五、戦国の食事
田邊に与えられた部屋は、小さな納屋のような場所だった。
板張りの床に、薄い筵が敷かれているだけ。布団はなく、粗末な毛布のようなものが一枚あるだけだ。
その夜、平吉という若者が夕食を持ってきた。
「田邊さん、夕飯です」
木の椀を差し出された。
田邊は、その中身を見て、思わず息を呑んだ。
粟と稗を混ぜた雑穀の粥。色は灰色がかっていて、とても美味しそうには見えない。
具は、大根のような野菜が少しと、わずかな青菜。
それだけだった。
米は、一粒も入っていない。
「これが……食事なのか」
田邊は、現代との違いに愕然とした。
現代日本では、毎日白米を食べることができる。おかずも豊富だ。肉、魚、野菜、果物。栄養バランスを考えた食事が、当たり前だ。
だが、ここは違う。
戦国時代の庶民の食事は、極めて質素だった。
米は貴重品で、武士階級や富裕層しか食べられない。庶民は、粟、稗、麦などの雑穀が主食だった。
しかも、この雑穀の粥には、塩気がほとんどない。
調味料も、非常に限られている。
醤油は、まだ一般的ではない。味噌はあるが、高価だ。
塩も貴重品で、庶民が自由に使えるものではなかった。
田邊は、恐る恐る一口食べてみた。
味は、予想通り、淡白だった。
いや、淡白というより、ほとんど味がない。
雑穀特有の苦みと、わずかな塩気があるだけだ。
大根も、生のまま刻んだだけで、調理らしい調理はされていない。
「これで、栄養が足りるのか……」
田邊は、心配になった。
現代の栄養学から見れば、この食事は明らかに栄養不足だ。
炭水化物は雑穀でなんとか摂れるが、タンパク質が圧倒的に不足している。
肉も魚もない。豆類もない。
ビタミンやミネラルも不足している。
野菜は少量あるが、種類が限られている。
この食事を続けていたら、健康を害するのではないか。
だが、腹は減っている。
田邊は、我慢して粥を食べた。
味はないが、空腹を満たすことはできる。
椀の底が見える頃、田邊は改めて実感した。
ここは、現代ではない。
食事一つ取っても、これほど違う。
生きることが、これほど厳しい時代。
それが、戦国時代の現実だった。




