五、帰路の考察—広綱の洞察と助言
翌日、紘一と広綱は稲葉山城を後にした。帰路の馬上で、広綱が口を開いた。
「道三と、二人で話をしたそうだな」広綱の声は、穏やかだった。だが、その目には、鋭さがあった。
「はい」紘一は、驚いた。広綱は、気づいていたのだ。「昨夜、少しだけ」
「何を話した」広綱は、尋ねた。
紘一は、迷った。道三との会話を、すべて話すべきか。だが、広綱は紘一を信頼している。ならば、嘘をつくべきではない。
「道三様から、斎藤家に仕えないかと誘われました」紘一は、正直に答えた。
広綱の表情は、変わらなかった。「やはりな」広綱は、予想していたようだった。「道三は、優れた人材を見ると、必ず引き抜こうとする」広綱は、続けた。「お前は、どう答えた」
「お断りしました」紘一は、答えた。「神崎家への恩義があると」
広綱は、深く頷いた。「そうか」広綱の声には、安堵が滲んでいた。「ありがとう、田邊」
「いえ、当然のことです」紘一は、首を横に振った。
二人は、しばらく黙って馬を進めた。冬の道は厳しく、冷たい風が吹いている。だが、その沈黙は、不快なものではなかった。互いの信頼が、その沈黙を温かいものにしていた。
やがて、広綱が再び口を開いた。「田邊、お前に一つ、忠告がある」
「何でしょうか」
「道三は、諦めない」広綱の声は、真剣だった。「今回、お前が断っても、また別の方法で誘ってくる」広綱は、続けた。「金、地位、権力。それらがだめなら、別の方法を使う」
「別の方法、ですか」
「脅迫かもしれない。あるいは、お前の大切な人を人質に取るかもしれない」広綱の言葉は、厳しかった。「道三という男は、目的のためなら、手段を選ばない」
紘一は、背筋に冷たいものが走った。道三の恐ろしさを、改めて理解した。
「だが、恐れる必要はない」広綱は、続けた。「わしが、お前を守る。神崎家が、お前を守る」広綱は、紘一を見た。「お前は、わしの大切な家臣だ。そして、友でもある」
紘一は、胸が熱くなった。広綱の言葉が、心に染み入った。
「ありがとうございます」紘一は、深く頭を下げた。
「礼を言うのは、わしの方だ」広綱は、微笑んだ。「お前のおかげで、神崎家は救われた。領地は広がり、農業は改善され、人々は希望を持ち始めている」広綱の声には、感謝が込められていた。「それは、すべてお前の功績だ」
二人は、神崎領へと馬を進めた。冬の太陽が、西の空に傾いている。その光が、二人の背中を照らしていた。
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