十五、小山領への準備—情報収集と戦略立案
その日の午後、紘一は作戦会議を開いた。
場所は、屋敷の奥にある小さな部屋だった。
壁には地図が掛けられ、机の上には様々な書状が散らばっている。
紘一、佐々木、伊藤の三人が集まった。
「小山領主を説得するために、まず情報を集めます」
紘一は、佐々木に指示した。
「小山領主の人物像、家臣の構成、領地の状況」
紘一は、指を折りながら説明した。
「できるだけ詳しく調べてください」
「承知しました」
佐々木は、すぐに動き始めた。
その動きは、機敏で無駄がない。
情報収集のプロフェッショナルだ。
「具体的には、どのような情報が必要ですか」
佐々木が、尋ねた。
「まず、小山領主の人物像です」
紘一は、説明した。
「年齢、家族構成、性格、趣味嗜好」
「何を大切にしているのか」
「何を恐れているのか」
「できるだけ詳しく」
紘一の要求は、具体的だった。
人を説得するには、相手を知ることが不可欠だ。
「次に、家臣の構成です」
紘一は、続けた。
「誰が影響力を持っているのか」
「領主に近い者は誰か」
「そして、各家臣の考え方は」
佐々木は、頭の中で記憶していた。
この時代、紙は貴重品だ。
メモを取るわけにはいかない。
だが、佐々木の記憶力は優れていた。
すべてを、正確に覚えている。
「それから、領地の状況です」
紘一は、続けた。
「人口、石高、軍事力、経済状態」
「すべて知りたい」
紘一の要求は、包括的だった。
領地の全体像を把握する必要があった。
「分かりました」
佐々木は、頷いた。
「いつまでに必要ですか」
「できるだけ早く。三日以内に」
紘一の指示は、明確だった。
時間がない。
一ヶ月しかない。
だから、情報収集も迅速に行う必要があった。
「承知しました」
佐々木は、すぐに部屋を出ていった。
その足取りは、速く、目的意識に満ちていた。
紘一は、伊藤と二人きりになった。
「伊藤殿、小山領主と親しい人物を知りませんか」
紘一は、尋ねた。
人脈を活用することも、重要な戦略だった。
「そうだな……」
伊藤は、考えた。
その顔は、記憶を辿っているようだった。
「小山領の家老、名を吉田という男がいる」
伊藤は、答えた。
「私の古い知り合いだ」
「吉田、ですか」
紘一は、その名前を頭に入れた。
「どのような人物ですか」
「真面目な男だ」
伊藤は、少し考えてから答えた。
その声には、尊敬の念が込められていた。
「武勇には優れないが、内政に長けている」
「小山家を支えている柱のような存在だ」
伊藤の説明は、具体的だった。
「性格は?」
「誠実で、慎重」
伊藤は、続けた。
「そして、領民思いだ」
伊藤の言葉に、紘一は希望を感じた。
領民思いなら、話が通じるかもしれない。
戦いになれば、領民が苦しむ。
それを避けるために、臣従する。
そういう論理が、通じるかもしれない。
「他の家臣については、ご存知ですか」
「そうだな……」
伊藤は、記憶を辿った。
「重臣として、山本という男がいる」
伊藤の表情が、少し曇った。
「山本……」
紘一は、その名前を記憶した。
「どのような人物ですか」
「吉田とは対照的な男だ」
伊藤の声には、わずかな警戒が滲んでいた。
「武勇に優れ、プライドが高い」
「そして、強硬派だ」
「強硬派、というと?」
紘一は、尋ねた。
その言葉には、不穏なものを感じた。
「大名に屈することを嫌う」
伊藤は、説明した。
「独立を重んじる考えの持ち主だ」
紘一は、眉をひそめた。
「それは……厄介ですね」
「ああ」
伊藤は、頷いた。
「山本が反対すれば、領主を説得しても意味がない」
伊藤の言葉は、的確だった。
「小山貞親は優柔不断だ」
伊藤は、続けた。
「家臣の意見に大きく左右される」
「特に、山本のような古参の家臣の意見は、重視する」
「なるほど……」
紘一は、考え込んだ。
吉田を味方につけ、山本を説得する。
あるいは、山本を無力化する。
それが、鍵になる。
「伊藤殿、吉田殿に会うことはできますか」
「できるだろう」
伊藤は、頷いた。
「私から、手紙を送ろう」
伊藤は、続けた。
「吉田なら、会ってくれるはずだ」
「ありがとうございます」
紘一は、深く頭を下げた。
伊藤の人脈が、この交渉の鍵になるかもしれない。
「だが、田邊殿」
伊藤は、警告した。
その顔は、真剣だった。
「小山領に行くのは、危険だぞ」
「危険、ですか」
「ああ」
伊藤は、頷いた。
「山本のような強硬派がいる」
「もしお前が臣従を勧めに来たと知れば、敵視されるかもしれない」
伊藤の声には、心配が込められていた。
「最悪の場合、捕らえられる」
「あるいは、殺される」
「……そうですね」
紘一は、その危険性を理解していた。
説得に行って、逆に捕らえられる可能性もある。
使者を殺すことは、戦国時代では珍しくない。
特に、相手を激怒させるような提案をした場合。
「ですが、行くしかありません」
紘一は、決意した。
「時間がない。一ヶ月以内に説得しなければ、戦争になります」
「分かった」
伊藤は、深くため息をついた。
「では、私も同行しよう」
「伊藤殿が?」
「ああ」
伊藤は、頷いた。
「吉田は私の知り合いだ」
「私がいれば、話がしやすいだろう」
「ありがとうございます」
紘一は、深く頭を下げた。
伊藤の支援が、心強かった。
「では、準備を始めます」
二人は、立ち上がった。




