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二十六、前夜の対話—兵たちとの絆と不安の共有

深夜、紘一が天幕の外に出ると、平吉が焚き火の前に座っていた。

焚き火の炎が、平吉の顔を照らしている。その表情は、複雑だった。不安と、決意と、様々な感情が入り混じっている。

「平吉、眠れないのか」紘一は平吉の隣に座った。

「はい。どうしても、目が冴えてしまって」平吉は苦笑した。

二人は、しばらく黙って炎を見ていた。炎が、パチパチと音を立てている。その音だけが静かな夜に響いている。

「田邊さん」平吉が口を開いた。「俺、怖いです」

紘一は平吉を見た。平吉の目には涙が滲んでいた。

「明日、戦いが始まります」平吉の声は震えていた。「人を殺すかもしれない。殺されるかもしれない」平吉は拳を握りしめた。「それが、怖いです」

「俺も怖い」紘一は正直に答えた。

平吉は驚いた顔をした。「田邊さんも、ですか」

「ああ」紘一は頷いた。「松永との戦いの後、俺は何日も眠れなかった。人を殺した罪悪感に、苦しんだ」紘一の声が震えた。「今でも、時々、夢に見る。あの若者の顔を」

平吉はじっと紘一を見ていた。

「だが、それでも戦わなければならない」紘一は続けた。「仲間を守るために。家族を守るために。領地を守るために」紘一は炎を見つめた。「恐怖を感じながらも、やるべきことをやる。それが俺たちの役目だ」

平吉は深く頷いた。「そうですね」

「平吉」紘一は、平吉の肩を叩いた。「お前は、一人じゃない。仲間がいる。俺がいる」紘一は、真剣に言った。「皆で支え合えば、乗り越えられる」

「はい」平吉の目に、決意が宿った。

その時、権助も焚き火のところに来た。「田邊様、平吉、眠れないのか」

「ああ」紘一は頷いた。「権助もか」

「はい」権助は座った。「子供たちの顔が頭から離れなくて」

三人は焚き火を囲んで座った。

「俺も母ちゃんのことを考えていました」平吉が言った。「一人で、寂しがっているだろうなって」

「妻も心配しているだろう」権助も言った。

三人はそれぞれの家族のことを話した。大切な人たちのこと。守りたい人たちのこと。その話をすることで不安が少し和らいだ。

やがて、他の兵たちも焚き火のところに集まってきた。新吾も、他の兵たちも。皆、眠れないのだ。

「田邊様」新吾が尋ねた。「明日、俺たち、本当に大丈夫でしょうか」

紘一は新吾を見た。十八歳の若者。まだ、人生はこれからだ。その若者を、戦場に連れて行く。その責任が、紘一の胸に重くのしかかった。

「大丈夫だ」紘一は断言した。「我らには、訓練がある。仲間がいる。そして、何より守るべきものがある」紘一は兵たちを見回した。「それが、我らを強くする」

兵たちは頷いた。

「そして、俺がお前たちを守る」紘一は約束した。「必ず、全員を生きて帰す」

兵たちの目に、涙が滲んだ。紘一の言葉が心に響いたのだ。

「田邊様」権助が口を開いた。「俺たち、田邊様についていきます」権助の声には決意があった。「どこまでも」

「はい」他の兵たちも一斉に答えた。

紘一は胸が熱くなった。この兵たちの信頼に応えなければならない。

「では、約束しよう」紘一は立ち上がった。「全員で、生きて帰る」紘一は手を差し出した。「約束だ」

兵たちも立ち上がった。そして、紘一の手に自分たちの手を重ねた。二十の手が一つに重なった。

「約束します」兵たちは一斉に言った。

その瞬間、紘一は感じた。この兵たちとの絆を。一つのチームとしての一体感を。これが、戦場で最も重要なものだと。

焚き火を囲んで、兵たちは深夜まで話をした。家族のこと、故郷のこと、戦いが終わったらやりたいこと。様々なことを話した。

「俺、戦いが終わったら、結婚するんだ」一人の兵が言った。

「本当か。おめでとう」他の兵たちが祝福した。

「田邊様のおかげで、米の収穫が増えました。それで、やっと結婚できるんです」その兵は、嬉しそうに笑った。

「じゃあ、絶対に生きて帰らないとな」紘一は微笑んだ。

「はい!」

こうして、兵たちは夜を過ごした。不安を共有し、希望を語り合い、絆を深めた。

やがて、夜が明け始めた。東の空がわずかに明るくなってきた。

「そろそろ、準備をしよう」紘一は立ち上がった。

兵たちも、立ち上がった。その顔には疲れがあったが、同時に、決意もあった。

「皆、休めたか」

「はい」兵たちは答えた。

「よし。では、出陣の準備をしよう」

兵たちは天幕に戻り、鎧を着け、武器を手に取った。そして、隊列を組んだ。

紘一はその様子を見ながら、思った。この兵たちならやれる。必ず勝てる。そして、生きて帰れる。

空が徐々に明るくなってきた。新しい一日が、始まろうとしていた。そして、その日は戦いの日だった。

紘一は深く息を吸った。そして、兵たちに号令をかけた。

「出陣だ」

二十名の兵が一斉に動き出した。その足音が朝の静寂に響いた。

戦いが始まろうとしていた。



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