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超能力高校生探偵:白詰朔の幸福  作者: 正坂夢太郎
第一章 春!出会いの季節だよ!
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第十二話 「軽い音楽」

 俺達1-Eの一行は、実習棟三階の第三音楽室前にたどり着いた。六陵超百科によると、ここが、例の六陵高校推理探偵部の部室だ。

 部室の窓は、内側からカーテンがかかっていて、中の様子を窺い知ることが出来ない。窓やガラス、そこから見えるカーテンは、所々傷が入っていて、どことなくさびれた雰囲気を醸し出している。

 第三音楽室前の廊下には、ベートーヴェンやシューベルトやリストといったイケメン寄りの作曲家の肖像画が掛かっているように見受けられた。

 俺は、つくね先生に、六陵高校推理探偵部についてそれとなく探りを入れてみることにした。つくね先生は確か、六陵高校推理探偵部の顧問だったはずだ。六陵超百科に記されていた内容が真実であるにしろでないにしろ、あのチビ男の渡した謎のチラシの文句や紋章などの意味がさっぱりわからなかったことに変わりは無いので、そこの所の真相を知りたい。


「つくね先生、先生は六陵高校推理探偵部の顧問なんですよね」


 俺はつくね先生に話しかけた。つくね先生は振り返って、後ろ歩きをしながら俺と会話をする。


「そぉよー、つくね先生は一年生みーんなの音楽を教えると共に、推部の顧問と、吹部の顧問も務める、スゴウデ先生なのでしたー」


 推部というのは恐らく、六陵高校推理探偵部の略称だろう。吹部は言わずもがな、吹奏楽部のことだ。言葉にすると分かりにくい。聞き分けはつかない。


「本当ですか? だとしたら、それは凄いですね」

「そうでしょお? なのにね、みんなあんまりすごいって言ってくれないのよ」

「それは……なんででしょうね」


 俺は、つくね先生から醸し出される、どこかやる気なさげな雰囲気が、その評価の原因の一端にあると思ったけれど、敢えてそれを言わなかった。それを言うとつくね先生が悲しむのではないか、というような理由では全く無く、ただ単に、俺はこの人を前にしてその事実を聞かされると、実際そこまで凄いことなのかどうか、疑わしくなってきたからである。冷静に考えれば凄いことなのだが。


「なぁに白詰くん、六推に興味があるの? あそこはなかなかどうして、顧問のわたしからしても、結構いい部活よ? 活動は割と緩めだし、先輩たちもなかなか……うん、個性的だし」


 つくね先生はそう言うものの、俺は既にその部員らしき、というか六陵超百科が間違っていなければ確実に部員である生徒に出会っている。あの無礼千万な態度の生徒を、個性的の一言で終わらせてしまうというのは、余りに管理不足なのではないだろうか。


「私、推部に入ろうと思ってるんですけど、部室ってどこなんですか?」


 御簾川が俺とつくね先生の会話に混じって来た。手にメモ帳とシャーペンを持って、書き留め体勢になっている。


「部室はこの第三音楽室だぞ」と俺が言う。御簾川……正気だろうか。六陵高校推理探偵部には、御簾川が心惹かれる何かがあるというのだろうか。


「詳しいね、白詰くん。白詰くんも興味あるの? 推部に。さっき先生と話してたみたいだけど」

「いや、別にそういうわけじゃないんだ。ただ、純粋にどんな部活なのか気になっただけで」

「じゃあ二人とも、仮入部に来てみたらどうかな?その方が分かりやすいだろーし。仮入部期間は今日の放課後からだから、早速今日来てもいいし。先生は吹部の部室にいるけどね」

「あっ、それいいですね、仮入部! 私推部は初めてだし、丁度いいかもしれない。どう白詰くん、一緒に行かない? どんな部活なのか、分かると思うよ?」

「ああ…うん」


 俺は御簾川とつくね先生の勢いに押し負け、力なく頷いた。流れでOKしてしまったのだ。


「じゃあ早速今日、行こうか? 白詰くん」


 御簾川がずい、と俺に近づいて言う。委員長直々に頼まれたとあれば、今更断るわけにもいかない。俺は静かに頷いた。


「じゃあ放課後、一緒に行こうね。家帰っちゃったりしないでよ? 教室で待っといてね」


 御簾川はメモ帳に何かを書き込んでいる。予定表のようにして使っているのだろう。


「ああ」


 俺は打つ手なしで、仕方なくそう言った。できればもう、あのチビ男と関わりたくなかったのだが。

 俺は、あのチビ男が偉そうにふん、と鼻を鳴らす様子が、脳裏に浮かんだ。

 仕方なくだ、仕方なく。

 俺は自分を慰める。実際のところ、御簾川の頼みを断ることが俺にはできたはずだが―――

 それは俺の人の良さによって、不可能になってしまった。いや、この場合は気の弱さと言ったほうが、正しいだろう。

 俺には人の頼みを断ることなど、最初から出来ないのだ。この俺の気の弱さによって。

 


 ◇◆◇◆


 

 四時間目は、またしてもホームルームだった。俺は窓の外に広がる霞がかった空を見て、ふぅとため息を漏らす。見ての通り、今日は生憎の曇りだ。こういった報告は、本来もっと早く済ませておくべきなんだろうけれど、俺が今まで空をちゃんと見ていなかったんだから、しょうがない。


