十八、小山領出発—覚悟と不安
翌日、紘一は小山領に向けて出発した。
伊藤と平吉が同行した。
護衛として、三名の兵も一緒だった。
一行は六名。
少人数だが、これが適切な規模だった。
多すぎれば、警戒される。
少なすぎれば、舐められる。
六名が、ちょうどいい。
「行ってきます」
紘一は、広信に挨拶した。
「田邊さん、気をつけて」
広信の声には、不安が滲んでいた。
だが、同時に、信頼も込められていた。
「必ず、成功させてください」
「はい。必ず」
紘一は、馬に乗った。
そして、一行は神崎領を後にした。
秋が深まり、木々の葉がさらに色づいていた。
赤、黄、橙、茶。
様々な色が、山を彩っている。
美しい景色だった。
だが、紘一の心は、重かった。
これから向かう先で、何が待っているのか。
小山領主を説得できるのか。
山本のような強硬派を、どう扱えばいいのか。
不安が、次々と湧いてくる。
「田邊殿」
伊藤が、馬を並べてきた。
「大丈夫ですか。顔色が悪いですよ」
「ああ、ちょっと緊張しているだけだ」
紘一は、笑顔を作った。
だが、その笑顔は、ぎこちなかった。
緊張が、隠せない。
「当然でしょう」
伊藤は、理解を示した。
「小山領主を説得するのですから」
伊藤は、少し間を置いてから続けた。
「しかも、山本のような強硬派もいる」
伊藤の声には、心配が滲んでいた。
「田邊殿、もし危険を感じたら、すぐに逃げてください」
「……はい」
紘一は、頷いた。
だが、内心では、逃げることはできないと思っていた。
失敗すれば、戦争になる。
神崎家も、小山領も、滅びるかもしれない。
だから、何としても成功させなければならない。
逃げる選択肢は、ない。
一行は、山道を進んだ。
神崎領から小山領までは、馬で半日の道のりだった。
道は、整備されていない山道で、険しい。
だが、天気は良い。
青空が広がり、風も穏やかだ。
道中、紘一は何度も説得の言葉を頭の中で繰り返した。
どう切り出すか。
どう論理を展開するか。
どう感情に訴えるか。
すべてを、シミュレーションした。
だが、実際にどうなるかは、分からない。
相手の反応次第で、臨機応変に対応しなければならない。
「田邊さん」
平吉が、馬を並べてきた。
「はい」
「俺、信じています」
平吉の声は、真剣だった。
「田邊さんなら、必ず説得できます」
「ありがとう、平吉」
紘一は、微笑んだ。
平吉の信頼が、心の支えになった。
「だから、無理しないでくださいね」
平吉は、続けた。
「もし危険だと思ったら、逃げてください」
「俺、田邊さんが無事に帰ってくることが、一番大事です」
平吉の目には、涙が滲んでいた。
「田邊さんは、俺にとって、一番大切な人ですから」
「平吉……」
紘一は、胸が熱くなった。
平吉の言葉が、心に染み入った。
「分かった。気をつけるよ」
紘一は、約束した。




