やっぱり赤信号は腹が立つ
道端でつい転んでしまった時、俺は二秒間そのまま停止するようにしている。軽く躓いた場合はそのまま歩行を続けるが、結構派手に足音をたててしまうと周りから必ず一人は視線を浴びるので、下手に誤魔化したり睨み付けたりせず、止まる。そして何事もなかったかのように再び歩き出す。そうすると大体は「あれ?今のは気のせいかな」と思ってくれる…はず。注意しなければならないのは、全身が完全に倒れたがケガはない時にこれをやると、大丈夫かいオバサンが出現する。あれ以上の羞恥はない。
外は少し雲っていた。夏の暑さには変わりないが、日差しが減ってくれるのはありがたい。スーパーは近いし自転車じゃなくて歩くことにしよう。夕方には涼しくなるだろう。アイスでも買っていってやるか。
家から徒歩十分の所にあるスーパー秋桜。その名前の通り看板には秋桜の花のマークがプリントされている。俺が生まれた時からあるそこまで大きくないこのスーパーは、ほとんどの店員が顔馴染みだ。
「あら樹威くん、久しぶりね」
「ども」
「いらっしゃい樹威くん。お使い?」
「まぁ、はい。そんなとこ」
「樹威くん、試食食べるー?」
「すいません、これから夕飯なのでまた今度で。ありがとうございます」
会う人会う人声を掛けてくるのはパートの主婦さんたちで、小さい頃からの俺を知っているせいか今でも子供扱いだ。でも可愛がってくれているのだから別に嫌ではない。
「えーっと、じゃがいもと人参と…」
メモを見ながら買い物かごに入れていく。もちろん大根も。…丸々一本ではなく半分のやつだ。
「そんなに大根いらないよな。よし、あとはアイス買って帰るか」
予想していたがやはり結構重い。まぁでも木実のリクエストだし、姉さんも何だかんだで妹に食べたい物を作ってやろうとしているんだ。我慢我慢。
アイス売り場のところへ行き、五本入りのバニラバーの箱をかごに加え、レジへ向かう。会計を済ませ、袋に詰めてさあ帰ろうとそれを持ち上げて、左手に痛みが走った途端、あ、と頭を抱えた。
「病院に行くんだった……」