八、雪の日—領地の美しさと厳しさ
十二月の半ば、神崎領に初雪が降った。
朝、紘一が目を覚ますと、外が異常に明るかった。窓を開けると、そこには真っ白な世界が広がっていた。雪だ。一面の雪景色だった。
庭の木々は、雪に覆われて、まるで白い花が咲いたようだった。屋根にも、厚く雪が積もっている。道も、田んぼも、山も、すべてが白く染まっていた。美しい光景だった。
紘一は、外に出た。雪を踏みしめる音が、心地よい。キュッ、キュッという音。新雪独特の音だ。空気は、凛として冷たい。だが、それが清々しい。
屋敷の人々も、雪を見て喜んでいた。「雪だ!」子供たちが、はしゃいでいる。雪合戦をしたり、雪だるまを作ったり。その笑顔は、無邪気だった。
だが、紘一の心には、懸念もあった。雪は、美しい。だが、同時に、厳しい。特に、貧しい人々にとっては。雪が降れば、寒さが増す。家の中まで、冷え込む。暖房設備が不十分な農民の家では、凍える寒さになる。
そして、雪が積もれば、移動が困難になる。食料の調達も、薪の運搬も、すべてが大変になる。老人や病人にとっては、命に関わる問題だった。
紘一は、すぐに行動した。広綱に提案して、村への支援を決めた。薪を配る。米を配る。そして、特に困窮している家庭には、追加の支援をする。
その日の午後、紘一と平吉は、村を回った。雪道を、慎重に歩く。滑りやすく、危険だ。だが、行かなければならない。
村に着くと、農民たちが雪かきをしていた。家の周りの雪を、必死にかいている。屋根の雪も下ろしている。雪の重みで、屋根が潰れることもあるからだ。
「田邊様!」太郎が、紘一に気づいて駆け寄ってきた。「こんな雪の中、わざわざ……」
「様子を見に来ました」紘一は、答えた。「皆、大丈夫ですか」
「はい、おかげさまで」太郎は、頷いた。「今年は、収穫が良かったので、薪も食料も十分にあります」
「それは良かった」紘一は、安堵した。
だが、すべての家が太郎のように恵まれているわけではなかった。紘一は、いくつかの貧しい家を回った。そして、薪と米を配った。
ある家では、老夫婦が震えながら暮らしていた。囲炉裏に火は燃えているが、それだけでは家全体を温められない。壁には穴が開いていて、そこから冷たい風が入ってくる。
「これでは、凍えてしまう」紘一は、すぐに指示を出した。「壁の穴を塞いでください。そして、薪を追加で届けてください」
老夫婦は、涙を流して感謝した。「ありがとうございます、田邊様」
紘一は、村を回りながら、この時代の厳しさを改めて実感した。雪は美しい。だが、同時に、命を奪うこともある。特に、貧しい人々、老人、病人にとっては。
その夜、屋敷に戻った紘一は、広綱に報告した。
「殿、村の状況を見てきました。多くの家は、なんとか冬を越せそうです。ですが、いくつかの家は、厳しい状況です」
「そうか」広綱は、真剣な顔で聞いた。「支援を続けよう。領民あっての領地だ。彼らを守らなければならない」
「ありがとうございます」紘一は、深く頭を下げた。
その夜、紘一は窓の外を見た。雪は、まだ降り続いていた。静かに、しんしんと。その雪が、美しくもあり、恐ろしくもあった。
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