二十、帰路の決意—戦いへの覚悟
稲葉山城を後にした帰路、紘一は黙り込んでいた。
馬上で、ただ前を見つめている。その顔には、複雑な表情があった。
伊藤が、馬を並べてきた。「田邊殿、大丈夫か」
「……ああ」紘一は、答えた。
「また、戦場に出ることになったな」伊藤の声には、心配が滲んでいた。
「はい」
「辛いか」
紘一は、正直に答えた。「はい。正直、辛いです」
伊藤は、頷いた。「当然だ。戦場は、地獄だ」伊藤は、続けた。「人を殺し、殺される。それは、決して楽しいことではない」
「伊藤殿は、どうやって耐えているんですか」紘一は、尋ねた。
伊藤は、遠くを見た。「耐えているわけではない」伊藤の声は、重かった。「ただ、受け入れているだけだ」
「受け入れる……」
「ああ」伊藤は、続けた。「これが、武士の運命だと。戦い、殺し、殺される。それが、わしらの生きる道だと」
紘一は、伊藤の言葉を噛みしめた。武士の運命。確かに、この時代に生まれた武士は、そうなのだろう。だが、紘一は違う。紘一は、現代から来た人間だ。平和な時代で生きてきた。
だが、今は、この時代にいる。ならば、この時代のルールに従わなければならない。
「田邊さん」平吉が、後ろから声をかけた。「俺も、一緒に行きます」
「平吉、お前は……」
「俺も、神崎家の武士です」平吉の声は、決意に満ちていた。「田邊さんが戦場に出るなら、俺も一緒に行きます」
紘一は、平吉の決意を感じた。「ありがとう」
三人は、黙々と馬を進めた。冬の風が、冷たく吹いている。だが、三人の心には、決意があった。
神崎領に戻ると、広綱に報告した。
「道三様は、提案を受け入れてくださいました」紘一は、言った。「兵二十名と、米百俵で良いとのことです」
「それは良かった」広綱は、安堵した。
「ですが、条件があります」紘一は、続けた。「その二十名を、私が率いることになりました」
広綱の顔が、曇った。「お前が、戦場に出るのか」
「はい」
広綱は、しばらく黙っていた。そして、深くため息をついた。「辛い役目を、押し付けてしまったな」
「いえ、これは私の務めです」紘一は、言った。
「気をつけろ」広綱は、真剣な顔で言った。「必ず、生きて帰ってこい」
「はい」
その夜、紘一は一人、部屋で考えていた。
また、戦場に出る。また、人を殺すかもしれない。あの悪夢が、また蘇るかもしれない。
だが、同時に、これは避けられないことだとも思った。この時代で生きる以上、戦いからは逃げられない。
紘一は、窓の外を見た。雪が、静かに降っている。白い雪が、闇の中で舞っている。
「乗り越えなければ」紘一は、呟いた。「この試練を、乗り越えなければ」
紘一は、決意を固めた。戦場に出る。そして、生き延びる。仲間を守る。それが、今の紘一にできることだった。




