第五話 「入学式」
―――――第一章 春!出会いの季節だよ!――――
四月十一日、月曜日。
新しい制服に着替え、らぁめんを啜り、歯を磨き、髪を整え、仏壇に手を合わせる。
今日は六陵高校の入学式だ。いつもの日課をこなし、俺はのれんをくぐり出て、六陵高校へ向かった。これから向かうのが六陵高校だ、ということ
で、少し憂鬱だが、やっぱ新学期独特の胸の高鳴りは抑えられない。かなり設備もよくて、校風もいいらしいから、これからの高校生活には期待できる。
六陵高校は首都のど真ん中にある学園地区のちょうど西側と東側の境目にある。西学園地区最大の高校だ。これだけ聞くと、なんだかまるで六陵高校が超一流校かのように聞こえるのがまた笑える。
俺は終点の西学園地区駅で電車を降り、辺りを見回した。俺と同じような卸したてのぱりっとした制服に身を包んだやつらが、六陵高校へと向かい歩いている。皆、緊張しているような、うきうきしているような表情を浮かべている。
俺は、そこにひときわ小さいヤツがきょろきょろと周りを見渡し立ち往生しているのを見つけた。俺と同じ制服を着てるから、六陵高校の新入生だろうか。迷子にでもなったのだろうか。それとも誰かを待っているのか。
お人よしにも、俺はそいつに声をかけた。
「どうしたんだ?何か困ってるのか?六陵高校に行くんなら、一緒に行くか?それとも、人探しか?」
俺が腰をかがめながらそう言うと、そいつは俺をきっと睨みつけ、「邪魔をしないでくれないか。僕はいま忙しいんだ」と言い放った。
俺は一瞬、そいつが何をいってるのか理解できず、「え?なんだって?」と、我ながらバカみたいな返事をしてしまった。
そいつは俺をじっと見つめ、「君には用はない。早く入学式に向かうといい、初日から遅刻しては印象が悪いだろう」と言った。新入生のくせに、やたらと上から目線だな、こいつは。
「…悪かった、じゃあ俺は入学式に向かうとするよ」
俺はそう言ってその場を離れ、新入生の波に乗って六陵高校へと向かった。やっぱり六陵高校には変なヤツが多く入ってくんのかな。
◇◆◇◆
俺たち新入生は六陵会館へと案内された。六陵会館は、六陵高校が持つ式典用の建物で、入学式とか、卒業式のときに使われる。こことは別に運動用の会館もあるらしい(ここまで六陵高校ホームページによる)。中に入っていくと、もうすでにたくさんの人たちが並んで座っていた。生徒と先生、あわせて400人といったところか。俺たちは六陵会館入り口にあった組み分け表に従い、自分のクラスのところに座った。1-Eか。
しばらくして、『生徒会役員』と書かれた腕章をつけている女子生徒が、マイクを取って喋った。髪は燃えそうなほどに赤く、膝につきそうなくらい長い。制服のセーターは腰に巻かれ、ボタンは上から三つ開いている。その声は、透き通っていて美しかった。
「それではこれより、2050年度、第46回六陵高校入学式を始めます。一同起立」
俺たちは立ち上がり、合図で礼をし、着席した。その後、国歌斉唱、校歌斉唱があり、校長先生のありがたーいお話があった。あだ名が、はねとび、とかいう変な名前の校長だ。どんな字をあてるんだか。
「それでは生徒会会長、五位鷺大護より歓迎の言葉です」
司会の女生徒は淡々としゃべり続けている。よく見ると、その人は目をつぶってるように見える。もしかして、寝てるのか?…いや、疲れてんのか。
「新入生、起立」
目をつぶりながら喋るその人の合図で、俺たち新入生はのそりと立ちあがった。壇上に、『生徒会』の腕章をつけた男子生徒が上がっていく。
「礼」
「どうも、六陵高校生徒会会長の五位鷺大護といいます」
壇上に上がった茶髪の男子生徒がそう言った。きりっとした、マジメタイプだな。
「ここは知っての通り、全国から行き場を失った生徒たちが集まる高校です。こわい噂などを聞いている人もいるかもしれません。けれどもみなさん、恐れないで下さい。ここには、あなたたちの味方となる人たちがたくさんいらっしゃいます。頼りになる先生がたや先輩たち、同じクラスになった仲間たちが、必ずみなさんを支えてくださいます。
また、この高校には様々な施設があり、きっとそれはみなさんの好奇心を刺激するでしょう。槍刃図書館や、国立公園である六刃公園、天文台や六陵写真館など、他の高校にはない珍しいものがたくさんあり、きっと楽しんで頂けるはずです。それらの施設をもとに、六陵高校では部活動がとても盛んです。高校1、2年生の入部率は80.9%と、約五人に一人はなんらかのクラブ・同好会に入っている計算です。みなさんも必ず、自分に合ったクラブが見つかることでしょう。みなさん、決して〝六陵高校に入学〟したということを恥に思うことなく、むしろ今まで以上によい環境で青春を駆け抜けられる喜びを忘れず、日々私達と共に邁進していきましょう!以上を歓迎の言葉とし、第46期生のみなさんに捧げます。六陵高校生徒会長、五位鷺大護」
「新入生、礼」
俺たちは礼をした。
「続いて、新入生による代表挨拶です。御簾川紗希さん、どうぞ」
今度は壇の下に、茶髪の女子生徒が立った。顎はすっとして鼻も綺麗で、唇も薄く、どこかのアイドルのような整った顔立ちをしている。代表ということは、新入生の中ではトップの成績だった、すなわち学年首席ってことか。
そういえば言い忘れてたけど、六陵高校にも一応入試はあった。簡単すぎるわけでも難しすぎるわけでもなく、至って平凡な入試問題が入学寸前に行われたのだ。自宅受験で、定員400人のところ最終的な入学者数は320人だったから、選抜の意図はなかったんだろうけどな。
「新入生、礼」
その女子生徒は、司会の生徒会役員からマイクを受け取り、壇上に上がって生徒会長五位鷺醍醐さんの前に立った。
「新入生代表、御簾川紗希です。このたびは六陵高校という、素晴らしい高校に入学できて、嬉しいです。先程の先輩の言葉にもあったとおり、私たちはクラブと勉強とを両立し、また新しい気持ちで始めるまたとない機会を得たと思うので、この機会を逃すことなく頑張りたいです。六陵高校は国内第一の森林面積の高校だと聞いているので、豊かな自然の中で、のびのびと暮らしていこうと思います。短いですが、これを感謝の言葉として、新入生の代表としてお伝えします」
御簾川さんはぺこりとお辞儀をし、会場は拍手に包まれた。