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「じゃあ、鈍感な一也は気がつかないだろうから教えてあげるよ。ママと一也を引き合わせたのは私なんだからね」
そんなに鈍感って何度も言わなくても・・・
それに裕子と再会したのはあくまでも偶然の重なりなのに。
「あとママの好きな人が一也だって最初からわかってたんだから」
「最初からって、どういうこと?」
「私が自転車で転んだ日にママがお昼に家に帰ってきたでしょ。
その時に気づいたの」
それはさすがにおかしいだろ。たしかに再会して盛り上がっては
いたけど、あの時点で裕子が僕を好きだとわかるはずがない。
「ママには内緒なんだけど、ママが好きな人の名前がカズヤだというのは前から知ってたの。
私が自転車で転んで一也が家まで送ってくれた時に名前を言ったでしょ。
その時、もしかしたらママの好きな人ってこの人じゃないかと思ったんだ」
なんか後付けっぽいな、後から考えたらこうだったということを
気づいていたと思いこんでるだけじゃないのか。
「カズヤって多くはないけど珍しい名前でもないよね。
名前だけでそう思うなんてちょっと無理があるんじゃない?」
「名前だけじゃないよ。怪我をしていた私に声をかけてくれたでしょ。
そこで話をしていた時にこの人なんかいいなぁと思ったの。その前に目が合ったり挨拶をするようになった時もなんとなくそう思っていたんだから。
さっきも言ったけどママと私は好みが似ているから、この人がママの好きな人じゃないかって気がしたんだ」
「女のカンということね」
「うん、でもママの好きな人なのかは私じゃわからないから家にあがってもらってママに会わせて確認したんだよ。
一也に会った時のママの反応を見て、やっぱりそうだと感じたの」
マジか!?あの時は舞い上がっていて全然わからなかった。
家にあがりませんかと言ったのはお礼だと思ったし、母親に会わせようとしたのも親にもお礼を言わせるためとかそんなんだと思っていた。
まさかそんな確認のために引きとめていたというのか。
「なんていうか・・・そうだったんだ」
「その後、あの写真を見た時に一也が驚いて小さな声を出したでしょ。それで絶対間違いない、この人なんだってね」
怖い、そんなところも観察されていたとは。
「でもね、ママも一也もお互い好きなのに肝心なことは言わない
から、横で見ていていつもイライラしてたんだよ。
私だったらすぐに好きっていうのに」
そういえば二人を煽るようなことを何度も言ってたな。
その煽りのせいで告白っぽいことを言えたのは事実だけど、結構面倒だったのも事実だ。
ん?お互いって・・・僕が裕子を好きだというのはなぜわかったんだろ?
「ところでなんで僕が裕子を好きだってわかったの?」
「そんなの一也の態度を見たらすぐわかるよ、バレバレじゃん」
「えっ、そんなにバレバレだった?」
「もうね、誰が見てもわかるくらいスキスキビームが出てるもん」
「なんだよそのスキスキビームって。初めて聞いたよ」
「ママはきっとビームに気づいているけど自分からは言わないで
一也がちゃんと好きって言ってくれるのを待っていると思うよ」
この前、車の所で好きと言ったのは知らないんだ。
娘にそんなこと報告するわけないだろうから当然か。
「でもその前に写真のことを謝って許してもらわないと」
「だから許してもらった後に好きって言えばいいじゃん」
裕美の言うとおりかもしれない。とにかく謝って写真のことを
許してもらった後に、あらためてまた好きと言おう。
本当に僕のことを好きでいてくれるなら許してくれるだろう。
いや待てよ、好きだからこそ許せないことってあるよな。
今回のことがその許せないことだったらヤバいじゃん。
あぁ、何て言って謝ったらいいんだろ。
「スキあり!」
突然裕美がキスをしてきた。一瞬だったが唇が重なった。
「ちょ、ちょっと、何やってんの!?」
「また余計なことを考えてるからチャンスだと思って」
「いやいや、ファーストキスってもっとロマンチックなものじゃないの?
女の子がおっさんにスキありってするもんじゃないでしょ」
「それは一也の幻想だよ、私は一也と今日したかったの。
それにおっさんだなんて思ったことは一度もないよ」
この小娘の基準がわからない、何を考えているんだ。
「ママには内緒だよ」
そんなの当たり前じゃないか。口が裂けたって言えるわけない。
「うん、これでまたママと一也を応援出来る」
あぁダメだ・・・女心が全然わからない。
「何だかもう、裕美のことがわからなくなってきた」
「裕美はねぇ、一也のことがたぶん好きで、ママと一也を
応援している可愛い女の子」
「自分で可愛いって言っちゃってるけど」
「私って可愛くない?」
「いや、可愛いけどさ」
「どのくらい?」
「どのくらいって・・・すご~~く可愛い」
「よし、合格!」
「ありがとうございます」
この空き地に来てからずいぶん時間が過ぎてしまった。
時計を見たらもう21時を過ぎている。
「9時過ぎちゃってるよ、もう帰らないと」




