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超能力高校生探偵:白詰朔の幸福  作者: 正坂夢太郎
第二章 どの部に入るか、もう決めた?
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第十八話 「根は優しい」

 俺が酉饗、越貝、宗田さんと共にクラスに戻ると、教室に称賛の拍手が響き渡った。相模と、男子委員長の煉城が、俺を両端から挟んで肩を組んできた。


「いやぁシロサクよくやった!! このクラスの皆を代表して、俺がシロサクを褒めてやる!」


 相模はそう言うと、俺の頭を乱暴になで回した。


「俺たちの英雄!! 白詰朔の凱旋っすよー!」


 煉城は高らかにそう叫ぶ。相模はもう一度俺の頭を撫でて嬉しそうに笑った。無邪気な笑顔だ。


「一体何なんだよ、この騒ぎは。俺が何かしたか?」

「聞いて驚け親友よ! 実はシロサクが気絶したあと、こんな事があったんだぁ!」


 そう言って相模は事の次第を説明し始めた。

 俺が星野先生に殴られて気絶したあと、あの鬼星人、星野先生はそのまま授業を続行しようとした。そこに、我らが委員長、御簾川紗希が先生の前に飛び出たのだ。


『次は私を殴って下さい』と御簾川は言った。『このまま授業を続けるのなら、私を殴って下さい』と。

 星野先生は御簾川を真っ直ぐに見た。動揺している様子は無かったという。

『私はこのクラスの委員長です。どんな理由があるにせよ、クラスメイトの愚行は私の愚行であり』

 御簾川は瞬き一つせずに続けた。

『クラスメイトの受けた痛みは私の痛みです』



 ―――――そして鬼星人は、御簾川を殴った。



 ……というようなことは無く、鬼星人は木の棒を御簾川に向けて言った。


『そんなことより早くこいつを運んでやれ』


 そうして、体育委員である酉饗と、俺の親友の親友、越貝が俺を運んだ。宗田さんは、俺が心配で付いてきていただけだったらしい。


「それで授業は中止になったんだぁ!」と相模は叫ぶ。煉城も、「万歳(マンセー)!!」と叫ぶ。


「それは、俺より先に御簾川を褒めてやるべきなんじゃないのか」


 俺がそう言うと、相模はやれやれと言った様子で首を振った。


「御簾川っちは、もう皆で胴上げしたんだ」


 それが本当なのか嘘なのか、誰も否定も肯定もしなかったので、終いには判らず仕舞いだった。

 ただ、昼休みの終わり頃、御簾川が給食を食べている俺に近づいて来てこんなことを言った。


「あの先生…星野先生だったっけ、私達が教室に帰る時、こんなことを言ってたの」


 そう言って御簾川はメモ帳を開いた。そんなことまで書き留めているのか。


「『お前は賢いな』って。どう思う?」


 どう思う?と言われても、俺には何の事だかさっぱり分からない。

 俺がそう言うと、御簾川はそうかぁ、と言った。


「もしかしたら、そこまで見越しての行動だったのかもね」


 俺の事か?思い当たる節が無いが。


「ううん、そうじゃなくて、あの先生の事」


 そう言って御簾川はメモ帳を閉じ、眉をしかめた。何かを考え込んでいる、神妙な表情だ。


「もしかしたら、あの先生、根は優しいのかも」


 奇しくも、御簾川は保健室で会った先生と同じ事を言った。二人が示しあわせたわけは無いのに、だ。

 俺はまたしても、耳を疑った。



 ◇◆◇◆



 六時間目の後のホームルームが終わり、俺はエナメルバッグを背負って席を立った。


「よ」


 教室を出た俺の背後から声がかかる。酉饗だ。


「何だ、何か用事か?早く済む用事なら、早く済ませてくれ」


 いや、と酉饗は(かぶり)を振った。


「一緒に陸上部の見学部に行こうぜ」


 陸上部。何で陸上部だ、と酉饗に問う。返ってきた答えは単純明快だ。


「白詰はガッツがあるんだ」


 四時間目のあれは火事場の馬鹿力みたいなものだ、それにそもそも、女子陸上部と男子陸上部で分かれているんだから、一緒にいくって言ったって無理があるじゃないか、と俺が言うと、酉饗は「そんなことやってみなきゃ分からない」と言った。体育会系の発想だ。昨日は剣道部に行ったんだ、と聞いてもいない情報を聞かせてくれる。


「俺は今日、行きたい部活があるんだ」


 仕方なく俺はそう言った。そう言わないと酉饗は引き下がらないだろうと思ったからだ。


「何、どこだよ、どこなんだよ」


 酉饗はそう言って俺に詰めよって来る。台詞(セリフ)だけ見ていると酉饗は男子みたいだ。もちろん、それは酉饗にとっては誉め言葉ではないらしいので、声に出さない。


「六陵高校推理探偵部って所なんだけど、知ってるか?」

「……聞いた事ないなぁ」


 まぁそうだろうな。

 俺は安堵にも似た溜め息を吐いた。



 ◇◆◇◆



 さすがに、酉饗は六陵高校推理探偵部には付いて来なかった。俺が六陵高校推理探偵部の例のチラシの話をすると、「そんな妙なのは御免だぜ」と行ってどこかへ走り去って行った。俺も今日はひとりで来る予定だったので、好都合だ。

 一年生棟から職員棟、実習棟へ渡り廊下を抜ける。渡り廊下からは、グラウンドで走り込む野球部の姿が見えた。越貝はもしかしたら、あれだけ野球部入りたがっていたから、仮入部とかすっ飛ばして本入部しているかもしれない。俺は越貝の姿を探したが、何分グラウンドはとてつもなく広く奥の方は全然見えないので、顔を見分ける事が出来ない。俺は早々に越貝捜索を断念した。

 実習棟に入り、階段を一つ上がって実習棟三階へ。今日は昨日と違い、第三音楽室の前に宗田さんがいる、というようなことも無かった。


 俺は扉の前で意気込んだ。あのチビ男には、聞き(ただ)したいことが山程ある。六陵高校推理探偵部には、意味の分からない点があまりにも多すぎる。宗田さんは昨日、自分からここへやって来て、帰る時も楽しそうだった。ということは、理由は何にせよ、宗田さんはこの部活に入るつもりなのだろう。

 元自殺未遂の女子中学生がまた自殺へと追い込まれそうなおかしな部活ならば、何としても宗田さんをこの部から遠ざけなければならない。俺はそんなお人好し精神に突き動かされて進んでいた。

 俺は慎重に一回、二回と扉をノックする。しばらくして、中から「どうぞ」という声が聞こえた。チビ男の声ではない。だけれど、どこかで聞いた事がある、透き通った女性の声だった。この声の主は誰だ。

 暫く思考し俺は気付いた。あの六陵超百科には、チビ男すなわち宇治川海山の他にも、何人かの名前が記されていたじゃあないか。きっと今の声はその内の誰かの物だ。


 けれど。


 と俺は思い悩む。

 何故、俺がその声を聞いたことがあるんだ?


 その時、痺れを切らしたように、中から「入りたまえ」とチビ男の声が聞こえた。


 もう――――行くしかない。


 俺はゆっくりと第三音楽室の扉を押し開けた。中からの光が俺を照らし、俺はその光に導かれるように第三音楽室の中へと入った。

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