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超能力高校生探偵:白詰朔の幸福  作者: 正坂夢太郎
第一章 春!出会いの季節だよ!
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第十四話 「六陵高校推理探偵部」

 その日の放課後。

 俺は自分の席に座って、相模としばしの談笑を交わしていた。


「なぁなぁシロサク、もし誰かに告られたらどうする?」

「誰かって、誰だよ?」

「いや、色々いるじゃんか! 例えば、さっき言ってた『らぁめんよつば』のバイトやってる女の人とかさぁ、他にもいっぱいチャンスはあるだろぉ?」


 いわゆるフラグが立った人は、今の段階で結構いるからな。


「バイトって、茲竹ここだけさんか? いやぁ、あの人は完璧にバイトはバイトって割り切ってやってるから、隙が無いんだよなぁ」

「まぁ俺は? そう言って? 今、彼女いるんだけどな!」


 相模は嬉しそうにピースした。


「何? いつからだよ、まさか昨日から、とか、そんな事言わないだろうな?」

「残念、大外れ~! 昨日からってのはさすがに無いぞ、シロサク。俺は、去年からだ!」

「マジか! 一年……ってことは、もしかしてもうナニも済ましてたりして」

「あっはっはっは! さすがに親友でも、そのラインはスタールラインだ!」

「スタールライン?」

またぐと罰金二億円だぞ!」


 そう言って相模は笑った。よく分からないが、越えてはいけないラインらしい。


「そろそろいいかな?」


 楽しく話し込む俺達の宇城から、御簾川が声をかけた。


「御簾川っち~!どうした、俺っちに何か用かぁ?」

「おお御簾川、そろそろ行くか」俺はそう言って席を立つ。

「お?お?何だシロサク、何しに行くんだ、御簾川っちと二人で?も、もしかして…!」


 相模はわざととまどったような表情になる。


「ふふふ、そのまさかだ」俺は不敵に笑う。「今から本番だ!」

「うっひょーーー! やるなシロサク! よっ、このモテ男!」


 相模がひゅーひゅーとはやし立てる。


「何言ってんの」


 御簾川が呆れたようにため息をついた。



 ◇◆◇◆



「ごめん御簾川、さっきのは冗談だから」


 教室を出てすぐに、俺は御簾川に謝罪した。


「いいよ、別に。さっきのはノリで言っただけでしょ? 昼休みも取っ組み合いしてたしね」


 御簾川はそう言いながらメモ帳を開いた。六陵高校推理探偵部の部室、第三音楽室の場所を確認しているのだろう。


「親友か」


 俺は頭の後ろで手を組み、廊下の天井を見上げて呟く。

 中学校時代、最貧民層だった俺には、親友どころか、およそ友達と呼べる人はいなかった。人は皆、隣に金持ちがいればそいつを妬み、横に貧乏人がいればそれをさげすむ。そんな社会が、社会一般の常識だった。だけど、ここ六陵高校では、そんな常識は通用しない。なぜなら、ここにいるのは皆、俺と同じような人達ばかりだからだ。


「何か言った?」


 御簾川がメモ帳を閉じ、俺を見る。この頭のいい委員長肌の御簾川も、何らかの理由があってこの高校に入学して来たのだろう。


「いや」


 俺はそう言って、親友という言葉のあったかさに、心を温められる思いがした。

 第三音楽室のある実習棟には、半円状に連なる一年生棟から三年生棟、所謂いわゆる学生棟を通って行くより、職員棟の渡り廊下を使ったほうが早いので、俺達はその通路を使った。一年生棟から渡り、そこから実習棟に渡る。階段を一つ上がり、俺達は第三音楽室のある実習棟三階へと辿り着いた。


「お」

「え」

「あ」


 第三音楽室の前には、以外な人物が立っていた。


 ――――宗田さんだ。


「あ、えっと……」

「宗田さんも推部の見学に来たの?」


 御簾川がにっこりと笑って言う。


「あ、うん……そうなの」

「そうなのか」


 俺はよく分からない。あんな訳のわからない勧誘を受けてこの部活に興味が出る、ということは、宗田さんはもしかして、少しヤバい人なのか?魔方陣と箒が描かれたチラシを配って、『心が見える』なんて言ってるようなヤツがいるような部活になんて、普通の人は興味を持たないと思うんだが。


「まあいいや、とりあえず入ろう」


 御簾川はそう言って、第三音楽室の扉に手をかけた。


「それにしても、中から何も音が聞こえないね」

「え?」

「うん、まあそれは中に入れば分かるでしょう」


 御簾川はガラガラッと勢いよく扉を開いた。



「ようこそ……我が六陵高校推理探偵部へ」


 逆光を浴びた人物が、大きなドラクエの王様の椅子のような格調高い赤色の椅子に座ったまま、そう言う。俺達は恐る恐る中へと足を踏み入れた。その部屋は、どこからどう見ても音楽室のようには見えなかった。部屋の四方の燭台には少し溶けて小さくなった蝋燭ろうそくが設置され、煌々と紅の光を放っている。壁の、入り口とその向かいの窓がある壁以外の二面の壁には、大きな本棚が取り付けられ、ビッシリと本で埋め尽くされている。


「君は、あの時の……確かソーダ酸」


 逆光を浴びた人物がそう言った。この声は間違いなくあのチビ男、宇治川海山だ。


「まあいい、取り敢えず腰かけたまえ」


 チビ男は目の前のソファーを指さした。俺は、御簾川と宗田さんに挟まれるようにソファーに腰かける。ちなみに、俺はスレンダーが好みだ。


「あの……ここって推部ですよね?」御簾川が口を開く。

「ああ、そうだが」


 チビ男はそう言いながら、御簾川の胸のあたりを凝視する。「ふむ、なかなか」と言って、チビ男は大きくうなずいた。何に満足したんだ、おい。


「楽器が見当たらないんですけど」

「!?」


 俺は御簾川を見る。もしかして、御簾川は……


「ここ、吹奏楽部ですよね? 吹部ですよね?」


 御簾川はそう繰り返す。俺の脳内で『推部』が『吹部』に変換された。

 嗚呼…だから言ったんだ、言葉にしたら分かりにくいって! 言ったこっちゃない。犠牲者が。


「確かに、六陵高校推理探偵部、略して推部だが」


 チビ男はあっけらかんとそう言う。お前人の話聞いてるのか?


「もしかして、間違えたのかな」


 御簾川は苦笑いした。


「さて、それではこの部活の説明を始めようか。まずはこの紙を見てくれ」


 チビ男はそう言って、二枚の紙を取り出した。


「あれ、二枚しか無いですけど」


 御簾川が不思議そうに言う。


「ああ、君は帰って良い」


 そう言ってチビ男は俺を指さした。


「……はあ?」


 俺は俺に突き付けられたその指を見る。


「聞こえなかったか?君はもう帰って良いと」

「聞こえてる」

「なら早く帰りたまえ」

「飼えるのは構いませんけど……その前に理由を教えてもらってもいいですかね」


 俺は口の端を引き攣らせて言った。


「何だ、言いたまえ」


 チビ男は腕組みをした。


「三人同時にこの部室に部活見学に来て、どうして俺だけがおいかえされなくっちゃいけないのか、その訳を教えてください」

「……いいだろう、教えよう」


 チビ男は身を乗り出して言った。


「君の心が――――――弱いからだ」


 俺は、何も言い返せなかった。

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