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やっと話が終わったので三人で夕飯を食べ始めた。
食事の途中に裕美が手前にある二つの料理を指差して「これとこれどっちが美味しい?」と聞いてきた。
肉じゃがと海老チリだったのだが、どちらかを裕美が作ったのだろう。
あらためて両方を食べて味を比べてみるが、誰が作ったのかは当然わからない。しかし間違いは許されない状況だ。
裕美が作ったほうを選ばないと大変なことになりそうな予感がする。
「う~ん」と迷うふりをして軽く背伸びをしながら裕子をチラッと見る。裕子も気づいたのか肉じゃがのほうに目線をやり合図をした。
「どっちも美味しいけど、強いて言えば肉じゃがのほうが好みかな」
「やったぁ!それね、私が作ったんだよ」
「そうなの?こんなにおいしい料理を作れるんだったらすぐにでもお嫁さんになれるね」
横目で裕子を見ながら、はにかむ裕美。
見た目も雰囲気も似ている二人だが、裕美のこのモジモジして
はにかむ表情だけは似ていない。そして可愛い。
裕子はわざとらしく悔しそうな仕草をしていた。
だが、明らかに上機嫌だ。
それが夕飯作りを手伝った裕美に対してなのか、みんなで夕飯を
食べている楽しさからなのか、それともさっきの僕が言った「好き」に対してなのかは知るよしはない。
ただ一つだけ確信したのは僕の告白を悪く思っていないということだ。
再会してからの裕子の態度や発言とも合わせて、裕子も俺のことを好きなんじゃないかとさえ思えてくる。
もっとも相手のことが余程嫌いなら別だが、好きだと言われて嫌な気分になることもないだろう。機嫌の良さはその程度なのかもしれない。
女性に対してネガティブな僕はそうも考えていた。
食事が終わり、僕はソファーに移動した。裕子と裕美は後片付けをしてからこちらにやって来る。
「うちの料理はどうだった?お腹いっぱいになった?」
「全部美味かったよ。もうお腹パンパンで動けない」
その言葉に反応して裕美がキラキラした目でこちらを向く。
「と言っても、泊らないけどね」
「なぁ~んだ、つまんないの」
「泊らないけど、こんなに美味しい料理を食べさせてくれるなら
ちょいちょい来ちゃおうかなぁ」
「うん、来ちゃいな来ちゃいな!でもね、いつもはこんなに
豪華な夕飯じゃないよ」
「また余計なことを・・・」
裕子ににらまれペロッと舌を出す裕美。
「そりゃそうだよ、毎日こんなに豪華だったら破産しちゃうでしょ」
「今日は裕美を助けてくれたお礼だから頑張っちゃった」
「気を使わせちゃってかえって悪かったね」
「いいのいいの、久しぶりのお客さんだったし、それに一也の
ために食事を作るなんて想像もしてなかったから楽しかった」
「それは俺も同じだよ。裕子の手料理が食べられるなんて思ってもいなかった。これでもう思い残すことはないかも」
「それはいくらなんでも大袈裟すぎでしょ」
「いやいや、ちょっと大袈裟かもしれないけど今はそんな気分だよ」
「じゃ、死なれちゃうと困るからまた食べに来てよ」
「えっ、いいの?マジで来ちゃうよ」
「うん、いいわよ。でも準備があるから来る時は前もって連絡してね」
本当は食事なんて二の次で裕子に会いたいだけなのだが、会う理由をいちいち考えてそれを伝えるのは面倒なのでラッキーだ。
「あの・・・二人の世界に入っているみたいだけど、ここにもう
一人いるんですけど」
「あれ?そこにいたんだ?」
「そろそろ部屋で勉強したほうがいいんじゃない?」
「二人ともひどぉ~い!」
「ドンマイ、ドンマイ!」
「もう、ドンマイじゃないよ!わけわかんない」
裕美はソファーに座ったまま手足をバタつかせている。
「嘘、嘘。今日は裕美も頑張ったよね」
「そうだよ、肉じゃが美味しかったでしょ!それに私のおかげで
ママと一也は再会出来たんだから感謝してもらわないと」
「そうだよねぇ、裕美のおかげで今ここにいるんだもんね」
裕美のおかげと言えばおかげなのかもしれないが、それよりたまたま偶然が重なっての再会だろう。でもそんなことはもちろん言わない。
「ほんと、ドジな娘で良かったわ」
「ドジじゃないもん。気のきいた良い娘だよ」
「はいはい、自慢の娘ですね」
軽くあしらわれた裕美は何かを言いかけたが言葉を飲み込んだ。
今まで話が裕子中心になっていたので、後半は裕美との話を多くして機嫌を取るようにした。
裕美は一方的に話をするタイプなので、僕は相づちをうつ聞き役だ。裕子も同じように、学校での話を身振り手振りで話す裕美を嬉しそうに見つめながら時折うなずいていた。
裕美の話は止まりそうもないが、もう20時近くになっていた。




