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二十五、道三の本陣—戦略会議と指揮系統

翌朝、一行は道三の本陣へ向かった。

本陣は、この地域で最も大きな町の外れにあった。広大な平地に、無数の天幕が立ち並んでいる。その数は、数百に及ぶだろう。それぞれの天幕から、煙が上がっている。朝食の準備をしているのだ。

道三の軍は、想像以上に大規模だった。紘一はその規模に圧倒された。兵の数は、少なくとも三千はいるだろう。もしかしたら、五千かもしれない。旗が至る所に立てられている。斎藤家の家紋が風に揺れている。

馬の嘶き、兵の話し声、武器の音。様々な音が、本陣に満ちていた。これが、戦国大名の軍勢だ。神崎家の百五十名など、この中では微々たるものだった。

一行が本陣に入ると、すぐに案内役が現れた。斎藤家の若い武士だった。「神崎家の田邊殿ですね。お待ちしておりました」

「よろしくお願いします」紘一は頭を下げた。

「まず、あなた方の天幕にご案内します」案内役は、一行を天幕の一角に案内した。そこには、神崎家のための天幕が用意されていた。質素だが十分な広さがあった。

「ここが、あなた方の宿営地です」案内役は説明した。「荷物を置いて、休んでください」案内役は続けた。「午後、道三様が全軍に訓示をされます。それまでに準備を整えてください」

「承知しました」

案内役が去った後、兵たちは天幕に荷物を置いた。そして、周囲を見回した。

「すごい数の兵ですね」平吉が呟いた。

「ああ。これが、道三様の力だ」紘一も感心した。

午後になると、全軍が集められた。広い平地に数千の兵が集まった。その光景は圧巻だった。整然と並ぶ兵たち。旗が、風に揺れている。馬が、嘶いている。

やがて、道三が現れた。馬に跨り、鎧を着た道三は威厳に満ちていた。その姿を見た瞬間、兵たちは静まり返った。

道三は馬から降りて、高台に立った。そして、全軍を見回した。

「兵たちよ、よく集まった」道三の声は低く、力強かった。だが、その声は広い平地の隅々まで届いた。「今日から、我らは戦いに出る」

兵たちは、じっと道三を見ていた。

「我らの敵は、北の領主、名を土岐頼純という」道三は説明した。「彼は、美濃の統一を妨げている。それを排除する」

道三の声には、確信があった。迷いがない。ただ、目的があり、それを達成する。それだけだ。

「この戦いは、美濃の未来を決める戦いだ」道三は続けた。「我らが勝てば、美濃は統一される。平和が訪れる」道三の目が鋭くなった。「だが、負ければ、混乱が続く。戦いが続く」

「だからこそ、勝たねばならぬ」道三の声が高くなった。「全力で戦え。そして、勝利を掴め」

「おう!」兵たちは、一斉に叫んだ。その声が、平地に響き渡った。

道三の訓示が終わると、各部隊の指揮官が集められた。紘一もその中に含まれていた。

指揮官たちは、道三の天幕に集まった。天幕の中は広く、中央には大きな地図が広げられていた。美濃の地図だった。そこに、敵の位置、味方の位置が記されている。

道三が地図を指差しながら説明した。「敵は、ここ。川の向こうに陣を張っている」道三の指が地図上の一点を示した。「兵力は、約二千。我らより少ない」

指揮官たちは、地図を見ながら頷いた。

「我らの作戦は、こうだ」道三は続けた。「まず、本隊が正面から攻める。敵の注意を引きつける」道三の指が別の場所を示した。「その間に、別働隊が側面から回り込む。敵を挟撃する」

シンプルだが、効果的な作戦だった。数で勝る斎藤軍が敵を圧倒する。

「各部隊の配置は、こうだ」道三は指揮官たちに役割を説明し始めた。本隊、右翼、左翼、別働隊。それぞれに指揮官が任命された。

やがて、紘一の番が来た。「神崎家の田邊」

「はい」紘一は前に出た。

「お前の部隊は、左翼に配置する」道三は、地図を指差した。「ここだ。敵の右翼と対峙する」

紘一は地図を見た。左翼は、川沿いの位置だった。地形は、やや不利だ。川があるため、退路が限られている。

「お前の役目は、敵の右翼を押さえることだ」道三は続けた。「敵が側面に回り込まないように、しっかりと守れ」

「承知しました」紘一は答えた。

だが、内心では不安もあった。左翼は重要な位置だ。もし、ここが破られれば、味方全体が危険になる。二十名という少数でそれを守れるだろうか。

「田邊」道三が紘一を呼んだ。

「はい」

「お前ならできる」道三の目には期待が宿っていた。「お前の戦術を信じている」

紘一は深く頭を下げた。「最善を尽くします」

会議が終わると、指揮官たちは各自の部隊に戻った。紘一も神崎家の天幕に戻った。

兵たちが、紘一を待っていた。「田邊様、我らの配置は」

「左翼だ」紘一は、説明した。「敵の右翼と対峙する」

兵たちは真剣な顔で聞いていた。

「役目は敵を押さえることだ」紘一は続けた。「敵が側面に回り込まないようにしっかりと守る」

「承知しました」兵たちは、一斉に答えた。

紘一は地面に棒で図を描いた。「配置はこうだ。最前列に槍兵七名。二列目に刀兵七名。三列目に弓兵六名」

兵たちは、その図を見ながら自分の位置を確認した。

「明日、戦いが始まる」紘一は兵たちを見回した。「訓練したことを思い出せ。落ち着いて、命令に従え」紘一の声には確信があった。「そうすれば、必ず勝てる。そして、生きて帰れる」

「はい!」兵たちは力強く答えた。

その夜、紘一は眠れなかった。天幕の中で、横になっているが、目が冴えている。明日、戦いが始まる。また、人を殺すかもしれない。あの悪夢がまた蘇るかもしれない。

だが、同時に、覚悟もあった。兵たちを守る。神崎家の名誉を守る。そして、生きて帰る。それが、今の紘一の使命だった。

天幕の外からは、他の兵たちの話し声が聞こえてくる。誰もが、明日の戦いに備えている。武器を研いでいる音。鎧を調整している音。様々な音が、夜の本陣に響いている。

紘一は目を閉じた。そして、深呼吸をした。心を落ち着かせる。恐怖を受け入れる。そして、やるべきことに集中する。

「明日、戦う。そして、勝つ」

紘一はそう自分に言い聞かせた。


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