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八、領主の苦悩

一方、その頃、神崎広綱は自室で書状を読んでいた。

眉間には、深い皺が刻まれている。

書状は、周辺の領主たちからのものだった。

その多くが、暗に神崎家に圧力をかける内容だった。

(厳しいな……)

広綱は、深いため息をついた。

神崎家は、小さな地方領主だ。

領地は、わずか五百石程度。兵力は、百名にも満たない。

周囲には、より大きな勢力がいくつもある。

北には、斎藤家。美濃の有力大名だ。

西には、織田家。尾張の実力者だ。

そして、南や東にも、神崎家より大きな領主たちがいる。

彼らの間で、神崎家は常に圧迫されていた。

いつ攻められるか分からない。

いつ滅ぼされるか分からない。

それが、小領主の宿命だった。

「どうすればいいのか……」

広綱は、頭を抱えた。

戦えば、勝てない。

降伏すれば、家は存続できるかもしれないが、領民たちはどうなる。

新しい領主が、果たして領民たちを大切にしてくれるだろうか。

そして、家臣たちは。

彼らも、新しい主に仕えることになる。

だが、冷遇されるかもしれない。

最悪の場合、切り捨てられるかもしれない。

「俺一人の問題ではない……」

広綱は、窓の外を見た。

庭では、新しく来た田邊という男が、掃除をしている。

不思議な男だった。

記憶がないと言いながら、品があり、教養も感じられる。

おそらく、ただ者ではない。

だが、今はそれを詮索している場合ではない。

神崎家の存続。それが、最優先の課題だった。


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