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十九、再びの稲葉山城—道三の真意

翌日、紘一は稲葉山城へ向かった。今回は、伊藤と平吉が同行した。

冬の道は厳しかった。雪が積もり、風が冷たい。だが、三人は黙々と進んだ。

半日ほど馬を走らせて、稲葉山城に到着した。相変わらず、威容を誇る城だった。石垣は高く、櫓が立ち並ぶ。兵たちが、至る所に配置されている。

城門で、紘一たちは止められた。「何者だ」

「神崎家の使者、田邊紘一です。道三様にお会いしたい」

門番は、紘一を見た。その目には、認識があった。紘一のことは、すでに城内で知られているのだろう。

「少々、お待ちください」

門番が、城内に走っていった。しばらくして、戻ってきた。

「道三様が、お待ちです。中へどうぞ」

紘一たちは、城内に案内された。廊下を歩きながら、紘一は前回来た時のことを思い出していた。宴の時。道三との密談。そして、引き抜きの誘い。

やがて、道三の部屋に案内された。前回と同じ、小さな書院だった。

道三は、窓際に立っていた。城下町を見下ろしている。その背中は、威厳に満ちていた。

「田邊殿、よく来た」道三は、振り返った。その顔には、わずかな笑みがあった。「また会えて、嬉しい」

「お招きいただき、ありがとうございます」紘一は、深く頭を下げた。

「座ってくれ」道三は、座るように勧めた。

二人は、向かい合って座った。

「稲葉から、話は聞いているな」道三は、単刀直入に切り出した。

「はい」紘一は、頷いた。

「神崎家から、五十名の兵を出してもらいたい」道三は、続けた。「それが、わしの要求だ」

「存じております」紘一は、答えた。「ですが、五十名は、神崎家にとって大きな負担です」

道三の目が、わずかに細くなった。「断るのか」

「いえ」紘一は、首を横に振った。「別の提案があります」

「聞かせてもらおう」

「兵は、二十名を出します」紘一は、言った。「そして、代わりに、米を百俵提供します」

道三は、しばらく黙っていた。その表情からは、何を考えているのか分からない。

「米、百俵か」道三は、呟いた。

「はい」紘一は、続けた。「戦いには、兵糧が必要です。米があれば、道三様の軍は、より長く戦えます」

道三は、少し考えてから、口を開いた。「なるほど。理に適っている」道三は、続けた。「だが、わしが欲しいのは、兵だ」

「二十名の兵でも、役に立つはずです」紘一は、言った。「神崎家の兵は、松永との戦いで鍛えられています。質は高いです」

道三は、紘一を見た。その目は、値踏みするようだった。

「田邊殿」道三は、口を開いた。「お前、交渉が本当に上手いな」

「恐れ入ります」

「わしが何を考えているか、分かるか」道三は、尋ねた。

紘一は、正直に答えた。「神崎家の忠誠心を、測っておられるのだと思います」

道三は、笑った。「その通りだ」道三は、続けた。「小山領の件で、お前たちは良い働きをした。だが、それだけでは、信用できない」道三の目が、鋭くなった。「本当に、斎藤家に協力する意思があるのか。それを、確かめたかった」

「そして、今、確かめられましたか」紘一は、尋ねた。

道三は、頷いた。「ああ。お前たちは、断らなかった」道三は、続けた。「そして、代案を提示した。それが、賢明だ」

道三は、立ち上がった。「よし。お前の提案を受け入れよう」

「本当ですか」紘一は、安堵した。

「ああ」道三は、頷いた。「兵二十名と、米百俵。それで十分だ」

紘一は、深く頭を下げた。「ありがとうございます」

「だが、一つ条件がある」道三の声が、真剣になった。

「何でしょうか」

「その二十名、お前が率いろ」道三は、言った。

紘一は、驚いた。「私が、ですか」

「ああ」道三は、頷いた。「お前の戦術を、この目で見たい」道三の目には、興味が宿っていた。「松永との戦いでの手腕を、実際に見てみたい」

紘一は、迷った。戦場に出る。それは、再び人を殺すことを意味する。あの悪夢が、また蘇る。

だが、断ることもできない。これは、道三からの命令だった。

「承知しました」紘一は、答えた。

道三は、満足そうに頷いた。「よし。では、来月、出陣だ」


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