二十八、食事の大改善—共同体の絆
その夜、紘一が部屋に戻ると、平吉が夕食を持ってきた。
「田邊さん、今日は特別です」
平吉は、嬉しそうに言った。
木の椀を開けると、その中には驚くべき変化があった。
完全な白米だった。
雑穀が、まったく入っていない。
純粋な、白米。
そして、おかずも豪華だった。
魚の煮付け、野菜の炊き合わせ、豆腐の味噌汁、漬物。
そして、肉も入っていた。
猪肉の味噌煮だ。
「これは……」
紘一は、目を見張った。
「太郎さんの田んぼが、大収穫だったんです」
平吉が説明した。
「それで、太郎さんが米を持ってきてくれました」
「そして、殿が言われました」
「広綱様が?」
「はい。『田邊の働きで、領地が豊かになりつつある。これからは、家臣たちの食事も改善する』と」
平吉の声には、感動が込められていた。
「それで、今日から皆の食事が良くなったんです」
平吉も、嬉しそうだった。
「家臣も、兵も、下男も、皆です。皆、喜んでいます」
紘一は、ゆっくりと食事を取り始めた。
白米の味。
ふっくらとして、甘みがある。
一粒一粒が、しっかりとしている。
雑穀の粥とは、比べ物にならない。
噛むたびに、米の甘みが口の中に広がる。
「美味しい……」
紘一は、心から思った。
魚の煮付けも、しっかりと味がついている。
醤油と味醂で煮込まれていて、魚の臭みもない。
身がふっくらとして、箸で簡単にほぐれる。
野菜の炊き合わせも、丁寧に作られている。
大根、人参、里芋、ゴボウ。
それぞれの野菜の味が生きている。
出汁がよく染みていて、優しい味だ。
豆腐の味噌汁は、温かく、ホッとする味だった。
味噌の風味が効いていて、豆腐の柔らかさが心地よい。
猪肉の味噌煮は、少し臭みがあるが、味噌でうまく消されている。
肉は柔らかく、味噌の味が染み込んでいる。
タンパク質が、体に染み渡る。
この時代に来て、初めて、本当に美味しいと感じる食事だった。
そして、この食事が食べられるのは、自分の働きのおかげだと思うと、誇らしさも感じた。
「田邊さん」
平吉が、口を開いた。
「皆、田邊さんに感謝しています」
「そんなことは……」
「本当です」
平吉は、真剣な顔で言った。
「田邊さんが来てから、神崎家は変わりました」
「戦いに勝ち、領地を広げ、農業を改善し、食事も良くなった」
平吉は、指を折りながら数えた。
「そして、何より、皆に希望が生まれました」
「このままでは滅びるかもしれないと思っていた神崎家が、今は発展しつつあります」
平吉の目には、涙が滲んでいた。
「それは、すべて田邊さんのおかげです」
「平吉……」
紘一は、言葉に詰まった。
平吉の言葉が、胸に響いた。




