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「そうだね、もう全部しゃべったから帰ろうかな。
それでママにはいつ会うの?」
「早いほうがいいけど裕子の都合もあるからなぁ」
「たぶん用事は無いから明日でいいんじゃないかな。
場所は家がいいでしょ、外より家のほうが話しやすいし」
明日でいいけど、自宅だと裕美がいるから話しづらいな。
「私は明日、友達の家へ行って遅めに帰るようにするから
その間に話をすればいいよ。家に帰るのは・・・8時でいい?」
「あっ、そういうことか。6時に家へ行けると思うから8時
だったら2時間あるね。それだけあれば大丈夫だと思うな」
「もし話が長引いてもっと帰るのが遅いほうがよければトイレに入って7時半までに私に電話してよ。
そしたらもっと遅く帰るようにするから」
「う、うん。わかった。じゃあ、それでお願いしようかな」
「今夜遅くなっちゃったから明日また遊びに行くってママに
直接言うとダメだと言われる可能性があるから、ママには明日の
午前中に学校からメールで連絡しとく。
だから一也はお昼すぎにママに連絡してね。
それで決まったら私にメールくれればいいから」
「はぁ・・・わかりました」
「じゃあ、明日頑張ってね!おやすみ」
そう言って、さっさと車を降りて自宅へ向かって行った。
よくもまぁこれだけスラスラと言葉が出てくるもんだ。
しかも作戦に無駄がなく完ぺきじゃないか!
写真のことで怒られて、キスしてとせがまれ不意にキスされて
明日のことを指示されて・・・
しっかりしているというレベルを超えているので、17歳の女の子
と一緒にいたとは思えない気分になっていた。
だが甘い残り香と残っている柔らかな唇の感触が、今までここに
いたのは女の子だったと主張しているかのようだ。
今日は裕子に写真のことを謝らなければならない。
昨夜は帰宅してからどのように謝ろうか考えていたら目が冴えて
しまい、あまり寝れなかった。
作戦どおりお昼に電話をして今夜会う約束は取りつけた。
あとはどう謝って、それで許してもらえるかが問題だ。
裕美の言うことが正しければ裕子も高校時代から僕のことを
好きなわけで、それだったらたぶん許してもらえるだろう。
そうとでも思わなければ会う前に心が折れそうだ。
仕事が終わり、覚悟を決めて裕子の家へ向かった。
玄関で出迎えてくれた裕子はいたって普通だった。
いつものようにリビングのソファーに座り、意を決して
話を始めた。
「写真のことで話があるんだけど・・・」
「あっ、あれね。この前はどうもありがとう」
本当の気持ちを知っているだけにお礼なんて言われると辛い。
「いや、そうじゃないんだ。高校の時の写真のことなんだ」
裕子の顔がちょっとこわばった。やはり裕美の言うとおりか。
とにかく謝って許してもらうしかない。
「ゴメン、本当にゴメン!!」
「どうしたの?なにを急に謝っているの?」
テーブルに手をついて頭を下げる僕に驚いた様子だ。
「裕子に合わす顔もないし、嫌われてもしょうがないんだけど
釈明というか説明をさせてほしいんだ、聞いてくれる?」
「う、うん・・・」
「僕さ、高一の時に裕子を好きになって、初恋だったし当時の
裕子とのことは今でもほとんど覚えている。
でもね、三年の時にあの写真を一緒に現像したことだけぽっかり
記憶から消えていたんだ」
「うん・・・」
「それでこの前は無神経に新しい写真を渡しちゃったりして
裕子の気持ちを踏みにじって傷つけてしまった」
裕子は無言で首を横に振る。
「本当だったら一番覚えていなければいけないようなことなのに
それを忘れていたなんて自分でも信じられない。
でもさ、一緒に暗室で作業した時はとにかくいっぱいいっぱいで
緊張していたせいか、一緒に何をやったか何を話したか当時でも
あまり覚えていなかったんだ」
「うん・・・」
「それでつい最近まで丸ごと記憶から消えてしまっていたけど
裕美に言われてやっと思い出せた」
「えっ、裕美に!?」
「そう、裕美にバカじゃないのって言われたよ」
「あの子、そんな失礼なことを言ったの?」
「いや、そんなのいいんだ。本当にバカなんだから」
裕子は僕が話したことを頭の中で整理しているようだ。
伝えたかったことは全部話せたと思う。
これで許してくれるだろうか。
「でもなんで裕美が写真のことを知ってるんだろ」
あれ、そっち?ちょっと肩すかしのようで力が抜けた。
「だって裕子がしゃべったんでしょ、8年前に」
「8年前・・・やだ、あれをまだ覚えていたんだ」
「大人が考えているより子供はしっかりしているみたいだね。
今でもはっきり覚えているって言ってたよ」
「そうか、あんなに小さかったのに」
「そんな小さな裕美になぜ話したの?」
「まぁそれは置いといて。さっき私のことを高一の時から好きだったって言ってたけど高一のいつ頃から好きだったの?」
許してもらおうとして余計なことを話しちゃったかな。
そんなことより許してもらえたのか確認したい。




