05
夢を見ていた。高校時代の夢だった。
教室内で騒いでいる。そこには当時の裕子もいた。
何を騒いでいるかわからないが同級生たちが沢山いた。
すると突然ドアが開き、英雄が教室に入ってきた。
誰かが「お前、死んだんじゃないのか」と驚きの声を上げる。
英雄は「医者が死んだと言ったらしいけど、本当は死んでは
なかったんだ。でも日本じゃ治せないから外国へ行って治療
を受けて昨日帰ってきた」と言った。
おぉ!と歓声が上がり、みんなが英雄を囲んで大騒ぎする。
気がつくと英雄の右側に裕美がいる。左側は裕子だった。
「良かった、良かった!」と二人で声を合わせて喜んでいる。
僕はそれを遠巻きに見ていた・・・
トントン
頭の上の物音で目が覚めた。
目を開ける直前まで夢を見ていた僕は、今どこにいるのか
すぐに思い出せないでいた。
頭を持ち上げて周りを見渡し、自分がコンビニの駐車場に
いることを思い出すのに数秒かかった。
トントン
音がするほうに目をやると女性が外で窓を叩いていた。
その女性が裕子だと気付くのに更に数秒かかる。
シートを元に戻し、窓を開けて声をかけた。
「どうしたの?」
「一也こそどうしたの、こんなところで寝ちゃって」
「時間調整だよ。まだ家に帰るには時間が早いからさ」
「そっかそっか、迷惑かけちゃってるね」
ドア越しに話すのもなんなので裕子を車の中へ入れた。
会社の帰りに歩いていたら似ている車が目にとまったので
寄ってみたら僕が中で寝ているのを発見したそうだ。
「会社って近いの?」
「すぐそこの建設会社で事務をやってるんだ。裕美が
中学生になった時からだからもう5年になるよ」
「主婦と兼務だから大変そうだね」
「今はもう慣れたけど最初の頃は大変だったなぁ。
実は短大を出てすぐ結婚しちゃったから今のところが
初めての職場なのよね」
裕美を21歳で出産したということは結婚は20歳頃だろう。
裕子の口から「結婚」という言葉を聞くと心が痛む。
英雄と高校時代から付き合っていたのか気になるが、今さら
そんなことを聞いてもしょうがない。しかし気になる。
「英雄のこと、裕美ちゃんに聞いたよ。大変だったね」
「えっ、あの子そんなことを話したの?」
「あと学校のこととか話をたくさん聞かされたよ」
「ふ~ん、あの人見知りの裕美がねぇ」
「人見知り!?嘘でしょ、ずっと凄い勢いで喋ってたのに」
「一也のこと気に入ったからじゃないの。さすが親子だわ」
さすが親子って・・・裕子に嫌われているとは思わないけど
気に入られてるとも思えないような気がするけど。
「それって人畜無害っぽいから話しやすいとかそんな感じ?」
「まっ、そんなとこかな。ご想像にお任せします」
裕子は意味深に笑っていた。
「ところで何時頃まで時間を潰すの?」
「ここを6時に出ればいつもと同じ時間に帰れるね。
あと1時間半ってとこかな」
「だったらまたうちに来ない?」
「悪いからいいよ。ここで横になってればすぐだし」
「でもここは交通量が多いから誰かに見つからない?」
たしかにそうだ。会社の人や知り合いに見つかるとややこしい
ことになるかもしれない。
「本当にお邪魔していいの?」
「うん、そうしてよ」
話が決まったので裕子を乗せて家へ戻った。
車を車庫に入れて一緒に玄関まで歩く。なんだか妙な気分だ。
先に裕子が玄関に入り「ただいま」と言うと、リビングのほうで
裕美が「おかえり」と返事をした。
次に僕が大きめな声で「ただいま」と言ったらドタドタと裕美が
玄関まで駆けてきた。
「あれ、一也どうしたの?」
裕子は僕の名前を呼び捨てにした裕美に驚いたのか、裕美の顔を
見てすぐに僕の顔も見る。
その視線に気付いたが、いたずら心が湧いてわざと裕子と目線を
合わさずに
「裕美に会いたくてまた来ちゃったよぉ」
裕美を見ながら少し甘えた声で言った。
裕子は無言のまま、裕美を見て僕を見るの動作を繰り返していた。
裕美もそれに気付いたのか鼻に抜けるような声で
「もう、一也ったら甘えん坊さんなんだからぁ」
と答える。
裕子はニワトリのような動きで二人の顔を交互に見ている。
僕は笑いを必死にこらえていたが限界に近づいていた。
「なになに、二人はどうしちゃったわけ?
私が会社に戻ったあとに何があったの!?」
あせる裕子を見て僕と裕美は同時に爆笑した。
こんなに笑ったのはいつ以来なのかわからないくらい笑った。
そして笑いすぎると息がうまく吸えないことを思い出した。
大笑いする二人を見ながら裕子は一人ぽかんとしている。
「冗談、冗談。何もあるわけないでしょ」
やっと笑いが収まってきたので放心状態の裕子に言ったが
まだ状況がわかっていないようだ。
「ママ、口があいてるよ。そんなに驚いた?」
口を閉じながら今度はゆっくりと二人の顔を見る裕子。
「ちょっとちょっと、やめてよね!本気でビックリしたじゃない!今ね、裕美と一也が結婚してこの家で三人で暮らすところまで想像しちゃったよ」
「どんだけ先まで想像してるんだよ」
「そうだよ、もし三人で暮らすとしても結婚するのはママと一也でしょ」
「だからあんたはなんで一也って呼んでるの!?」
今度は三人で爆笑した。
玄関で笑っていたから外には笑い声が漏れていただろう。
でもそんなのお構いなしに大声で笑った。