怖い話はオチがわかった時がクライマックス
クラスに一人は、無表情で何考えているんだかわからない奴がいる。だけどそいつは大抵、周りに興味を示さないだけで、逆に分かりやすかったりする。本当にわからないのは、いつも笑っている奴だ。
楽しい時でも辛い時でも、泣きたい時でも怒りたい時でも。笑っているのは何の感情からなのか、もしかしたら自分自身でさえ気付いていないのかもしれない。
左手をプラプラと振り、痛みを和らげていると後ろから視線を感じた。振り向くと前髪だけ妙に長い黒のショートカットがあった。
「うおっ…!楠李、か。びっくりした…」
「どうしたの」
「え?あー、美直がいきなりドア閉めるから手を軽く挟んじゃってさ」
「…そう」
楠李は俺の一つ下の妹で、歳が近いからか一番ラフに話せる。口数は少ないし落ち着いている。姉妹の中ではわりと常識的だ。洗濯物だって自分で片付けているしな。
けどその服の趣味はだいぶ変わっている。シャツから靴下にかけて全部黒の無地なのだ。今着ているのもそう。他の色や柄を着ているのは見たことがない。パンツも……確認したことはないがおそらく黒だろう。確認したことはないが!
とにかく黒を常に身に付けているから、色白の肌がよく目立っていた。
未だにその場から動かず俺をじっと見つめてくる楠李。手のこと心配してくれてんのかな…。
「ありがとな。手なら大丈夫だから」
「千切れたら良かったのに」
「……はい?」
今、なんと。
「挟んで指が千切れて無くなればもう運ばなくて済んだのに」
「…………」
前言撤回。こいつの性格忘れてたああああ。
「そうまでして望まねぇよ…指が無くなったら他に色々と不便になるだろ」
「ならその度私が縫い付「やめてお願いそれ以上言わないで」
とっさに遮ってしまったが楠李は笑顔だ。冗談だろう、きっとおそらく冗談だろうが目は笑っていない……。いやむしろ目が一番楽しそうに見える……!!
「だっ、大丈夫だ!今この通りくっついているし、血も出てねぇから!」
左手をパーにしてみせ、慌てて一階へ戻ろうと階段へ向かうと、楠李は言葉を続けた。
「使い物にならなくなったら言って。私が貰ってあげる」
うんんんんん絶対にならないと思うけど!?
だいいち貰うって俺の指どうする気なの!?
なんて怖いことは聞けず、思い切り苦笑いを返して階段を駆け下りた。
居間で救急箱から絆創膏を取り出し、美直にぶつぶつ文句を言いながら左手の人差し指から貼っていく。
「げっ。小指爪の中で内出血してるし」
病院に行くほどではないよなぁ。放って置けばそのうち治るだろ。
『使い物にならなくなったら……』
……念のため、行こう。




