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十二、紘一の部屋—不安と決意

一方、紘一は用意された部屋にいた。

立派な部屋だった。

畳が敷かれ、床の間には掛け軸が飾られている。

窓からは、城下町の夜景が見える。

無数の灯りが、闇の中で輝いている。

だが、紘一は落ち着けなかった。

窓の外には、見張りの兵がいる。

おそらく、監視されているのだろう。

部屋の中も、盗み聞きされているかもしれない。

壁が薄ければ、隣の部屋から聞こえる。

あるいは、床下に誰かが潜んでいるかもしれない。

紘一は、窓から外を見た。

月明かりの下、稲葉山城の全貌が見える。

広大な城郭。

無数の建物。

そして、至る所に配置された兵たち。

これが、戦国大名の力なのだ。

神崎家とは、比べ物にならない。

「俺は、本当に大丈夫なのか……」

紘一は、不安になった。

一ヶ月以内に、小山領主を説得する。

それができなければ、戦争になる。

そして、神崎家は斎藤家を敵に回すことになる。

その責任が、すべて紘一の肩にかかっている。

「どうやって説得すればいいんだ……」

紘一は、頭を抱えた。

小山領主がどんな人物なのか、まだ分からない。

会ったこともない。

そんな相手を、どうやって説得するのか。

紘一は、ベッド……いや、この時代にベッドはない。

筵の上に座った。

そして、考え始めた。

説得のための戦略を。

まず、情報収集が必要だ。

小山領主の人物像。

家臣の構成。

領地の状況。

すべてを知らなければ、説得はできない。

次に、説得のロジックを組み立てる。

なぜ、臣従すべきなのか。

それを、論理的に、そして感情的に訴える。

理屈だけでは、人は動かない。

感情も必要だ。

そして、最も重要なのは、信頼を得ること。

小山領主に、「この男は信頼できる」と思わせること。

それができなければ、どんな理屈も通じない。

「やれるのか、俺に……」

紘一は、自問した。

不安が、襲ってくる。

だが、同時に、不思議な確信もあった。

できる。

必ず、できる。

なぜそう思うのか、分からない。

だが、直感が、そう告げている。

これも、能力の一部なのかもしれない。

未来を予知する力。

あるいは、運命を感じ取る力。

その時、部屋の扉が開いた。

「失礼します」

入ってきたのは、若い女性だった。

二十代前半くらいだろうか。

質素だが清潔な着物を着ている。

顔立ちは整っていて、美しい。

だが、その表情は無表情だった。

感情を表に出さないように、訓練されているようだった。

「夕食をお持ちしました」

女性は、膳を置いた。

その上には、立派な食事が並んでいた。

白米の飯。焼き魚。煮物。味噌汁。漬物。

神崎家での食事とは、比べ物にならないほど豪華だった。

「ありがとう」

紘一は、礼を言った。

女性は、頭を下げて出ていこうとした。

だが、紘一は声をかけた。

「あの、一つ聞いてもいいですか」

女性は、振り返った。

その目は、警戒していた。

「はい」

「小山領のことを、知っていますか」

紘一の質問に、女性の目が、わずかに動いた。

驚いているのか。

それとも、警戒しているのか。

「小山領……ですか」

女性は、少し考えた。

その仕草は、慎重だった。

答えていいのか、迷っているようだった。

「はい、少しは」

女性は、ようやく答えた。

「あそこは、小さな領地ですが、領主様は誠実な方だと聞いています」

「誠実?」

「はい」

女性は、続けた。

「領民を大切にし、無駄な戦いを避ける方だと」

女性の言葉に、紘一は希望を感じた。

領民を大切にし、戦いを避ける。

そういう領主なら、説得できるかもしれない。

臣従することで、領民を守れる。

戦いを避けられる。

それを、うまく伝えられれば。

「それから……」

女性は、少し躊躇してから続けた。

「小山領主様は、優柔不断だとも言われています」

「優柔不断?」

「はい」

女性は、小声で言った。

「決断が遅く、いつも迷われるそうです」

「なるほど……」

紘一は、考えた。

優柔不断、というのは、弱点でもあり、説得の余地でもある。

強固な信念を持つ人物よりも、迷う人物の方が、説得しやすい。

「ありがとう。参考になりました」

「いえ」

女性は、再び頭を下げて、部屋を出ていった。

紘一は、食事を取りながら考えた。

小山領主が誠実で、優柔不断な人物なら。

戦って滅びるより、臣従して生き延びる方が賢明だと、説得できるかもしれない。

領民を守ることが、領主の第一の務めだと。

独立よりも、領民の命が大切だと。

そう、説得すればいい。

「よし」

紘一は、決意を固めた。

食事を終えた後、紘一は横になった。

だが、眠れなかった。

明日、神崎領に戻る。

そして、すぐに小山領に向かわなければならない。

時間がない。

一ヶ月しかない。

「絶対に、成功させる」

紘一は、自分に言い聞かせた。

そして、ようやく眠りに落ちた。


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