二十七、太郎の田んぼ—収穫の時
神崎領に戻って数日後。
ついに、太郎の田んぼの収穫の日が来た。
紘一は、朝早くから太郎の田んぼを訪れた。
平吉も一緒だった。
田んぼには、黄金色の稲穂が揺れていた。
他の田んぼより、明らかに稲穂が大きく、数も多い。
「田邊様!」
太郎が、興奮した様子で駆け寄ってきた。
その顔は、喜びで輝いていた。
「今日、刈り取ります!」
太郎の声は、震えていた。
嬉しさで、興奮で、震えている。
「ああ、楽しみだな」
紘一は、微笑んだ。
太郎の家族、そして近所の農民たちも集まってきた。
皆、太郎の田んぼの収穫を見たがっていた。
間断灌漑の効果が、どれほどのものか。
それを、確かめたかった。
「では、始めましょう」
太郎は、鎌を手に取った。
そして、稲を刈り始めた。
ザクッ、ザクッという音が、田んぼに響く。
稲穂が、次々と刈り取られていく。
そして、束ねられていく。
紘一も、手伝った。
鎌を持ち、稲を刈る。
この時代の人々と同じように、手作業で。
体が、自然に動いた。
これも、能力のおかげだろうか。
数時間後、すべての稲が刈り取られた。
そして、脱穀が始まった。
稲穂から、米を取り出す作業だ。
これも、手作業だった。
千歯扱きという道具を使い、一つ一つ丁寧に。
夕方、ついに作業が終わった。
太郎は、収穫した米を計測した。
そして、驚きの声を上げた。
「十二俵だ!」
太郎の声は、信じられないという表情だった。
「十二俵……」
周囲の農民たちも、驚いた。
通常、この広さの田んぼなら、六俵程度が標準だ。
それが、十二俵。
完全に、倍だ。
「すごい……」
農民たちは、口々に言った。
「本当に、倍になった」
「間断灌漑、すごいぞ」
「俺も、来年やってみる」
農民たちの声は、興奮に満ちていた。
太郎は、紘一の前に跪いた。
「田邊様、本当にありがとうございます」
その目には、涙が溢れていた。
「これで、家族を養えます。年貢も払えます」
太郎の声は、喜びで震えていた。
「子供たちに、お腹いっぱい食べさせられます」
「妻に、もう自分の分を減らさなくていいって言えます」
太郎は、涙を拭った。
「本当に、本当に、ありがとうございます」
「良かった」
紘一も、胸が熱くなった。
太郎の喜びが、紘一の喜びでもあった。
これが、自分がこの時代でできることなのだと。
改めて、実感した。
そして、太郎は米を紘一に差し出した。
「これ、田邊様に」
一俵の米だった。
「いや、これは太郎さんの……」
「受け取ってください」
太郎は、真剣な顔で言った。
「感謝の気持ちです」
紘一は、その米を受け取った。
重い。
だが、その重さには、太郎の感謝が込められていた。
「ありがとう」
紘一は、深く頭を下げた。




