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九、新年の準備—この時代の祝祭と紘一の郷愁

十二月も終わりに近づき、新年の準備が始まった。

この時代、新年は旧暦で祝われる。だが、神崎領では、太陽暦も意識されていた。紘一が、現代の暦の知識を持っていたからだ。紘一は、広綱に太陽暦の概念を説明し、広綱はそれを興味深く受け入れた。

「なるほど。太陽の動きを基準にした暦か」広綱は、感心した。「それは、農業にも役立ちそうだ」

こうして、神崎領では、旧暦の正月と、太陽暦の正月、両方が意識されるようになった。そして、今は、太陽暦での年末が近づいていた。

屋敷では、正月の準備が進められていた。門松を立て、しめ縄を飾り、餅をつく。この時代の正月の準備は、現代とあまり変わらない部分もあった。

紘一は、その準備を手伝いながら、現代の正月を思い出していた。妻と二人で過ごした正月。おせち料理を作り、初詣に行き、のんびりと過ごした。妻は、料理が上手だった。特に、おせち料理は絶品だった。黒豆、数の子、田作り、すべてが手作りだった。

「あの味を、もう一度食べたいな……」紘一は、呟いた。

だが、それはもう叶わない。妻は、三年前に亡くなった。そして、紘一は、この時代にいる。現代に戻れるかどうかも、分からない。

紘一は、少し寂しくなった。だが、同時に、この時代での新しい人々との絆も感じていた。広綱、広信、平吉、伊藤、佐々木、太郎、源蔵。多くの人々と出会い、関わり合ってきた。彼らは、紘一の新しい家族のようなものだった。

「この時代で、新しい正月を迎えるんだな」紘一は、呟いた。

その時、平吉が駆け寄ってきた。「田邊さん、餅つきが始まりますよ!」

「おお、行こう」紘一は、微笑んだ。

中庭では、大きな臼と杵が用意されていた。蒸したもち米が、臼に入れられている。家臣たちが、順番に杵でつく。ペッタン、ペッタンという音が、屋敷に響く。

紘一も、杵を持たせてもらった。重い杵を振り上げ、餅をつく。ドスン、という重い音。もち米が、徐々に餅になっていく。粘りが出て、白く、滑らかになっていく。

「田邊殿、なかなかの手つきですな」伊藤が、笑った。

「いやいや、初めてですよ」紘一は、笑い返した。だが、実際には、現代でも餅つきをしたことがあった。学校の行事で、生徒たちと一緒に。あの時も、楽しかった。

餅がつき上がると、それを小さく丸めて、きな粉や砂糖醤油で食べる。出来立ての餅は、柔らかく、温かく、美味しかった。

「美味しい!」広信が、嬉しそうに言った。

「本当に美味しいですね」平吉も、頬張っている。

紘一も、餅を食べた。柔らかく、もちもちとした食感。きな粉の甘さと、餅の素朴な味が、口の中で混ざり合う。美味しかった。

その光景を見ながら、紘一は思った。ここには、温かさがある。人々の笑顔がある。助け合いがある。確かに、この時代は厳しい。戦いがあり、貧困があり、病気がある。だが、同時に、人々の絆もある。

「ここで、新しい人生を築いていくんだ」紘一は、決意した。


毎日6:00と12:00に更新します。

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