひとまず、自分が特別弱いわけではないと分かり、ほっと一息つく。
「次にステータスですが--」
お姉さんがステータスの項目に目を移して息を飲んだ。も、もしかしてありえないぐらい高かったとか?
期待感に胸を膨らませて次の言葉を待つ。しかしお姉さんの口から発せられた言葉は俺の期待を裏切るものだった。
「え、ええと。知力と敏捷力は普通ぐらいで魔力はそこそこ高いですね。
ですが……体力と筋力がかなり低いです。特に筋力。筋力に加護がかかっていない状態の子供と同じくらいではないでしょうか。申し上げにくいのですが、勇者の方としては最低レベルのステータスですね……」
その言葉に思わず絶句した。確かにインドア派でゲームばかりしていた俺の運動神経は低い。
しかし、腐っても俺は高校一年の男子。そして絶大な力を持つという勇者なのだ。
筋力がその辺の子供と同レベルである筈はない。女になって多少落ちているにしてもこれはあまりにも酷い。
絶望に打ちひしがれる俺に、お姉さんが気の毒そうな目を向ける。やめろ、そんな目で見ないでくれ……。
「ま、まぁ、筋力が低くても魔法や飛び道具を使えば戦えますし、そんなに落ち込むことではありませんよ」
それは言外に近接武器は無理だと告げているのか。確かに一般の子供が鉄の剣を振り回し、魔物の肉を断ち切ることなど不可能だ。
「あの、ステータスをあげるにはどうすればいいんですか?」
そうだ、ステータスがあるならきっとレベルアップとかもあるのではないだろうか。レベルが100くらいになればこの絶望的な筋力もまともな数値になるかもしれない。俺は一縷の望みにかけお姉さんに問いかけた。
「そうですね……。筋力なら腹筋や腕立て伏せ、体力なら走り込み、知力なら学習、敏捷力ならジャンプ移動、魔力なら魔法を沢山使うなどすれば少しずつ上昇していく筈です。まぁ、ステータスを一時的に上げる魔法もありますが、元の値が低いと効果は薄いですね」
そ、そんな…。そんな原始的な方法では何年かかるか分からない。ちからのたねとかないんですか……?
希望を砕かれて項垂れる俺に憐憫の視線を向けながら、お姉さんはすらすらと仕事の詳細を話し始めた。
意外とドライだなこの人。
「それでは、冒険者とギルドについて簡単に説明させていただきます。
まず、冒険者とはギルドに属し、魔物に苦しめられている人々を助ける為に働く人たちです。
冒険者には1から10までの【冒険者レベル】が設定されており、成果をあげればあげるほど、このレベルが上昇します。
ギルドではこの冒険者レベルに応じた難易度の依頼をご紹介させて頂いています。
依頼を受ける場合は募集要項を満たしているものをボードからお選びいただき、二番カウンターまでお持ち下さい。
依頼を達成した場合、三番カウンターへのご報告をお願いします。その場で依頼者様からお預かりしている報酬を支払わせていただきます」
ふむふむ。
「それから異世界から召喚された勇者の方々には、ギルドの方から派遣される指導員に十四日間、戦闘の基礎を学んでいただきます。
明後日の午前中にもう一度ギルドに来ていただいてよろしいでしょうか? それまではギルドの隣にある冒険者用の宿舎にお泊まりください。あまり綺麗な所ではありませんが、一日二回食事も出ますし、勇者の方は無料でご利用できます」
それは有り難い。スキルや魔法の使い方も本当に何も分からない俺にとってその決まりはとても嬉しいものだった。さらにタダで泊まるところまで用意してくれるとは冒険者ギルド様々だ。
「ありがとうございました」
お姉さんに礼を言って、カウンターを離れた。今日はこの世界の情報を沢山手に入れることが出来た。
生きてやる。そして、何としてでも元の世界に、日常に帰る。俺は、そんな思いを胸に冒険者用の宿舎へと足を運ぶのだった。