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超能力高校生探偵:白詰朔の幸福  作者: 正坂夢太郎
第一章 春!出会いの季節だよ!
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第九話 「救世主(メシア)」


 四月十二日、火曜日。俺は家の二階の自室で、目を覚ます。

 制服に着替え、らぁめんを啜り、歯を磨き、髪を整え、仏壇に手を合わせる。これもいつもの日課だ。

 母さんに「行ってきます」と言い、俺は家を出た。吉舎布きさふ駅から電車に乗り、西学園地区駅に降り立つ。今日からここが、俺の通う道になるんだな。いや、正確に言うと昨日からなのだが、気分的には今日からだ。昨日は何もかもが新しく見えて、それどころじゃ無かった。旅行にきた観光客、と言えば分りやすいだろう。昨日の俺は、まさにそんな状態だったのだ。けれど今日は、その感覚も少し収まった。


 と、俺は、そこで、見覚えのある人物を発見した。


「げ」


 俺はじり、と後ずさる。昨日俺に、『君には用はない』とのたもうた、あの偉そうなチビ男が、昨日と同じく、何かを探すように辺りを見回していたのだ。


 俺はもう一歩、後ずさる。アイツの第一印象は最悪だったし、できれば、この学園生活の間中、そのツラを拝まずに過ごしたかった。昨日の1-Eの顔合わせで、アイツが1-Eにいなかった事を確認した俺が、どんなに歓喜したことか、読者の皆さんは知らないだろう。もちろん、そういう記述は無かったはずだから、知っているはずがない。

 俺がさらに一歩後ずさったその時、辺りを見回していたそいつの動きが、ふいに止まった。


「ん?何だ」


 俺は不思議に思い、そいつの視線の先を見ると、そこには昨日再登場した、宗田さんがいた。可愛らしいリュックサックを背負い、てくてくと一人、六陵高校への坂を登っている。

 チビ男は、その宗田さんに向かって、一直線に歩いて行った。そして宗田さんの肩に手を伸ばした。


「おい…何やってる」


 俺はそいつの腕を掴んだ。チビ男が振り返る。宗田さんが俺達に気づき、「え、あれ…白詰くん?」と言う。


「何だね、君は」

「昨日会ったろ」

「失礼だが、君のことは記憶に無い」

「何だと?あんだけ偉そうに、親切心で話しかけた俺をはねのけておいて、覚えてないも何も無いだろう」

「そういうものを、良心の押しつけと言うのだよ」チビ男はふん、と偉そうに鼻を鳴らす。

「とにかく、今は君には用はない。私はこの女生徒に話しかけているのだ」

「ええと…白詰くん、と………白詰くんの…知り合いのひと?」


 宗田さんが首を傾げる。

「まあ」「知り合いではない」俺とチビ男が同時にそう言う。


「そうなんだ」


 何を納得したのか、宗田さんはそう言った。


「お前は宗田さんの何なんだ」

「ソーダ酸?何だそれは」チビ男が俺を不審者を見るかのように見る。

「この人の名前だよ。それすら知らないで話しかけてるのか」

「名前など問題ではない」チビ男はそう言い切る。

「私には、関係ない」

「じゃあ、何が目的だ。まさか、ナンパか」

「まさか」とチビ男が嘲り笑う。

「じゃあ何が目的だ」


 俺はチビ男の不遜な態度に辟易としながら問う。


「それはもちろん」チビ男は、腕に提げていた手提げから紙を取り出して、宗田さんに渡した。


「勧誘だよ」


 宗田さんはそれを慄きつつも受け取り、目を通した。俺もその紙を覗きこむ。そこには、こんなことが書かれていた。


『六陵高校の裏の首領ドン、我が六陵高校推理探偵部へようこそ』


 そして魔法陣と、箒のマークが、その下にでかでかと描かれている。


「なんだよ、これ」


 俺は顔をしかめた。


「我が六陵高校推理探偵部のチラシだ。見ればわかるだろう」

「なんでそれを宗田さんに渡す」

「勧誘だと言ったろう」チビ男は顔をしかめた。「先程言ったばかりだ」

「なんの勧誘だよ」

「我が六陵高校推理探偵部の、だ。何度言えばわかる」


 わけがわからない。宗田さんもそう思ったらしく、誰が見てもそうわかるほど、明らかに動揺しているそぶりを見せた。

 とにかく怪しい。『六陵高校の裏の首領ドン』もそうだし、その下の魔方陣と箒も、俺が関わってはいけない雰囲気のヤバさを醸し出している。


「おまえはなんなんだ」

「私か?私は言うなれば――――――」


 チビ男はその短い腕をバッと広げた。


救世主メシアだ」


 にやりと笑う。


 俺と宗田さんは、顔を見合わせた。



 ◇◆◇◆



 俺達は、去ってゆくチビ男から一定の距離を置いて、六陵高校への坂を登った。登ること数分、俺達は六陵高校にたどり着く。ほんと、六陵高校は謎だらけだ。


「おっはよー、シロサクぅ!おや、今日はどうしたんだぁ?宗田さんと一緒に来たのかぁ?」


 教室に入ると、相模がそう騒ぎたてた。1-Eの皆は、相模のそのやかましいキャラを既に理解しているのか、ほとんどの人が大声に耳をそばだてることをしていない。


「まあ、坂の下で偶然会ってな」


 俺は机にエナメルバッグを乗せ、教科書を取り出して机の中にしまう。


「二人は、昨日も喋っていたよな」


 相模の前の席に座っていた男子が、そう話しかけてきた。


「俺と相模のことか?」「いや、白詰と、宗田のことだ」丸刈りのその男子は、ゆっくりと答える。


「二人は、知り合いなのか?」

「……会った事がある程度だ」

「そうなのか」


 丸刈り男はそう言って眉を寄せる。


「なぁ。お前の名前、聞いてもいいか」


 俺は丸刈り男の様子見をしながらそう言う。丸刈り男は「あぁ」と言った。


「すまない、まだ名前を言っていなかったな。俺の名前は越貝泰作こしがいたいさく。地元の藍染北郷あいぜんほくごう中学校では、野球部で四番、エースでピッチャーだった」

「えぇ!? すげぇじゃん! 俺てっきり、タイサクは僧侶かなんかかと」

「ハゲは僧侶の専売特許じゃねーよ」


 俺はそう言って相模の頭をはたく。


「二人は、面白いんだな」


 越貝は俺たちのやりとりを見て、苦笑する。


「そんなこと無いって…そう言えば、藍染北郷中学って言えば、去年の中学野球大会の優勝校だよな。そんなとこで四番エースって、すごいな」

「そんなこと無いって」


 越貝はそう言って頬を緩めた。

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