第11話 初仕事
久しぶりの更新!
推敲甘いかもしれません。
※6/16 魔物名の変更 アサルトハウンド→ドゥーク
「うーん……」
先生との別れの翌日。
俺はギルドの依頼ボードの前でどの依頼を受けようかと思案していた。訓練が終わったらすぐに依頼を受けて金を稼ぐ。それは以前から決めていたことだ。
日用品を揃えたり、装備を整えたり、食事の質を上げたり。何をするにも先立つものがなければどうしようもない。
その中でも特に今、俺が欲しているもの。
ズバリそれは新しい衣服だ。元の世界から着てきたジャージにも思い入れがあるのだが、この世界だとファンタジー感ぶち壊しで非常に目立つようで町を歩いているとチラチラと奇異の視線を向けられて落ち着かない。……それに結構ブカブカだし。
だから、まずは服。今日稼ぐ金でもっと冒険者っぽくてかっこいい服を買うのだ。
さて、依頼を選ぶ際に注視すべきなのは貰える報酬とギルドポイントだ。
ギルドポイントとは【冒険者レベル】を上げる為の経験値みたいなもので、依頼を達成する毎に加算される。取得しているギルドポイントの総計に応じて冒険者レベルが設定される。
冒険者レベルはその冒険者の熟練度の指標となり、これによってギルドで受注できる依頼の難度も変わってくる。
俺はそこを踏まえた上で候補を絞っていき、最終的にある一枚の依頼書を手に二番カウンターへと向かった。
手に取ったのはこの町のほど近くに位置する【レシュレカの森】に生息している【ドゥーク】という魔物の討伐依頼だ。
ドゥークは毎年繁殖期に入る前--大体今頃の時期になるとギルドは討伐依頼を出し、その数を抑えているらしい。
この町の周辺に棲息する魔物の容姿や能力などは一通り先生から聞いている。今の俺なら日が高いうちはレシュレカで命を落とすようなことはまずないだろう。
二番カウンターの前には運良く誰も並んでいなかった。これならすぐに依頼の受注手続きを済ませることができそうだ。
「この依頼を受けたいのですが……」
「はい。ではギルドカードを提示していただけますか?」
俺はすぐにカードを取り出し、受付嬢へと差し出した。受付嬢は俺のカードと依頼書に目を通した後、カウンターの下から一枚の書類を取り出し、さらさらと何かを書き込んでいく。
「確認しました。レベル1、コウジ・スズマさんですね。確かに受理しました。お気をつけていってらっしゃいませ」
待つこと少々。返還されたギルドカードを受け取った俺は受付嬢に礼を言いギルドを後にした。
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レシュレカの森。
よく整備された綺麗な森で、昼に出現する魔物は駆け出し冒険者でも楽に狩れる弱い魔物のみ。
それに冒険者が毎年狩っている為にその数も多くなく、繁殖期を過ぎ落ち着いた時期なら薬草やキノコなどをとりに来る一般人もいるらしい。
場所はエストールのすぐ近く。町を東口から出てまっすぐ十五分程歩けば見えてくる。東口を探すのに少々手間取ったが、そこから先はひらけた野原をまっすぐ進んでいくだけだったので流石に迷わなかった。
俺は木漏れ日の差し込む木々の合間の道を周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいく。
勿論既にスキルは発動しているし、銃はすぐにでも使えるように抜いてある。いくらここの魔物が弱いといっても不意をつかれて襲われれば命を落とす可能性があるからだ。
しばらくそのまま歩いていくと木々の隙間から太陽の光に反射してキラキラと光る水面が見えた。
どうやら水場があるようだ。丁度いい。少し休憩していこう。そう思い、駆け寄ろうとして--やめた。
いる。濁った泥水の様な色をした汚い毛皮に覆われた痩せた犬のような魔物。距離はあるがスキルのおかげでその姿はハッキリ目視することができる。間違いない。今回の標的、【ドゥーク】だ。
どうやらこちらには全く気がついていないようで、赤黒い舌をチロチロと出したりしまったりして水場の畔で水を飲んでいる。
やるなら今だ。スキルを発動させている今なら、この距離でも当てることは容易い。俺はそいつから目を離さないようにして、素早く銃を構えた。
