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二十一、出陣の準備—兵の選抜と訓練強化

道三からの要請を受けて、紘一は出陣の準備を始めた。

まず、二十名の兵を選抜しなければならない。神崎家の兵は全部で百五十名いるが、その中から最も優秀な二十名を選ぶ必要があった。戦場では、質が重要だ。数が少ない分、一人一人の能力が高くなければならない。

紘一は、伊藤と佐々木を呼んで、相談した。場所は、屋敷の奥にある小さな部屋だった。冬の寒さが厳しく、部屋の中央には火鉢が置かれている。その周りに、三人が座った。

「兵の選抜だが、どういう基準で選ぶべきだろうか」紘一は、二人に尋ねた。

伊藤が、最初に答えた。「まず、実戦経験がある者だ」伊藤の声は、確信に満ちていた。「松永との戦いに参加した者たちは、すでに戦場を経験している。彼らは、戦いの恐怖を知っている。そして、それを乗り越える方法も知っている」

「なるほど」紘一は、頷いた。確かに、実戦経験は重要だった。初陣の者を戦場に連れて行くのは、リスクが高い。

「次に、武芸の技量だ」伊藤は、続けた。「槍、刀、弓。それぞれの武器に優れた者を選ぶべきだ」伊藤は、指を折りながら説明した。「バランスの取れた部隊を作る必要がある」

佐々木も、口を開いた。「そして、忠誠心だ」佐々木の声は、静かだが、重みがあった。「戦場では、命令に従うことが何より重要だ。どんなに武芸に優れていても、命令を無視する者は、部隊全体を危険にさらす」

紘一は、二人の意見を聞きながら、メモを取った。実戦経験、武芸の技量、忠誠心。この三つが、選抜の基準になる。

「では、具体的に名前を挙げていこう」紘一は、言った。

伊藤が、最初の名前を挙げた。「まず、平吉だ」伊藤の声には、確信があった。「彼は、松永との戦いで良く戦った。そして、田邊殿に絶対的な忠誠を誓っている」

紘一は、少し躊躇した。平吉を戦場に連れて行くことは、危険だった。もし、平吉が死んだら。その責任は、紘一が負うことになる。

だが、同時に、平吉の決意も理解していた。平吉は、紘一と共に戦いたいと言った。その決意を、無視することはできない。

「分かった。平吉を入れよう」紘一は、決断した。

次に、佐々木が名前を挙げた。「次に、権助だ」権助は、屋敷の下男として働いている男だったが、元々は兵士だった。「彼は、槍の扱いに優れている。そして、冷静だ」

「権助か。確かに、彼は優秀だ」紘一は、頷いた。

こうして、一人一人、名前を挙げていった。槍に優れた者、弓に優れた者、刀に優れた者。そして、何より、信頼できる者。二時間ほどかけて、二十名のリストが完成した。

リストを見ながら、紘一は考えた。この二十名が、紘一と共に戦場に出る。そして、生きて帰れるかどうかは、紘一の指揮次第だった。その責任の重さが、紘一の肩にのしかかった。

「では、この二十名を、明日集めよう」紘一は、言った。「そして、訓練を始める」

「訓練ですか」伊藤は、少し驚いた顔をした。「出陣まで、あと三週間しかありませんが」

「だからこそ、訓練が必要だ」紘一は、真剣に言った。「松永との戦いでは、待ち伏せという有利な状況だった。だが、今回は違う。道三様の軍の一部として、正面から戦うことになる」紘一は、続けた。「隊列を組んで戦う訓練が必要だ」

伊藤は、頷いた。「なるほど。確かに、その通りだ」

翌日、選抜された二十名の兵が、稽古場に集まった。平吉、権助、そして他の十八名。皆、神崎家の中でも精鋭と呼ばれる者たちだった。

紘一は、彼らの前に立った。二十名の兵が、紘一を見ている。その目には、緊張と、同時に信頼があった。紘一が、松永との戦いで勝利をもたらした。その事実が、兵たちに信頼を与えていた。