 ここで、1-Eの席について少し紹介しよう。主要人物も出揃ったしな。

 俺達1-Eは、ぴったり30人の、割と多くもないし少なくもない程度の規模の学級だ。

 出席番号一番の相槌さんから三十番の割高(わりだか)までの三十人が、一列五人の縦の列を、六列形成している。並びは出席番号順で、俺の列は前から二番目が越貝、三番目が相模、次が俺、そして俺の後ろ、列の一番後ろが宗田さんだ。

 廊下側が番号の若い者だから、俺のいる場所は廊下側から数えて二列目だ。他にも、三列目中央に酉饗、五列目最奥に御簾川、六列目すなわち窓側の列の中央とその後ろに来集と煉城を構えている。煉城はさほど重要なキャラではないので、忘れて貰っても構わない。というか、こんな並びのことなんて、話の内容には余り関係が無いのだが。

 取り敢えず、この四時間目のホームルームでは、そうやって席の位置を確認するくらいしか、することはなかったのだ。ようするに俺は、ひたすら暇だったのだ。先生の話は、これからの決意とか、授業中の心構えとか、そういう聞き腐ったものばかりで、聞くに耐えなかった。

 なのでここでは、割愛する。

 


 ◇◆◇◆


 

 昼休み。

 学校配布の給食を食べながら、越貝や相模と話をする。初めて食べる、じゃない、小学校の時以来だから久々の給食は、かなり旨い。一口食べただけで、かなりの手が込んだ料理だと分かる。ここの給食のおばちゃんに、(ウチ)に来て店の手伝いをしてほしいくらいだ。この高校は、やはりかなりの良環境だ。


「うっめぇー! このスープ、美味しいなぁタイサク!」

「なかなかうまい」越貝はつつとスープを啜り、満足げに言う。

「それにこのキャベツの瑞々(みずみず)しいことと言ったら! なぁ? シロサク!」

「うん、そうだな」俺はむしゃりとキャベツをかじる。少し甘い。

「タイサクとシロサクって似てるな」


 越貝が、光を受けて飴色に輝く米粒を箸で掴み、蛍光灯で透かしながら言う。


「どうした、急に」

「相模は俺達をそう呼ぶだろ。何で似たようなあだ名で呼ぶんだ? ややこしくないか」

「良い質問だぞ、タイサク!」

「何だ、何か理由があるのか?」


 俺は驚いて相模を見る。こんな適当そうな相模にも、きちんと行動原理があったのか。感涙モノだ。


「もっちろんあるともぉ!俺を見くびってもらうと困るぞぉ!」


 相模は椅子を立ち上がり、両手を腰に置いて胸を張って言った。


「俺にとってタイサクとシロサクは、同じくらい大切な親友だからだぁ!」


 そう言って相模は右腕を突き出し、ピースサインを作る。

 俺と越貝がほぼ同時に「「え」」と言う。


「え?」と相模が聞き返す。


「何も変なこと言ってないだろぉ?」

「いや」と俺。

「いつから俺とお前は親友になったんだ?そんな瞬間があったようには思えないが」

「違うだろ、シロサク!」と相模は怒鳴る。

「親友はなるもんじゃない、そうあるものなんだよ………親友!」

「いやだから、別に親友じゃないって」と俺は返す。「女子じゃないんだから、そういうことすぐに言うなよ」

「俺は別に構わない」と越貝。

「軽々しくそういうことを言うのは、感心しないけど」

「えぇー?」と相模が不平を漏らす。

「じゃあタイサクだけ親友ってことにする」

「いやいやいや、さすがにそれはヒドいだろ!俺も仲間に入れてくれよ」


 ふふ、と越貝が笑う。「さっきと言っていることが違う」


「なんだよー、そうならそうと、最初から言ってくれよぉ!ちょっと悲しかったぞぉ、親友!」

「ん……」


 俺は頭を掻く。親友、という言葉が、ほんの少しくすぐったい。いままで、そういう存在は俺にはいなかったのだ。


「……ま、いいか」


 俺は自分の頬が少し暖まるのを掌越しに感じた。


「二人は部活どうするか決めたか?」と越貝。

「部活か……どうしような」と俺はつぶやく。今のところ聞き及んでいる部活は六陵高校推理探偵部くらいだからな。それ以外の部活のことは殆ど知らない。


「俺は軽音楽部だ! 俺はこの六陵高校を代表するカリスマになって、みんなから慕われる、大きくて近しいビッグスターになるんだぁ!」と相模。

「ちなみに俺は、中学校の時と同じ、野球部に入るつもりだ。必ずこの高校を全国大会まで導く」

「格好良いな、越貝」

「え!? 俺は? なぁシロサク! タイサクと同じ位、いやそれ以上にビッグな夢を持ってる俺は、カッコよくないのかぁ!?」

「いやだって、軽音楽部ってなんか軽そうだし。雰囲気とか」

「ひでぇ!」


 相模はそう言って、うなだれた。「かぁちゃん、シロサクがひでぇよぉ」

「今のは言いすぎたか、すまん」俺は半チョップで謝った。

「軽い! 軽いぞシロサク!」

「自分で軽いと認めた」越貝が目をみはる。

「違う、今のシロサクの謝り方は軽すぎるんだぁ! 軽音楽部(けいおん!)の皆さんに謝れ、土下座だぁ!」


 相模はそう言ってぎゃあぎゃあとわめいた。俺は少し腹が立ったので、相模と軽い取っ組み合いをして、御簾川に叱られてしまった。

 軽いじゃれあいをしただけだというのに。

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