表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/168

二十九、決死の防衛—絆の力と戦術の勝利

二度目の戦闘は、最初よりもさらに激しかった。

敵の数は、二百名以上。神崎家の兵は、実質的に戦えるのは十五名程度。十倍以上の敵と戦わなければならない。

「弓、放て!」紘一は、命じた。

だが、弓兵は三名しか戦線に残っていない。三本の矢が放たれる。敵の中に突き刺さるが、二百名の中では、焼け石に水だった。

敵が、一気に接近してくる。その勢いは、最初の時よりも激しい。敵も、必死なのだ。ここを突破すれば、斎藤軍の側面に回り込める。それが、彼らの目的だった。

ガシャン、と再び激突した。

紘一は、槍を振るった。敵の攻撃を受け止め、反撃する。だが、敵の数が多すぎる。次から次へと、敵が襲ってくる。

「くっ!」紘一の槍が、敵に弾かれた。

そのまま、敵の刀が、紘一に向かって振り下ろされる。紘一は、とっさに体をかわした。刀が、紘一の頬をかすめる。鋭い痛み。血が流れる。

だが、紘一は止まらない。体勢を立て直し、槍を突き出す。敵の腹に、槍が突き刺さる。

「ぐあっ!」敵が、悲鳴を上げる。

紘一は、槍を引き抜く。血が、噴き出す。敵が、倒れる。

だが、すぐに次の敵が来る。終わりがない。まるで、波のように、次々と敵が押し寄せる。

「田邊さん!」平吉が、叫んだ。「右から敵が回り込んでいます!」

紘一は、右を見た。確かに、敵の一部が、右から回り込もうとしている。もし、側面を突かれたら、隊列が崩れる。崩れれば、全滅だ。

「平吉、権助、五名連れて右に回れ!」紘一は、命じた。「側面を守れ!」

「はい!」

平吉と権助は、五名の兵を連れて、右に移動した。そして、回り込もうとする敵と対峙した。

だが、それで前線の兵力が減った。残りは、わずか十名。正面の敵は、まだ百名以上いる。

「持ちこたえろ!」紘一は、叫んだ。「もう少しだ!」

兵たちは、必死に戦った。槍を振るい、刀を振るい、敵を押し返そうとする。だが、疲労が限界に近づいていた。息が上がり、手足が震える。視界が、ぼやけてくる。

一人の兵が、敵の槍に突かれて倒れた。また一人が、刀で斬られて倒れた。兵の数が、どんどん減っていく。

「くそっ!」紘一は、歯を食いしばった。

このままでは、全滅する。だが、退くわけにはいかない。ここを守らなければ、味方全体が危険になる。

その時、紘一は気づいた。周囲の地形を。木々の配置を。そして、一つの策が浮かんだ。

「全員、後退!」紘一は、叫んだ。「木々の間に入れ!」

兵たちは、紘一の命令に従った。少しずつ後退し、周囲の木々の間に入っていく。

敵は、それを追ってきた。だが、木々の間は狭い。大軍が、一度に入ることができない。自然と、敵の数が絞られる。

「よし、ここで止まれ!」紘一は、号令をかけた。

神崎家の兵たちは、木々を背にして陣を張った。前方は開けているが、左右と後方は木々に守られている。敵は、正面からしか攻撃できない。

そして、正面は狭い。一度に攻めてこれるのは、十名程度だ。これなら、十名対十名。数は互角だ。

「迎え撃て!」紘一は、叫んだ。

敵が、狭い通路を通って攻めてくる。だが、今度は神崎家の兵たちが有利だった。敵は、横に広がれない。縦に並んで攻めてくるしかない。

紘一たちは、それを迎え撃った。最前列の敵を倒せば、次の敵が来るまで、わずかに時間がある。その時間を使って、体勢を整える。

戦いの流れが、変わった。敵の攻撃が、止まり始めた。狭い通路では、数の優位が活かせない。逆に、神崎家の兵たちの訓練された連携が、威力を発揮する。

「押せ!」紘一は、号令をかけた。

神崎家の兵たちは、前進し始めた。敵を、押し返す。木々の間から、開けた場所へ。