「皆、集まってくれてありがとう」紘一は、声をかけた。「今日から、出陣に向けて、訓練を始める」

兵たちは、真剣な顔で頷いた。

「今回の戦いは、松永との戦いとは違う」紘一は、説明した。「我らは、道三様の軍の一部として戦う。つまり、隊列を組んで、命令に従って動く必要がある」

紘一は、地面に棒で図を描いた。「隊列は、三列に組む。最前列は、槍を持つ者。二列目は、刀を持つ者。三列目は、弓を持つ者」

兵たちは、その図を見ながら、頷いた。

「最前列の槍兵は、敵の攻撃を受け止める。槍の長さを活かして、敵を近づけさせない」紘一は、続けた。「二列目の刀兵は、槍兵の隙間から攻撃する。そして、槍兵が倒れたら、すぐに前に出て代わる」

「三列目の弓兵は、遠距離から敵を攻撃する。特に、敵の指揮官を狙う」

紘一の説明は、明確で、分かりやすかった。兵たちは、真剣に聞いていた。

「では、実際にやってみよう」紘一は、言った。

兵たちは、三列に並んだ。最前列に七名、二列目に七名、三列目に六名。バランスの取れた配置だった。

「槍、構え!」紘一が、命令した。

最前列の兵たちが、槍を構える。その動きは、統一されていた。伊藤の指導が、ここで活きている。

「前進!」

兵たちが、一斉に前進する。足並みを揃えて、ゆっくりと。だが、最初は、うまくいかなかった。足並みが乱れ、隊列が崩れる。

「止まれ!」紘一が、命令した。

兵たちが、止まった。

「足並みが揃っていない」紘一は、指摘した。「隊列が崩れれば、敵に隙を突かれる。もう一度」

兵たちは、再び挑戦した。そして、また失敗した。だが、諦めなかった。何度も、何度も、繰り返した。

一時間、二時間、三時間。休憩を挟みながら、訓練は続いた。兵たちは、汗だくになった。冬の寒さの中でも、体が熱くなっている。息が白く、空気中に漂う。

だが、徐々に、足並みが揃ってきた。隊列が、乱れなくなってきた。兵たちの動きが、一つになってきた。

「よし、良くなってきた」紘一は、兵たちを励ました。

平吉が、紘一のところに来た。その顔は、汗で光っていたが、充実感があった。「田邊さん、こういう訓練、初めてです」

「そうか」紘一は、微笑んだ。「だが、これが重要なんだ。隊列を組んで戦えば、少数でも大軍に対抗できる」

「はい」平吉は、頷いた。「皆、真剣です」

訓練は、毎日続いた。朝から夕方まで、兵たちは稽古場で訓練した。隊列の訓練、槍の訓練、弓の訓練。そして、実戦を想定した模擬戦闘。

紘一も、兵たちと共に訓練した。槍を持ち、隊列の中に入り、共に動く。兵たちは、それを見て、さらに士気を高めた。指揮官が、自分たちと共に訓練している。それが、兵たちに勇気を与えた。

伊藤も、訓練を手伝った。武芸の指導、戦術の説明。その経験が、兵たちの能力を引き上げた。

二週間後、兵たちの動きは、見違えるほど良くなっていた。隊列は乱れず、命令には即座に反応し、武器の扱いも向上していた。二十名の兵が、一つの有機体のように動くようになった。

紘一は、その様子を見て、満足した。「これなら、戦える」

伊藤も、頷いた。「見事だ。わずか二週間で、ここまで鍛え上げた」伊藤の声には、賞賛が込められていた。「田邊殿、お前の指導力は、本物だ」

「いえ、兵たちが優秀だったからです」紘一は、謙虚に答えた。

だが、内心では、不思議な感覚もあった。訓練の方法、戦術、すべてが自然に頭に浮かんできた。まるで、以前からずっと知っていたかのように。これも、能力のおかげなのだろう。この時代で生き延びるために必要な知識が、自然に与えられている。

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