第2話 変貌
第2話です。
取り敢えず一段落つくまでは速めのペースで投稿していきたいと思います。
※6/12書き直しました。
「お目覚めください。勇者様」
耳元で女性の声が聞こえる。優しい、すべてを包み込むような美しい声だ。
そういえば確か俺……。そうだ、家に入ろうとしたら辺り一面白黒になって、誰もいなくなって、話せなくて、動けなくて。それで……。
気を失う前に起こったことを思い出しながらゆっくりと目を開ける。
「あ、お目覚めになられたのですね、勇者様」
目を開くとともに視界に入ってきたのはシスター服を着た金髪の女性だった。
外人さん?綺麗な人だな……。ぼんやりとした頭でそんなことを思う。
長いまつげに彩られた蒼玉のような青い瞳に白磁のような白い肌。シスター服の頭巾から流れる錦糸のようなブロンドの髪。そしてぷっくりとした形のいい桜色の唇。……って、近い!近すぎ!
俺は反射的にバッと跳ね起き、女性から距離をとった。女性は一瞬驚いたような顔をした後、慌てた様子で頭をペコリと下げる。
「も、申し訳ございません。私はミリア・フェルブラン。この教会のシスターの一人で、決して勇者様に危害を加えようとしたわけではないのです」
教会? 言われてみれば俺と女性のいる広い室内はそれっぽい感じの作りだ。
というかなんでこんなところに……?目の前の女性は何か事情を知っている様子だ。俺はとりあえず女性を問い詰めようと口を開いた。
「それよりここはどこなんですか?それに勇者様って……。っ!?」
なんだ、この声!?
自分が発した声が鈴を鳴らしたような澄んだものだった事に仰天して、口を噤む。
思わず身をよじると着ていたジャージが肩からずり落ちそうになった。そんな馬鹿な。
暑かったからファスナーをおろしていたとは言え、サイズピッタリのジャージの筈だ。慌てて手で抑え、しっかりファスナーを上げる。
……間違いなく俺の体にも何かが起こっている。
「……どうかいたしましたか?」
俺の様子を変に思ったのかシスターさんが気遣わしげな顔でそう問いかけてきたが、俺にはそれに返事をするだけの余裕はなかった。
嫌な予感に駆られ、冷や汗を流しながらゆっくりと確かめるように自分の体をペタペタと触っていく。
腕、手、頬、肩……自分の体の筈なのにやけに細く、柔らかく感じられるそれらの部位を経て……。
「なっ……!」
手が胸のあたりまで達した時、思わず声が漏れた。そんな馬鹿な。二度三度と触ってみるが帰ってくる感触は変わらない。
つつましげながらもふよふよと柔らかい今まで感じたことのない感触。
これじゃまるで……。まさか……!
ハッと我に返り、震える腕を下へと--股の間へと伸ばし、ジャージの上からまさぐった。
「……なくなってる」
生まれてから今までずっと一緒にいた相棒の姿が影も形もなくなっていた。
俺は半ばパニック状態でジャージのポケットから家を出る前に入れてきたスマホを取り出し、自身の姿を確認するためにカメラを起動した。
一瞬の暗転のあと、そこに映し出されたのは見慣れた俺の顔ではなかった。
若干タレ気味のぱっちりとした大きな目に、きめ細かく白い肌。肩まで伸びたさらさらの茶髪に桜色の小ぶりな唇。
少し垂れた目や茶色の髪などパーツに俺の面影はある。だが、線は細いし肌はきめ細かく白い。短かった髪も伸びている。
そして目覚めたら知らない場所という親の顔より見た展開。これはまさか……。
--異世界TSモノ……ということだろうか。