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二十八、初陣の激闘—戦術と恐怖の狭間で

敵の先鋒が、川を渡り終えた。

その数は、約百名。鎧を着け、槍や刀を持った兵たちが、こちらに向かって走ってくる。その足音が、大地を震わせる。怒号が、空気を震わせる。

「構えろ!」紘一は、号令をかけた。

神崎家の兵たちは、隊列を整えた。最前列の槍兵が、槍を前に突き出す。その穂先が、日光を反射して輝く。二列目の刀兵が、槍兵の隙間に立つ。三列目の弓兵が、弓を引き絞る。

敵が、五十メートルまで接近した。その顔が、はっきりと見える。怒りに歪んだ顔、恐怖に引きつった顔、様々な表情がある。

「弓、放て!」紘一は、命じた。

六本の矢が、一斉に放たれた。シュッ、シュッ、シュッという音とともに、矢が空を切る。その軌跡が、美しい放物線を描く。

矢が、敵の隊列に突き刺さった。数名の敵が、倒れる。悲鳴が上がる。だが、残りの敵は、止まらない。さらに接近してくる。

「次、放て!」

再び、矢が放たれる。また、数名が倒れる。だが、敵はまだ八十名以上いる。圧倒的な数だ。

敵が、二十メートルまで接近した。その表情が、さらにはっきりと見える。口を開けて叫んでいる。目を見開いている。恐怖と興奮が、その顔に表れている。

「槍、構えろ!」紘一は、叫んだ。

槍兵が、槍をさらに前に突き出す。その穂先が、敵を威嚇する。

敵が、十メートル、五メートル、そして激突した。

ガシャン、という金属音。槍と槍がぶつかり合う。兵たちの怒号。悲鳴。様々な音が、混ざり合う。

紘一も、槍を持って最前列に加わった。敵の槍が、こちらに向かって突き出される。紘一は、それを槍で払いのけた。そして、反撃する。槍を突き出す。

敵の兵が、それを避けようとする。だが、避けきれない。紘一の槍が、敵の肩に突き刺さる。

「ぐあっ!」敵が、悲鳴を上げる。

血が、噴き出す。鮮やかな赤い血。それが、紘一の顔にかかる。温かく、生臭い。

紘一は、槍を引き抜いた。敵が、倒れる。その顔を見る。若い男だった。二十代前半だろうか。その目が、紘一を見ている。恨みと、恐怖と、様々な感情が、その目に宿っている。

紘一の心に、罪悪感が押し寄せてくる。また、人を殺した。また、命を奪った。

だが、考えている暇はない。次の敵が、すぐに襲ってくる。

紘一は、再び槍を構えた。敵の攻撃を受け止め、反撃する。隣では、平吉が戦っている。権助も戦っている。皆、必死だ。

「隊列を崩すな!」紘一は、叫んだ。

神崎家の兵たちは、訓練通りに動いた。最前列の槍兵が、敵を押さえる。二列目の刀兵が、槍兵の隙間から攻撃する。三列目の弓兵が、遠距離から矢を放つ。

その連携が、効果を発揮していた。二十名という少数だが、隊列を組んで戦うことで、数倍の敵と対等に戦えている。訓練の成果が、ここで実を結んでいた。

だが、敵も必死だった。数で勝る敵は、次々と攻撃してくる。神崎家の兵たちも、徐々に疲れてきた。息が荒くなり、動きが鈍くなる。

「くそっ!」一人の槍兵が、敵の攻撃を受けて倒れた。

「誰か、代われ!」紘一は、叫んだ。

すぐに、二列目の刀兵が前に出た。倒れた槍兵を後ろに引き、その位置を埋める。隊列が、維持される。

戦いは、激しさを増していった。時間の感覚が、なくなる。ただ、敵を押さえる。攻撃を受け止める。反撃する。それだけに、集中する。

紘一の視界は、狭くなっていた。目の前の敵だけが見える。周囲の状況が、分からない。ただ、戦うことだけに、集中している。

その時、紘一は気づいた。敵の攻撃が、弱まっている。圧力が、減っている。

紘一は、視野を広げた。周囲を見る。敵が、徐々に後退していた。神崎家の兵たちの抵抗が、敵を押し返していたのだ。

「押せ!」紘一は、叫んだ。「前進だ!」

神崎家の兵たちは、前進し始めた。隊列を保ちながら、一歩、一歩、前に進む。敵が、さらに後退する。

やがて、敵は完全に退却した。川の方へ、走って逃げていく。神崎家の兵たちは、それを追わなかった。追えば、隊列が崩れる。崩れれば、危険だ。

「停止!」紘一は、号令をかけた。

兵たちは、その場で止まった。そして、深呼吸をする。戦いが、一時的に止んだ。

紘一は、周囲を見回した。地面には、多くの死体が転がっていた。敵の死体が、十数体。神崎家の兵の死体も、一体。重傷者が、三名。軽傷者が、五名。

二十名のうち、無傷なのは十名程度だった。半分が、何らかの傷を負っている。だが、戦える。まだ、戦える。

「負傷者を、後ろに下げろ」紘一は、指示した。

重傷者は、戦線から離脱させる。軽傷者は、そのまま戦線に残る。

「水を飲め。休憩だ」紘一は、兵たちに言った。

兵たちは、座り込んだ。疲労が、顔に浮かんでいる。汗が、額を流れている。冬の寒さの中でも、体は熱い。

平吉が、紘一のところに来た。その顔には、血が付いている。「田邊さん、大丈夫ですか」

「ああ。お前は」

「少し、腕を切られましたが、大したことありません」平吉は、左腕を見せた。浅い傷があり、血が滲んでいる。

「手当をしろ」紘一は、言った。

「はい」

権助も、無事だった。だが、その顔には、疲労が浮かんでいる。「田邊様、敵は、まだ来ますか」

「おそらく」紘一は、答えた。「これは、第一波に過ぎない」

実際、川の向こうには、まだ多くの敵がいた。千五百以上。それが、次々と攻めてくるだろう。

「休憩は、短い。すぐに、次が来る」紘一は、兵たちに言った。「体力を温存しろ」

兵たちは、頷いた。

紘一は、戦場全体を見渡した。右側の他の部隊も、激しく戦っている。中央の本隊は、敵の中央と激突している。その規模は、こちらとは比べ物にならない。数千の兵が、ぶつかり合っている。

その光景は、まさに地獄だった。兵たちが倒れ、血が流れ、悲鳴が響く。だが、それが戦場だった。それが、戦国時代の現実だった。

「次、来ます!」一人の兵が、叫んだ。

紘一は、前を見た。再び、敵が川を渡り始めていた。今度は、さらに多い。二百名ほどだろうか。

「構えろ!」紘一は、再び号令をかけた。

兵たちは、立ち上がった。疲れた体を、無理やり動かす。隊列を整える。武器を構える。

「来るぞ!」

敵が、再び接近してくる。その足音が、大地を震わせる。怒号が、空気を震わせる。

紘一は、深く息を吸った。そして、槍を構えた。

戦いが、再び始まった。


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