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十一、新年の朝—初詣と領民との触れ合い

新年の朝、紘一は早くから目を覚ました。昨夜は遅くまで宴が続いたが、それでも体は自然に目を覚ます。これも、この時代の生活リズムに適応した結果だろう。

外に出ると、朝日が昇り始めていた。雪に覆われた大地が、朝日に照らされて、キラキラと輝いている。美しい朝だった。空気は冷たいが、澄んでいる。深く息を吸い込むと、肺が清められるような感覚がある。

神崎家では、新年の朝、領地の小さな神社に初詣に行く習慣があった。その神社は、屋敷から少し離れた丘の上にあった。古い神社で、いつ建てられたのかも分からないほど古い。だが、地域の人々に大切にされてきた神社だった。

紘一は、広綱、広信、そして主要な家臣たちと共に、神社へ向かった。雪道を、慎重に登る。滑りやすく、危険だが、皆、慣れた足取りで進んでいく。

神社に着くと、すでに多くの領民が集まっていた。農民たちも、新年の祈りを捧げに来ているのだ。太郎も、その家族と共にいた。源蔵も、娘に支えられながら来ていた。まだ完全に回復したわけではないが、新年の祈りだけはしたいと、無理を押して来たのだろう。

「田邊様、新年あけましておめでとうございます」太郎が、深く頭を下げた。

「おめでとうございます、太郎さん」紘一も、頭を下げた。

神社は、小さかった。本殿も、拝殿も、質素な木造建築だった。だが、丁寧に手入れされていることが分かる。柱は古いが、しっかりしている。屋根の茅も、新しく葺き替えられている。地域の人々が、大切にしているのだろう。

鳥居をくぐり、手水舎で手を清める。冷たい水だが、身が引き締まる。そして、拝殿の前に進む。

広綱が、最初に拝礼した。深く頭を下げ、手を合わせる。その姿は、厳かだった。領主として、領地の安泰を祈っているのだろう。

次に、広信が拝礼した。若き当主として、領民の幸せを祈っているのだろう。

そして、紘一の番が来た。紘一は、拝殿の前に立ち、深く頭を下げた。手を合わせる。

何を祈ろうか。

紘一は、考えた。現代に戻れるように、と祈るべきか。だが、それは、もう過去のことだと思えた。今は、この時代で生きている。ならば、この時代での願いを祈るべきだろう。

紘一は、静かに祈った。

「この領地の人々が、幸せでありますように。戦いがなく、平和が続きますように。飢えることなく、病むことなく、皆が笑顔で暮らせますように」

そして、もう一つ。

「私に、その手伝いをする力を与えてください」

紘一は、目を開けた。心が、少し軽くなった気がした。祈ることで、自分の決意を再確認できたのだろう。

拝礼が終わると、神社の境内で、領民たちと言葉を交わした。

「田邊様、今年もよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「田邊様のおかげで、去年は良い収穫がありました」

「今年も、頑張りましょう」

領民たちの顔には、笑顔があった。昨年の収穫増加で、少し生活が楽になったのだろう。それが、表情に表れていた。

源蔵も、紘一のところに来た。「田邊様、新年あけましておめでとうございます」源蔵の声は、まだ弱々しかったが、以前よりずっと良くなっていた。

「源蔵さん、おめでとうございます。具合はいかがですか」

「おかげさまで、だいぶ良くなりました」源蔵は、微笑んだ。「もう少しで、また畑仕事ができそうです」

「無理はしないでくださいね」紘一は、心配した。

「はい、分かっております」源蔵は、頷いた。「ですが、田邊様、一つお願いがあります」

「何でしょうか」

「今年、私の田んぼでも、間断灌漑を試させていただきたいのです」源蔵の目には、希望が宿っていた。「太郎の成功を見て、私もやってみたくなりました」

「もちろんです」紘一は、嬉しくなった。「喜んで、お手伝いします」

「ありがとうございます」源蔵は、深く頭を下げた。

紘一は、周囲を見回した。農民たちが、家族と共に、新年の挨拶を交わしている。子供たちが、雪の中で遊んでいる。老人たちが、神社の境内で談笑している。平和な光景だった。

この光景を、守りたい。紘一は、改めて思った。戦いで、この平和を壊したくない。人々の笑顔を、奪いたくない。


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