休日の朝に限って早くに目が覚める
出逢いは最悪だったという言葉をよく聞くが、最初に相手の悪い印象を受けてしまうとその分その後の何気ない行動が善意的に映るものだ。所謂ギャップというやつ。俺はそれが気に入らない。
「まだ拗ねてるのぉ?」
自室で机に向かっていた俺の顔を後ろから覗き込んできた景姉さんは、男ならまず目を奪われるそのプルンとした胸を強調させるように屈んでいる。金髪のロングヘアーがまたそのセクシーさを引き立てていた。
数日前の俺だったら確実に鼻血を噴き出すところだ。だが今の俺には計算高い女の誘惑にしか感じられず、鬱陶しいこと極まりない。
「別に。もういいからあっち行ってください」
「冷たぁい」
明らさまな猫なで声を出して俺の髪の毛を人差し指でクルクルといじる。イラッとするがここは無視。向こうは俺の反応を楽しんでいるだけだ。ここで睨み付けたりすれば、“また”顔写真を撮られかねない。
それに俺は拗ねてなんかいない。怒っているのだ。
たまたま、夏休み中でバイトが休みの俺が早起きして、たまたま、姉さんが朝シャンしていて、たまたま、トイレで用を足す前に顔を洗おうと思い、洗面所へ向かっただけのはずなのに。ドアを開けた途端、パシャリという音と共に光りを一瞬浴びた。そこにはバスタオルを身体に巻き付けて仁王立ちした景姉さんの姿が。手には携帯電話があり、カメラのレンズがこちらに向けられていた。
「また可愛い顔のコレクションが増えちゃったぁ」
アハ、なんて語尾に星マークが付きそうな声で笑う姉さんに、俺は朝の時間に似つかわしくないほどの怒鳴り声をあげたのだった。