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勇者召喚のリグレスティア  作者: 藤迅 とう
第1章 異世界リグレスティア
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第3話 異世界“リグレスティア”

第3話です。 

今回は説明回になっています。


「あの……本当に大丈夫ですか?」


「いや、もうホント全然大丈夫なんで、気にしないでください……。とりあえずここがどこなのかと、俺の置かれてる状況だけでも教えてもらえれば……」


 一瞬のパニックの後、表面上だけだが平静を取り戻した俺は、心配そうな顔をするミリアさんに現状の説明を促す。……まぁ、もう大体予想はついているわけだが。


 流れ出した冷や汗で服がべっとりと肌に張り付き、嫌な感じだ。だが、ここで取り乱したり大騒ぎしたところで時点が好転するわけでもない。


 ミリアさんは俺の様子に怪訝そうな顔をしながらもコクリと頷くと、ゆっくりと話し始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 結論から言うと、思ったとおり俺は【リグレスティア】と呼ばれる異世界に召喚されたらしい。

 俺の性別のことはそれとなく濁した感じで聞いてみたものの、ミリアさんは何も知らないようだった。おそらく異世界召喚されたことで何らかの変化が起こったのだろう。


 この世界リグレスティアには大きく分けて【人類種(ヒュマート)】と【魔物種(イヴィレス)】と呼ばれる種が存在している。

 【人類種】は【人間族(ヒューマン)】と【耳長族エルフ】や【獣人族ワービースト】などの【亜人族(デミヒューマン)】に分かれており、【上位世界セレスティア】と呼ばれる場所に住む様々な神々から授かった【職業(クラス)】と呼ばれる加護の恩恵で“スキル”という超常的な力を行使することができる。

 

 一方、魔物種は知能の低い【下位魔族(レッサール)】と高度な知能を持つ【上位魔族エルダール】に大きく二分されており、下位魔族は上位魔族によって完全に支配されている。

 下位か上位かに力の強さは関係ない。魔物種は人類種とは異なり、神から忌み嫌われているらしく、その加護を受けることはできないらしい。

 しかし、極めて高い凶暴性を持ち、人類種を圧倒する強力な身体能力と魔力を備えた恐ろしい種族なのだそうだ。


 人類種と魔物種。二つの種族は人類種の国【リヴァレアス】と魔物種の国【ゼルナガル】に別れ、遙か昔から長い間争いを続けているらしい。

 二つの国の戦力は拮抗し、国境で衝突することはあっても互いの領土に深く攻め込むことはほとんどなかった。……七年までまでは。

 

 七年前、突如としてゼルナガルがリヴァレアスに本格的な侵略戦争を仕掛けてきたのだ。

 リヴァレアスも国の騎士団と冒険者達で軍を編成、これを迎え撃った。当時最強の戦力だ。問題なくこれを撃退、逆にゼルナガルへの侵攻さえ可能だと予測されていた。


 --しかし、国境付近で行われた初戦。リヴァレアス軍はゼルナガル軍相手にに大敗を喫した。


 ゼルナガル軍の魔物達が何故か人類種にしか扱えない筈のスキルを使い始めたのだ。

 そこからは圧倒的だった。人類種はスキルが扱えるというアドバンテージを失ったのだ。元々の力が強い魔物種に勝つことなど到底できる筈もない。


 国土の半分以上が魔物種の手に落ち、人類種は残った領土で身を寄せあい怯えて暮らすこととなった。

 人々はもはや神に助けを乞うことしかできなかった。


 そんな中、四年前のある日に教会の最大司教のもとにリグレスティアの最高神であり、“世界”を司る神【エルドヴァン】から神託が下った。



『我、汝らの元に救いを与えん。汝ら、これらの力を借り、【魔を束ねし者】を討ち滅ぼせ』と。



 その日の夜、教会本部の大聖堂の祭壇に一人の黒髪黒目の青年が現れた。青年は自分は異世界から来たと語り、【勇者(ブレイバー)】という正体不明の職業を保持していたそうだ。


 それ以来、各地の教会に度々異界から【勇者】が召喚されるようになった。彼らは特殊なスキルを扱い、奪われた領土をたった一年余りで取り戻してしまったらしい。

 しかし、領土を奪還したからといって平和になったわけではない。リヴァレアスとゼルナガルは未だ緊張状態にある。もう戦争は止まらない。


 俺は【魔を束ねし者】とやらを倒すために召喚された勇者の一人だというわけだ。


「私達の事情に巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません。ですが、勇者様。どうかそのお力で私達を救っていただけないでしょうか?」


 ミリアさんは最後にそう言って深々と頭を下げた。確かにこの世界の人々は気の毒だ、俺もできることなら助けてあげたい。……だが。


「あの、元の世界に帰るにはどうしたらいいんですか?」


 俺には見ず知らずの人のために命をかけるほどの勇気は持ち合わせていない。申し訳ないが俺にとっての最優先事項は元の世界に帰ることなのだ。

 しかし、俺の言葉にミリアさんは困ったような顔をして暫し逡巡した後。

 

「……申し訳ございません。私達にもあなた方を元の世界に帰す方法は分からないんです。すべてを知るのはエルドヴァン様だけ……。

 ですが魔を束ねし者を打ち倒し、あなた方のこの世界での役目が終われば、エルドヴァン様に元の世界に帰していただける筈です」


 結局そうなるのか……。まぁ、そんな気はしていた。平和ボケした日本からきた勇者たちがタダで自分の命をかけて魔物と戦うとは思えないからな。

 戦わないと帰れない。なるほど、納得だ。勝手に召喚してとんでもない使命を強制させる“神様エルドヴァン”にふつふつと怒りがこみあげる。


 とはいえ、ここでいつまでもうだうだ考えていても仕方がない。

 この世界で一人で骨を埋めたくないのなら。もう一度元の世界に戻って両親や友人に会いたいのなら。

 もう選択肢など残されてはいない。やるしかないのだ。魔を束ねし者とやらを倒さなければならない。


 俺は、真っ直ぐミリアさんの目を見た。覚悟は決まった。シスターさんは俺のその様子を見て、コクリと頷く。


「この教会を出たらすぐに、“冒険者ギルド”に行って、冒険者登録を済ませてください。職業やスキル、そして魔法についての詳しい説明はそこでしていただけます」


 冒険者ギルド、か。本格的に異世界っぽくなってきたな。しかし、冒険者ギルドの場所などわからない。

 案内を頼もうと口を開きかけた途端、シスターさんが目の前まで歩いてきて、ぴたりと俺の額に人差し指をあてた。


「ななな、なにを……?」 


「彼の者に正しき道を示せ、《ディレクション》」


 ミリアさんがそう呟いた瞬間、頭の中に何かが入ってくる感覚。そして、気がつくと頭の中に地図を埋め込まれたかようにはっきりと冒険者ギルドへの行き方が分かるようになっていた。

 何が起こったんだ?起こった事象を理解できず、目をパチパチさせる俺を見て、シスターさんが可笑しそうにクスクスと笑い出す。


「これを異世界からいらっしゃった方に使うと皆さん、そんな顔をされるんですよね。これは【魔法】。【魔力】を使って様々な事象を引き起こす力で、練習すれば誰でも使えるようになりますよ」


 魔法。誰しも一度はゲームや漫画の中で目にして憧れたことがあるだろう存在。魔法といえば戦闘で使うものという認識があったが、こんなものもあるのか。

 自分が魔法を自在に操る姿を想像すると、なんだか少し体が軽くなった気がした。


 やってやる。強くなって魔物を倒して、元の世界に帰るんだ。俺はミリアさんに礼を言った後、教会を飛び出した。


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