赤い花はとても綺麗ですわ
という訳で着替え終わったよ。せっかくだししばらく『僕』のまま気分転換しながら移動しようか。
でも何しようかね?殺戮も普段から必要に迫られてやっちゃってるし、こんなファンタジーな世界じゃ移動しながらできる気分転換なんてないような気がしてきたぞ。
いやまて、歌なら……でも目立ちたくないしなぁ……。しょうがない、やっぱり哀れなモンスター達にストレスの捌け口になってもらおう。
ちなみにさっきまで一切触れていなかったけれど、村の近くにはあまりモンスターは見かけなかったんだよ。見かけてもなんかウサギっぽくて可愛かったんだけどね。
そんな奴らを殺っても楽しくなさそうだし、僕が来た平野の方から、街を挟んで反対側の方を散策して楽しげなモンスターでも探すとしようか。いなければいないで、その時に考えればいいでしょ。
夜だし、あまり人目を気にせず飛べるのは楽でいいけど、さっき手に入れた服が僕個人としては状態がいいとは思わないし、肌寒いね。
下に何か着るのも有事の際に面倒ごとを起こしそうで気が引けちゃうし、我慢できないほどじゃないから我慢しちゃうんだけども。
とかなんとかぼんやりしながら飛んでいれば、街の反対側に到着。しかし衝撃の事実が……。
オオカミ型がちらほらいるけど、ウサギ形が大半で特に違う種類が居ないじゃないか。……ってよく考えたら街の反対ってだけでそんなに生息図が変わるわけないか。
「なんといううっかり……なんか興が削がれたな」
道の横にある丁度いい段差に腰を降ろして呆けること5分少々、アホな自分にイラつきが募ってしまった。そこで視界に入るのん気なウサギ。
…………つい手が出ました。無意識のうちに赤い花が舞いました。ウサギの頭は飛びました。
こうね、脳をクラッシュするほうが楽だけど、見た目があまり変わらないからつまらないんだよ、だから避けられる可能性があっても首を飛ばしたり、突き刺したりするほうが楽しいんだ。
ここからは赤い花畑でも作って朝まで時間をつぶすことにしたよ、あきらめてね。
「あら……もう朝ですの?」
目に映る生き物を判別せずに、ただひたすら惨殺していたら眩しい朝日が目に入りました。と同時に映る赤。気にせず惨殺してましたが、よくよく考えてみたら、深夜から明け方まで延々と戦闘し続けられるほどの数を考えると、この世界の常識を疑いたくなります。街の近くに、いくら弱くてもこんなに数がいるなんて。
だって視界に入る平原の8割が赤ですよ、そりゃ腹いせに一滴残さず撒きましたよ、モンスターの体液。それでも適当に撒いて、8割染まるっていったい何匹いたのでしょうね。
とまあそんなことはさておき、日も昇ったので街に入りましょうか。幸いというか服に血はついてないですし、ほかの人にこの惨状を街へ報告されたら入りづらくなりそうですしね。
ではさっさと反対側の門へ向かいましょう。少しでも疑われる可能性のないように、騒ぎの起こる可能性が高い方とは離れて街へは入ることにしましょう。
この方角には私が借りた村もあるので、そちらを経由したことにしてもいいですし、何かと言い訳もしやすいですしね。
「おや、こんな朝早くに到着するなんて、お嬢さんはいったい何時に出発したんだい。一人、それも自衛の用意もしないなんて無用心にもほどがあるぞ」
門につくなり本気で門番に心配されました。これはもっともらしい理由がなければ後々に面倒の可能性もありますね。
「わたく……あたしもこんなつもりはなかったのよ、でもちょいとケンカして飛び出したはいいけどさ、いく当てもなかったから元の目的地のここに先に来たの。無事にたどり着けたのは幸運ね」
普段とは口調も変えて、苦笑いしながら根も葉もないウソを垂れ流します。どんな集団から、とかそういった情報はあえて伏せておきます。そこまで適当に吐いたら確実に矛盾します。とっさにウソをつくのには慣れてますが、内容を考えながら矛盾しないようにとは考えないのです。
「ん?……まぁそうか、今後はそういったことは控えたほうがいいだろう。そう何度も幸運が続くなんて考えはやめときな」
一瞬門番さんは何かに疑念を抱いたような雰囲気でしたが、納得したのかどうでもよかったのかすぐにそれを引っ込めました。余計な詮索はしないでくれるようです。優秀な門番さんでよかったです。
「ええ、そうね。気をつけるわ」
「それがいい、ところで身分証になるものは持ってきたかい?なければ一週間の仮許可証が出るが銀貨1枚かかるぞ」
「残念ながら身分証は持ってきてないわね。お金は幸いあるから仮許可証のほうでお願いするわ」
そういいながら彼にくすねた銀貨のうちの一枚を渡すと、銅製の板を渡される。が何が書いてあるのかさっぱり分からない。
「これが仮許可証だ、一週間以内に身分証を用意して役場へ行くか、それ以内に出て行かないと罰金が発生するから気をつけろよ。」
ありがとうと門番さんにお礼を言いながら、ふと異世界初の対人応対成功だったなと気づきました。
ついに念願の街です、ついでに異世界で初めて出会った人物の命を刈り取らずにすみました(・∀・)