20 最終話
「ちょ、ちょっと。なんか色々ヤバい」
「えっ?」
好きな女性にこんなことをされたら体が反応しないわけがない。
「ほら、あの・・・裕子が上でそんなことするからさ」
「あっ、ごめん。そっか、気がつかなくて・・・」
気まずい空気になってしまった。
二人とも起き上がりソファーに座り直した。
「裕美がいなかったら押し倒しちゃうんだけどなぁ」
「そんなことしたら蹴飛ばすよ」
「本当に?」
「あたり前でしょ」
「というか、さっき僕が押し倒されたような気がするけど」
「えっ、夢でも見たんじゃないの」
「あぁ、夢か。なんかリアルな夢だった、感触も残ってるし」
「いつもこんなことをするわけじゃないからね」
「そう?ずいぶん手慣れた感じだったけどな」
「そんなわけないでしょ!恥ずかしいからもう言わないで。
私、なんでこんなことしちゃったんだろ」
顔を真っ赤にして下を向いている。
このまま並んで座っているとまた裕美にひやかされるから
席を立って反対側のソファーに座った。
「なに?逃げなくてもいいじゃない」
「違うよ、並んでいたらまた裕美に言われちゃうでしょ」
「あっ、そうか。私はてっきり・・・」
「てっきり獲物に逃げられたと思った?」
「ひどいな、私は肉食系じゃないんだから」
「さっきは一瞬肉食系になってたよ」
「もう、知らない!」
からかいすぎて怒りだされても困るので程々で止めておこう。
ちょうどシャワーを浴び終わった裕美が、鼻歌を歌いながら
リビングに入ってきた。
「入るよ、いい?」
「わざとらしくなに声かけてるの?」
「だって抱き合ったりキスしてたりしたら困るじゃ~ん」
「バカなこと言わないの!そんなことしてるわけないでしょ」
ついさっき両方やってましたよ、裕子さん。
心の中でつっこんだ。
裕美は裕子の横に座り、先ほどのことには触れないで違う話を
始めた。裕子も当然触れはしない。
目の前で楽しそうに話をしている二人を眺めながら不思議な
感覚になっていた。僕はなぜここにいるのだろう。
高校時代から今まで変わらず好きだと気づいた・・・裕子。
中身は小悪魔的だが若い頃の裕子にそっくりな・・・裕美。
そんな二人と同じ空間にいる。
今では罪悪感も消えてしまった。むしろ二人とのこの時間を
大切にしたいとさせ思うようになっている。
この先どうなっていくのかはわからない。
ただ一つだけ言えることは気づいてしまったものを気づいていないふりは出来ないということだ。
ふと裕美が立ち上がり隣の部屋へ行ってあの写真を持ってきた。
そしてソファーに座りながら無言で裕子に手渡す。
「なぜこの写真を飾っていたかわかる?」
聞くからには何か意味があるのだろうがわからない。
「一也がこの写真の私の表情が一番いいって言ったんだよ。
覚えてない?」
「ごめん、覚えてないや」
「それがあとあと結婚することになった英雄とのツーショット
とはね。運命的というかなんか皮肉よねぇ」
額に入った写真を見ながらしみじみ話す。
「古い写真だから手で触ると痛むとかって言って、ママはパパに
この写真を触らせなかったんだよね」
「そうだったかなぁ」
「もう、とぼけちゃって」
裕美が写真を額から取り出そうとする。
裕子は手を伸ばしてそれを止めるような仕草をしたが、すぐにその手を降ろした。額から取り出した写真を裏返す裕美。
「それ知ってたの?」
「うん、ずっと前に見つけちゃったんだ」
写真の裏側を見ると下のほうに黒いマジックで太めの線を引いてある。
「その黒い線をよく見てみて」
そう言いながら写真を僕に渡す。言われたとおり黒いマジックの部分を見ると、線の下に別のペンで日付らしきものが書いてある。
H5ということは平成5年ということか、20年前の日付だ。
そしてその後ろにローマ字のような文字も見える。
見づらいので写真を手に持って光のあたる角度を変えながら動かしたら書いてある文字が全部読めた。
「こういうことか」
「そういうことよ」
マジックで消した下には当時流行っていた丸い文字でこう書いてあった。
H5.8.5 KAZUYA LOVE
高校時代の3年間の想い、再会してから今日までの出来事、目の前にある写真の文字、たくさんの記憶とたくさんの感情が入り乱れていく。
そして優しく微笑む裕子と目が合った瞬間に想いがあふれ出し・・・
気づいた時は裕子を力いっぱい抱きしめていた。
この仕合わせをこれからも大切にしたいという願いとともに。
つたない文章を最後までお読みいただいてありがとうございました。感想などいただけると幸いです。




