十五、お堂の修理—領民たちの協力と連帯
数日後、お堂の修理が始まった。
紘一は、村の大工を集めて、修理の計画を立てた。大工の棟梁は、名を権兵衛という五十代の男だった。痩せた体だが、筋肉質で、目は鋭い。長年、大工として働いてきた男の、職人の目だった。
「田邊様、このお堂、かなり古いですな」権兵衛は、お堂を見回しながら言った。「ですが、骨組みはしっかりしています。修理すれば、まだ何十年も使えるでしょう」
「どれくらいの期間で、修理できますか」紘一は、尋ねた。
権兵衛は、考えた。「そうですな……屋根の葺き替え、壁の塗り直し、床の整備。すべてを含めて、二週間ほどでしょうか」
「二週間……」紘一は、少し長いと思ったが、仕方ない。丁寧な仕事をしてもらった方がいい。
「ですが、人手があれば、もっと早くなります」権兵衛は、続けた。「村の者たちに手伝ってもらえば、一週間でできるかもしれません」
「では、村の人たちに声をかけてみます」紘一は、言った。
その日の午後、紘一は村の広場に人々を集めた。太郎、源蔵、そして他の農民たち。三十人ほどが集まった。
「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます」紘一は、挨拶した。「今日は、お願いがあって、集まっていただきました」
農民たちは、紘一を見ている。その目には、信頼があった。紘一が、何か良いことを提案してくれるに違いないという、期待があった。
「村の西にある古いお堂を、寺子屋にしたいと思います」紘一は、説明した。「そこで、子供たちに、そして希望する大人にも、字を教えます」
農民たちは、ざわめいた。字を教える。それは、夢のような話だった。
「ですが、お堂は古くて、修理が必要です」紘一は、続けた。「大工さんたちが修理してくれますが、人手が足りません」紘一は、農民たちを見回した。「皆さんに、手伝っていただけないでしょうか」
しばらく、沈黙があった。農民たちは、顔を見合わせている。冬の農閑期とはいえ、皆、それぞれの仕事がある。薪を集めたり、家の修理をしたり、様々な冬仕事がある。
だが、やがて、太郎が手を挙げた。「俺、手伝います」
太郎の言葉に、他の農民たちも頷き始めた。
「俺も」
「俺も手伝う」
次々と、手が挙がった。
源蔵も、手を挙げた。「俺も、できる範囲で手伝います」
紘一は、胸が熱くなった。「ありがとうございます。皆さんの協力で、きっと素晴らしい寺子屋ができます」
翌日から、修理が始まった。権兵衛と大工たちが中心となり、農民たちが手伝う。皆、一丸となって働いた。
まず、屋根の修理だった。古い茅を取り除き、新しい茅を葺く。茅は、近くの山から刈ってきた。農民たちが、山に入り、茅を刈る。そして、それを背負って運ぶ。重労働だが、誰も文句を言わない。
大工たちが、屋根に茅を葺く。その技術は、見事だった。一枚一枚、丁寧に重ねていく。隙間がないように、しっかりと押し込む。雨漏りしないように、角度を計算する。
紘一も、手伝った。茅を運んだり、道具を渡したり。大工の仕事はできないが、手伝いならできる。
次に、壁の修理だった。崩れた土壁を、塗り直す。土を練り、藁を混ぜ、壁に塗る。これも、技術が必要な仕事だった。だが、農民たちも手伝える仕事だった。
皆で、土を練った。足で踏んで、混ぜる。子供たちも手伝った。泥だらけになりながら、楽しそうに働く。
そして、壁に塗る。大工たちが、丁寧に塗っていく。平らに、滑らかに。農民たちも、見よう見まねで手伝う。
床の修理は、最後だった。土間を平らにし、その上に板を敷く。板は、神崎家の山から切り出した。良質な杉の板だった。
権兵衛が、板を敷いていく。一枚一枚、丁寧に。隙間ができないように、きっちりと。その技術は、長年の経験から来るものだった。
一週間後、お堂の修理が完成した。
新しい茅の屋根、塗り直された壁、平らな床。まるで、新築のようだった。
紘一は、お堂の中に立ち、周囲を見回した。美しく、清潔で、明るい空間だった。ここで、子供たちが学ぶ。大人たちも学ぶ。知識を得て、未来を切り開く。
「素晴らしいです」紘一は、権兵衛に言った。
「いや、皆の協力のおかげです」権兵衛は、謙虚に言った。
農民たちも、満足そうにお堂を見ていた。自分たちが作り上げたものだ。その誇りが、顔に表れていた。
「皆さん、本当にありがとうございました」紘一は、深く頭を下げた。「この寺子屋は、皆さんの宝です。大切に使います」
農民たちは、拍手をした。その拍手は、温かく、希望に満ちていた。




