01
処女作です。ちょっと切ない、ちょっと嬉しい、ちょっと楽しい、ちょっと残念、色々なちょっとを表現出来たらいいなと思っています。
会社から与えられた営業車で通勤している。
通勤時間帯の朝は車の流れが悪く苦痛なのだが、一つだけ楽しみがある。
それは毎日すれ違う自転車通学の一人の女子高生。
暑い日も寒い日も小雨が降る日も、いつも同じような場所ですれ違う。
ごく普通の女子高生なのになぜかひかれるものがあって、気になっている。
彼女とは面識や接点は無いが、すれ違いざまによく目が合っていた。
その日は信号待ちをしている時に彼女がこちらへ向かって走っていた。
信号が青になり車を発進させた直後にすれ違い、目が合う。
車のスピードが遅いせいかいつもより目が合っている時間が長い気がした。
その時、友人などと挨拶するように右手を無意識に挙げてしまった。
彼女は一瞬びっくりした顔をして、うつむきながら横を通過する。
「あっ、やっちまったか・・・」
毎日のように顔を合わせ、頻繁に目が合っていたので知り合いのような気になっていたのか。
それに今日は月曜日で二日ぶりの再会だったので、なんとなく嬉しくなって思わず手をあげてしまった。
明日から通学路を変えられたらどうしよう。
もう会えないかもしれない。
学校で「変なおっさんに手を振られてキモかった!」などとネタにされるかもしれない。
そんな想像をするだけで落ち込んでしまう。
憂鬱な月曜日を過ごし更に憂鬱な火曜日の朝、いつもどおり車で会社へと向かう。
彼女とすれ違ういつもの場所へ近づくにつれ、胸の鼓動が大きく早くなっていく。
あっ、あの姿は!?
いつもどおり自転車をこいで学校へ向かう彼女が視界にはいった。
その瞬間、言い様のない嬉しさが込み上げてくる。
しかし昨日のことがあったので目を合わせる勇気はない。
前を向いたまま横目でチラチラと彼女のほうを見ながら通過。
するとそのチラ見で目が合う。
と同時に軽く会釈をする彼女。
「えっ!?」
予想外すぎて反応できなかった。
でもすぐに心の奥の何かが温かくなる感覚がした。
次の日からそれが日常になっていくのに時間はかからなかった。
右手を上げる僕、会釈をする彼女。
最初の頃はぎこちない会釈だったが、段々と微笑みながらの会釈に変わっていった。
僕も手を上げるだけではなく手を振るようになり、やがて彼女も右手をハンドルから離して手を振るようになった。
このハンドルのちょっと上で遠慮がちに小刻みに手を振るしぐさがやたら可愛いかった。
高校時代に腰の横で小刻みに手を振り、微笑みながら挨拶する女子のことがずっと好きだったことを思い出したりした。
そんな昔の思い出とも重なり、10代の頃に戻ったような女子高生と出会えた現在を楽しむような、毎朝不思議な感覚だった。
ある日、いつもすれ違う付近で彼女の姿が見えなかった。
寝坊でもしたのかなと思いつつ反対側の車道を気にしながら走っていると
少し奥まったアパートの横に座っている女子高生が目にとまった。
車で走りながらだったので顔までは見えなかったが、背恰好が彼女と似ていたのと、何か胸騒ぎもしたので車をUターンさせてアパートに向かった。
車で近付きながらうつむいている顔を確認したらいつもの彼女。
車を路肩に停め、歩いて彼女の所へ向かう。
「おはよう!こんな所でどうしたの?」
「あっ、いつもの・・・」
蚊の鳴くような小さな声で話す彼女をあらためて見たら足から血が流れている!
「怪我してるじゃん!どうしたの!?」
「ぼんやり走っていたら歩道との段差にタイヤが当たっちゃったみたいで転んじゃいました」
「そうか、出血はたいしたことなさそうだけど痛い?大丈夫?」
「さっきよりは痛くないけど・・・でもまだ痛いです」
「怪我したのは足だけ?他は痛くない?」
「あと手のひらもちょっと・・・」
と言って擦りむいた手を見せる彼女。
目の前に差し出されたので思わずその手を持ってしまった。
「あっ、ごめん。触っちゃった」
「いえ、大丈夫です」
なんとなく状況が理解できたところで我に返る。
怪我をしているのに置いていくわけにはいかないが、病院へ連れていくのは大袈裟な気がする。
だったら学校へ送っていったほうがいいのかな?
