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再会の日々 ~仕合わせ~  作者: マツバラ
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「もう8時になるから、そろそろ帰らないとな」


「ほんとだ、時間が過ぎるのが早いわね」


「明日休みだから、まだいいじゃん」


確かに明日は休みだし特に予定も無い。

それに今夜は飲み会で帰りは22時頃になると妻に言ってある。


時間はまだあるのだが一旦話を終わらせて、先日プリントしてきた写真を裕子に渡したいと考えていた。

そして渡した後に高校時代の話でもしたいなと思っていた。


「ね、まだいいでしょ?」


上目づかいで見つめる裕美。こういう表情をされると弱い・・・

写真は腐るものじゃないし、渡す約束をしているわけでもないからまた今度にして、せっかくだからもう少し裕美の話につき合うことにしようと思った。


「じゃあ、あと1時間だけね」


「やった!」


「でも奥さん、大丈夫なの?」


「遅くなるって言ってあるから大丈夫だと思うよ」


「玄関の鍵がかかっていて家に入れなかったら、またここに

戻ってきて泊ればいいよ」


「家の鍵は持ってるから自分で開けて入れば大丈夫だよ」


「でもさ、玄関の内側からつっかえ棒をしてドアが開かない

ようにしてるかもしれないじゃん」


「そんなマンガみたいなことしないでしょ」


「そうね、つっかえ棒をしてあったら家に入れないからうちに

泊るしかないわね」


「ちょっと、なんで裕子まで話に乗ってるのさ!?」


急に話を合わせはじめた裕子に驚いた。


「そうなったらどの部屋に泊ってもらう?やっぱママの部屋?」


「きゃ~~どうしよう」


裕子までキャッキャ言いながら二人で盛り上がっている。

急いで部屋を掃除しなくちゃとか布団はどうしようとか話がどんどん進む。


これで泊る可能性が少しでもあればドキドキするのかもしれないが、そんなことは100%ありえないのでしらけた気分で聞いていた。

そんな退屈そうな僕に気づいたのか、裕子は話を中断して


「もう、冗談に決まってるじゃない」


そう言って、席を立とうとした。


「えっ、冗談だったの?」


「もしかして本気だと思ってたの?」


軽い気持ちで裕美の話に乗ったら本気だったというオチだ。

裕子はまたソファーに座り直す。


「だって一也はママのこと好きなんでしょ?」


「えっ、う、うん・・・まあね」


直球すぎる質問に戸惑った。


「まあねじゃなくて、好きなんでしょ?」


「好き・・・だね」


裕美の迫力に負けて思わず好きだと言ってしまった。


「一也はママのことが好きで、ママも一也のことが好きなんだ

からいいじゃない」


「えぇっ!?」


何を言い出すかと思ったら今度は裕子か。


「ね、そうだよね。ママは一也のこと好きだよね?」


「あっ・・・うん」


「うんじゃなくて、好きなんでしょ?」


「好き・・・だよ」


裕子も裕美の迫力に負けたようだ。


「だったら一也をこの家に泊めても問題無いじゃん」


いやいや、問題だらけである。大人の事情を完全無視だ。

大人の好きか嫌いかは、高校生の好き嫌いのように白か黒で

片づけられるような単純なものではない。

その前に僕は既婚者なのだから、それだけでアウトだ。


裕美は何を考えて何をしたいのだろう。

二人をくっつけたいのか?単なる好奇心なのか?

それともただ勢いだけで話しているのか?


裕美の気持ちはわからないが、変な空気になってしまった今を

なんとかするほうが先決だと思った。


「まぁまぁ、今日は泊らないけどもし泊らせてもらうような

ことがあったらその時はお世話になるよ」


「そうね、その時は泊ってもらおうよ」


この場を取りつくろうとする二人に裕美は不満げだ。


「う~ん、よくわからないけど・・・まっ、いいっか」


よくわからないって、それはこちらの台詞だろう。

何のスイッチが入ったのか知らないが、突然変なことを言われて

僕も裕子もあたふたしてしまった。


徐々に空白の20年間の溝が埋まってきて裕子との関係が良くなってきているのに、つまらないことでギクシャクするのは勘弁してもらいたい。

もしそれでこの関係が壊れたら残念すぎる。


「コーヒーでも入れようか」


そう言ってキッチンに向かう裕子。


17歳の女の子に二人の大人が振り回された感じだが、裕美はもう

何事も無かったかのように別の話を始めている。

でもその裕美の暴走のおかげで裕子に「好きだよ」と言われたのは嬉しい誤算かもしれない。


コーヒーを飲みながら他愛のない話をしているうちに21時になる。


「そろそろ9時になるから帰ったほうがいいんじゃないの?」


「あれ、追い出そうとしてるぞ」


「そんなんじゃないけど・・・じゃ、泊っていく?」


「いや、その話はまた長くなりそうだからやめよう」


「だよね」


「やっぱ泊ることにしたの?」


「だからそれはもういいって」


名残惜しいが玄関へ向かう。

靴を履き、玄関のドアに手をかける。


「また遊びに来てね」


「うん、また来るよ」


「車まで送ってくるから裕美は中で待ってて」


「わかった。じゃあ、またね」


一緒に行くとか言わないで、ずいぶんあっさりしたもんだ。

散々騒いで、もう満足したのだろうか。


黙って歩いていた裕子が車の前で話し始める。


「裕美が変なことばかり言ってごめんね」


「全然気にしてないから大丈夫。あと・・・」


「あと?」


「裕子のことを好きだっていうのは本当のことだから」


裕美に乗せられて2回も好きだと言って感覚がマヒしていたのか、それとも気持ちが高ぶっていたのか自分でもよくわからないが自然に言葉にしていた。

冗談とかノリではなく、きちんと自分の気持ちを伝えたかった。


裕子は一旦下を向き、すぐに顔をあげて僕の眼を見る。


「私も好きよ」


そしてまた下を向いた。


その瞬間、無性に裕子を抱きしめたかったが僕の弱虫気質と自制心がそうはさせなかった。


「ありがとう」


「ありがとうって何よ」


間抜けな返答に裕子が笑う。


「ありがとうはありがとうだよ」


「変なの」


僕も笑いながら車に乗る。


「じゃあ、そろそろ帰るね」


「うん、またね」


窓を開けて手を振りながら車を走らせる。

裕子はいつもどおり腰の横で手を振っていた。

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