相手が魔物だとしても生き物を殺すのには躊躇はある。正直、怖いし、やりたくはない。
俺は小刻みに震える腕をなだめ銃を強く握り直す。でも、やらなきゃいけない。狙うは頭。一撃で決める。
練習用の木偶とは違う、意志を持って生きているものの命を奪うのだ。たとえ相手が恐ろしい姿をした魔物だからといっていたずらに苦しませてはいけない。
「……ごめん」
謝罪の言葉とともに吐き出された魔力の弾はまっすぐドゥークの頭へと吸い込まれていき、その命を奪った。
俺は銃を下ろし、しばらくの間その様子を伺う。そしてドゥークが完全に絶命したことを確認すると、その死体へと近づいていった。
魔物を倒した場合、その体の一部を切り取って証拠品として持ち帰る必要がある。その部位は頭や尾、両耳等のものが望ましい。
爪や牙等はいくらでも偽装できる為、証拠品にはならないらしい。
「う……」
死体のすぐ側まで寄ったところで、それが発する濃厚な血臭と獣臭の混ざりあった強烈な臭いに思わず顔を顰める。
死体からはドクドクと赤黒い血が流れ出し、美しい水場を汚していた。流石にこれは放置するわけにはいかない。
俺は死体を引っ張って水場から少し離れたところに移動させ、その場にしゃがみ込んだ。
「--《エアスラスト》」
そう呟くと同時に生み出された風刃がドゥークの尾の先十センチ程度を裁断した。
俺はその尾を綺麗に水の魔法に洗い流してからギルドで貰った袋に入れて、腰を上げた。この調子で今日は五体を目標に頑張ろう。
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結局その後、それほど時間の経たないうちに目標数を討伐し終えた俺はそのまま町に引き返……そうとして思いっきり道に迷った。
歩いても歩いても木、木、木、木。果てには何度も何度も見覚えのある場所に戻ってきてしまう。
心が折れかけて半泣きで森を彷徨っているところを、運良く他の若い冒険者のパーティーに発見され、町まで送ってもらった。
周りを自分より年下の少年と少女にガッチリと囲まれ、口々に励まされながら送り届けてもらったことを思い出し、顔が熱くなる。
高校生にもなって迷子になり、あまつさえ中学生くらいの子たちに助けられるとは……。いくらなんでもダサすぎる……。
あまりの恥ずかしさから、町に着いてすぐ、礼を言って逃げるようにギルドへと向かってしまった。今度会うことがあったらちゃんとお礼をしよう。
依頼達成の報告を終えた俺は、そのまま商店街へと向かうことにした。依頼報酬はドゥーク六体討伐でルチム銀貨六枚。
初仕事にしては上々の稼ぎだ。これだけ稼げれば服を買う分には困らない筈だ。俺は受け取った銀貨をポケットにしまい、昼間よりも人通りの減った路地を進んでいった。
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「おぉー」
その日の夜の宿舎の自室。
俺は割れた鏡に映る自分の姿に感嘆の息を漏らしていた。
先生から貰ったケープの下に動きやすさを重視した大きめの白い服とレザーベストを装着。
下半身は明るい茶色のズボンを革のベルトで止め、同色のレザーブーツを履いている。
完璧だ。どこに出してもおかしくない完全なファンタジー装備だ。
結局この衣装を揃えるのに稼いだ金をほとんど使ってしまった。
俺はふうっと小さく息を吐いて、そのままの格好でシーツの下に干し草が敷き詰めてあるだけの硬いベッドに体を投げ出した。
今日も疲れた。明日からは今日の経験を活かしてもっとうまく依頼をこなしていきたい。
いろいろなものを買うために金をもっと貯めないと。あと先生の言ってた作戦に参加するために冒険者レベルも上げて強くならないとな。
……ああ、それからパーティーも組まなきゃ駄目か。
魔を統べる者を倒すため、ひいては元の世界に帰るためにやるべきことはたくさんある。だけど、焦らず、一歩ずつ進めていこう。
死んでしまったら意味がないからな。さくせんは“いのちだいじに”、だ。いろいろな事を考えながら、その日の俺は眠りについた。