急いでいない時ほど青信号に差し掛かる
映画や漫画なんかで未来を想定している話を見ると、移動手段が発達されていることが多い。例えばワープゾーン。その場に立てば指定の場所へ一瞬にして飛ばされる。もっと現実的なものでは、車が地面から少し浮いていてスピードが早くなっている。しかも自動運転だ。これらが実現すれば交通機関とかは置いといて社会人たちは大いに喜ぶことだろう。
だけど俺としては一番実現してほしいのは、動く道路である。
自室で着替えているとドアノブがガチャガチャと音をたてた。思わずビクリと肩が上がったが、こんな事をするのは一人しかいない。俺はそっとドアを開けてやった。
「どうした?木実~」
四歳の末っ子の妹、木実。俺の天使だ。
ふわふわのまだ少し薄い髪の毛をドングリの付いたヘアゴムでちょんまげにしている。トコトコ歩くので毛先がぴょんぴょん跳ねた。
「けーちゃんがこれ、わたしてきてって」
にっこりと笑う木実に優しく笑い返しながら、その小さな手から何やらメモを受け取った。そしてその文字を読んで顔が引きつった。
「じゃがいも 人参 玉ねぎ 大根……」
どう見ても買い物リストだ。妹を使って俺をパシらせるつもりかあの人は!
木実の手を引いてキッチンへ行くと、冷蔵庫を覗いていた姉さんが俺の顔を見てニコッと笑った。
「わざわざ木実に頼まないで自分から言ってくださいよ」
「えー?だって私が直接言うより効果あるじゃない。結局はいつも引き受けてくれるけどぉ」
どうせなら効率の良いやり方しなくちゃ、と続けて何故かウィンクをされた。本当に計算高い人だな…。
「ハァ…このリストってカレーの材料ですよね?ルーはあるんですか?」
「残念。今夜はシチューでぇす」
「シチュー!?この夏真っ盛りに!?」
いや夏に食べる家庭もあるんだろうけど、普通シチューは冬の寒い時期にするんじゃ…。
「良いのぉ?そんなこと言って。リクエストは木実ちゃんよ」
ハッと木実を見ると目をうるうるとさせてダメ?と首を傾けていた。景姉さんはさらに笑みを深くした。
ぐっ…卑怯者!
「わかりましたよ……ん?そういえばシチューでもカレーでも最後の大根は別にいらないんじゃないですか」
いつの間にか冷蔵庫から魚肉ソーセージを出して口に加えた景姉さんは、今日一番の笑顔で言い放った。
「今夜は使わないけど重いからついでに買ってきてちょおだい」