そうなると自転車はどこに置いておこうか・・・
その前にまずは会社に連絡しなくては!
一旦車に戻り、通勤途中に具合が悪くなったので遅刻すると会社に連絡をしてまだ座っている彼女の所へ戻った。
「どう?大丈夫そう?」
「はい・・・何とか大丈夫そうです」
「よかったら学校まで送って行くよ。怪我は保健室で治療出来るでしょ?」
「いえ、学校へはさっき電話して休むことにしました。自転車で転んだなんて恥ずかしいですから・・・」
「あぁ、そうか。じゃあ家まで送ろうか?それとも病院へ行く?」
「いえいえ、そんな迷惑はかけられないです。仕事もあるでしょうし。もう少し休めば歩けると思うので自宅へ帰ります」
「いや、会社へは遅刻するってさっき電話したから気にしなくていいよ。それよりそんな状態では一人で帰れないでしょ?」
「・・・・・・」
ちょっと困った顔で黙ってしまった彼女。
前から顔を知っているとはいえ、ついさっき初めて話をした程度の関係なのに少し強引すぎたか。
親切の押し売りか見方によっては怪我に便乗したナンパと思われてもしょうがない。送ってもらったら自宅までバレてしまうだろうし。困っている彼女を助けたいという純粋な気持ちだったのだが。
「ごめんごめん、逆に迷惑だよね」
「・・・・・・」
沈黙が続く。
「じゃあ、もう少し落ち着くまで一緒にいるよ。いい?」
「はい・・・すいません」
変な空気になってしまったので彼女の自転車を直すことにした。
といってもハンドルと前かごが曲がった程度のようだ。
前輪を股に挟んでハンドルをグイっと回して直してから、歪んだ
カゴの形を力技で整えていく。
完全じゃないけどよく見ないとわからない程度に修正出来た。
「すごぉい!あっという間に直っちゃった」
「いやぁ軽傷だったからさ。でもその怪我じゃ乗れないよね?」
「ん・・・無理かもしれません」
彼女と話し、自転車はこのアパートの駐輪場に置いていくことにした。自宅はここから自転車で10分程だというので歩いたら20分位か。怪我をした足で帰るには厳しい距離だ。
「何度も言うようだけど車で送っていくよ。自宅を知られるのが
嫌だったら手前で降ろすから大丈夫だよ」
「手前で降ろす?あっ、全然そんなんじゃないんです。これ以上迷惑をかけるのが申し訳ないので・・・」
良かった!警戒されているわけではなさそうだ。
「そんなの気にしなくていいよ。困った時はお互いさまでしょ?
それに僕らは朝の挨拶仲間じゃん」
「ふふふ、私たち仲間だったんですね」
「おっ、やっと笑ったね。君は笑顔のほうが可愛いよ」
自分でも驚くほど自然に可愛いという言葉が出ていた。
はにかんで少し顔を赤らめる彼女をさらに可愛く感じた。
「さっきママに電話したらタクシーを使うように言われたけど
お言葉に甘えて送ってもらっていいですか?」
「OK、OK!もう全力で送っていくからさ!」
「いや、危ないから普通でいいです」
彼女を乗せるために車を回してきて、助手先のドアを開ける。
それを見てゆっくりと立ち上がり車へ向かおうとした瞬間。
「あっ!」
思うように足が動かないのかバランスを崩してよろける。
慌てて駆け寄り手を差し伸べた。
とっさに僕の手を掴んで上目づかいで見上げる彼女。
恥ずかしそうに苦笑いする表情、掴んだ手と寄せた体の柔らかさ
それに甘酸っぱい匂いがしてドキっとさせられる。
そんなことを悟られまいとお茶らけた口調で
「歩けないんだったらお姫様だっこしようか?」
「えぇ~!私重いですよ~」
だっこ自体は拒まないんだなと思いながら
「大丈夫!頑張るから!」
「頑張らないと無理なんですね」
まだ会話がぎこちないけど、チョイチョイ突っ込みを入れてくる
ので少し慣れてきたのだろうか。
彼女を車に乗せて鞄を後席に積んで車を走らせた。車中で名前や学年などを聞いて僕の名前も教えた。