敵は、混乱し始めた。後ろから押され、前からは神崎家の兵に攻められる。隊列が、崩れ始める。

そして、敵の士気が、崩れた。一人が逃げ出すと、次々と他の兵も逃げ出す。あっという間に、敵の大半が退却した。

「追うな!」紘一は、兵たちを止めた。「隊列を保て!」

兵たちは、その場で止まった。追撃すれば、隊列が崩れる。それは、危険だ。

敵が、完全に退却した。戦場に、静寂が戻った。

紘一は、周囲を見回した。地面には、さらに多くの死体が転がっていた。敵の死体が、数十体。神崎家の兵の死体も、三体。

二十名で始めた戦いだったが、今、無傷で立っているのは、わずか五名だった。十名が負傷し、五名が戦死した。

紘一の心は、痛んだ。五名の兵が、死んだ。その家族が、待っている。だが、もう帰らない。

平吉が、右側から戻ってきた。その顔には、血がべっとりと付いている。「田邊さん、右側の敵は、退却しました」

「そうか。お前は無事か」

「はい。何とか」平吉の声は、疲れていた。

権助も、戻ってきた。だが、その右腕には、深い傷があった。「田邊様、すみません。やられました」

「いや、よく戦ってくれた」紘一は、権助の肩を叩いた。「手当をしろ」

兵たちは、その場に座り込んだ。疲労が、限界に達していた。だが、生きている。まだ、生きている。

紘一は、戦場全体を見渡した。他の部隊も、激しく戦っている。だが、徐々に、斎藤軍が優勢になってきているようだった。敵の退却が、始まっている。

そして、遠くから、太鼓の音が聞こえてきた。勝利を告げる太鼓の音だった。

戦いは、斎藤軍の勝利に終わろうとしていた。

「やった……」一人の兵が、呟いた。「勝った……」

他の兵たちも、安堵の表情を浮かべた。生き延びた。戦いに勝った。

だが、紘一の心は、複雑だった。確かに、勝った。だが、五名の兵が死んだ。その命を、犠牲にして勝ったのだ。

紘一は、戦死した兵たちの遺体を見た。その顔を、一人一人確認した。新吾もいた。結婚を約束していた兵もいた。皆、家族が待っている。

「すまない」紘一は、呟いた。「すまない」

涙が、頬を伝った。戦場で、指揮官が泣く。それは、恥ずかしいことかもしれない。だが、紘一は、涙を止められなかった。

平吉が、紘一の隣に座った。「田邊さん、俺たちは、精一杯戦いました」平吉の声は、優しかった。「彼らも、精一杯戦いました」

「ああ……」

「だから、泣かないでください」平吉は、続けた。「俺たち、まだ生きています。彼らの分まで、生きなければなりません」

紘一は、涙を拭った。「そうだな」

紘一は、立ち上がった。そして、生き残った兵たちを見た。

「皆、よく戦ってくれた」紘一の声は、震えていた。「お前たちの勇気と、訓練の成果で、ここを守り抜いた」

兵たちは、紘一を見ていた。

「だが、五名の仲間が、命を落とした」紘一は、続けた。「彼らのことを、忘れてはいけない。彼らの犠牲を、無駄にしてはいけない」

兵たちは、深く頷いた。

「では、帰ろう」紘一は、言った。「家族が、待っている」

兵たちは、立ち上がった。疲れ切った体を、無理やり動かす。そして、戦死した仲間の遺体を、担いだ。

一行は、戦場を後にした。その足取りは、重かった。だが、生きている。まだ、生きている。

夕日が、西の空を赤く染めていた。その光が、戦場を照らしている。血に染まった大地を。倒れた兵たちを。そして、生き残った兵たちを。

紘一は、その夕日を見ながら、誓った。二度と、このような戦いはしたくない。二度と、仲間を失いたくない。

平和を作る。戦いのない世界を作る。それが、紘一の新しい決意だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